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アナログ入力に特化した据え置きモデル

人気の5モデルをどこまで鳴らせる? AKG初のヘッドホンアンプ「K1500」の実力チェック

公開日 2018/07/12 15:08 岩井 喬
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まずはHD800 Sであるが、ボリューム位置はより高まり、2時ほどとなる。クラシック音源では管弦楽器の旋律が流麗でしなやか。木管系の締まりも良く、余韻のグラデーションまで明瞭にトレース。ホールトーンも制動良く、立ち上がりの勢いも空気感良く捉える。余計な響きがないクリアな空間性で、見通し深く、ハーモニーのクールな艶が浮かぶ。個々のパートの締まりも良く、キレ鮮やかな傾向だ。楽器の粒立ちも細かく、ウェットで鮮度感も良い。

ゼンハイザー「HD800 S」

ジャズ音源ではホーンセクションのアタック&リリースを丁寧に表現。厚みとプレイニュアンスの細かさが良く出ている印象で、抑揚豊か。キックドラムとウッドベースはアタックの弾力が中心だ。シンバルとピアノはクリアで硬質な響きとなり、透明感ある音場を描き出す。

アンビエントは派手な響きとなるが、伸びやかでハリ鮮やかな余韻も楽しめる。アコギの厚みある弦は艶ハリ良く、ボディの胴鳴りは制動良い。ボーカルは密度良く、口元は明瞭かつ滑らかな輪郭感を持ち、潤いも十分。重心の低い安定感ある音像だ。

女性ボーカルのウィスパーなテイストを引き出すのも上手であり、息継ぎのリアリティや微細な表情も抑揚良く描写。リヴァーブも清々しく、澄んだ音色であり、艶やかさと凛とした芯の硬さを持たせた傾向。付帯感のないS/Nの高い音である。ロック音源もリズム隊のキレの良さ、ボーカルのシャープさを中心に、鮮明でハキハキとした表現となり、全体的に解像度指向のサウンドが展開。純A級の良さもあるだろうが、HD800 Sの持つ硬軟自在な表現力を巧みに引き出してくれる印象である。

そして600Ωという、今回最もインピーダンスの高いT1 2nd Generationであるが、こちらもボリューム位置は2時半程度だ。全体的に硬質で細身なサウンド傾向であり、ロック音源のリズム隊のアタックはタイトにまとめ、ピアノもブライトな響きを持つ。

ベイヤーダイナミック「T1 2nd Generation」

クラシック音源では弦のきめを細かく描き、ホーンも厚みよく滑らかにまとめる。立ち上がりと余韻の階調を細かく丁寧にトレース。ホールトーンは豊潤であり、華やかさとウォームさも併せ持つ。ハリ鮮やかな旋律で、潤い良くクールで澄み切った音場が広がる。

ジャズ音源ではホーンセクションがハリ良く鮮やかに展開。ピアノのアタックも硬質で、ウッドベースの弦はむっちりとした艶やかなアタック感と弾力良いボトム感が中心となる。アコギの弦もハリ良く倍音のエッジ感が煌き、シンバルワークも澄み切った響きを放つ。女性ボーカルは口元の潤いを艶良く明瞭に引き出し、肉付きもほんのりと自然に描く。リヴァーブとの描きわけも良好で、余韻の粒の細かさも繊細に表現。

三枝伸太郎&小田朋美の音源におけるボーカルの素直さ、吐息のリアルさも特筆すべきものがあり、解像度高く澄み切った音離れ良い空間性も素晴らしい。クリアで硬質なピアノのペダル音もリアルで、ハーモニクスも華やか。溌溂と放たれる直接音と間接音のコントラストも絶妙で、ホールトーンに響きに包み込まれるようだ。

最後にK1500のしなやかで温かみも感じられる純A級アンプとの相性を踏まえた組み合わせとして、ソニーのフラッグシップ機「MDR-Z1R」でのサウンドも確認してみた。

ソニー「MDR-Z1R」

70mm大型ドライバーの持つ量感豊かな中低域の鳴りっぷりの良さが素晴らしく、高域にかけてのキリっとした輪郭表現、ヌケの良さとの対比も白眉である。特に感銘を受けたのがロック音源における表現力の高さだ。

エレキギターの逞しいエナジー感を引き出すのがうまく、リフの粘り強さや歪み感の伸び、ミュートの厚み、パワーコードの力強さ、そしてキックドラムの密度良い押し出しとベースの帯域との描きわけも理想的である。なかでもドラムセットの個々のパート、タムの厚み、胴の響きの凝縮感も空気の層を捉えられる印象で、ドシッとした安定感を持つ。

♢ ♢ ♢


コンパクトさとは裏腹に、数々のハイエンドヘッドホンを表情豊かに鳴らし切る駆動力を備えたK1500の実力、躍動感ある音楽表現を十二分に堪能することができた。

AKGのヘッドホンは高域にかけての流麗さ、ある種線の細い描写に特徴を持たせている傾向が強く、アンプとの相性によってはその特徴ともいえる部分がより強く引き出され、タイトなサウンドにまとまってしまうこともある。

その点、本機はそうした部分を伸び良く引き出すだけでなく、中低域のリッチさも付け加えてくれる印象で、AKGヘッドホンの本来のバランスの良さ、巧みな音場・音像の描写性に気づかせてくれる意義深さも持ち合わせているようだ。そうした能力の高さをデスクトップサイズに収め、価格面も抑えたことは素晴らしく、非常にユーザーフレンドリーなヘッドホンアンプといえるだろう。

(岩井 喬)

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