注目のターンテーブルの誕生背景に迫る
アナログブランド「Tien Audio(ティエンオーディオ)」訪問記 ― アジアのアナログ名人はこんな人
■お小遣いをもらってはレコードを買っていた
TT3のこと以前に、そこまでレコードとプレーヤーに打ち込んだ(取り憑かれた)背景について聞くことから話が始まった。
「ヴァイオリンとピアノを子供の頃から習っていました。その関係もあって、9歳のときパイオニアのプレーヤーを買ってもらったんです。両親は仕事で忙しくて、お小遣いをもらってはレコードを買っていました。大学に入った頃はすっかりCDの時代になりましたけど、音が好きだったのでレコードを聴いていましたね。その頃、CDに切り替えた人から、レコードをどっさりもらえたのはラッキーでした」
ティエンさんは現在48歳。新しいものに飛びつきがちな十代にCDが登場したが、愛レコ家人生は揺るがずそのまま突き進んでいく。大学を卒業してから公務員になる。それとは別に試験をパスして台湾政府からの奨学金でアメリカへ渡り、建築を勉強することになった。
「渡米する前から、レコードが好きなオーディオファイルの友達が向こうにいました。留学中に彼らがレコードやオーディオの店へ連れていってくれて、それがきっかけで本格的にオーディオへ目覚めました。初めて買ったハイレベルのプレーヤーは、ウェルテンパードですね。だからここに置いてあるオーディオは、自分のコレクションの一部ですが、アメリカのスタイルに影響を受けているように思います」
■修理・整備の世界からプレーヤーブランドへ
ティエンさんは留学を終え台湾へ帰国し、公務員を続ける。しかしどうにもこうにも、オーディオを一生の仕事としたい情熱は抑えることができなかった。32歳で中古のレコードとオーディオの店を開く。オーディオといってもあくまでもレコード再生が中心だった。
「次第にヴィンテージやハイエンドのプレーヤー、トーンアームを修理する仕事が増えていきました。結局、台湾できちんと整備できる人がいなかったようですね」
台湾でどれほどオーディオが盛んなのかピンと来なかったが、翌日、市内にある電気店街を訪れて、そのボルテージの高さを知った。オーディオ専門店はあちらこちらにあり、それがほぼ路面店だから驚きである。秋葉原でこういった光景はもうとっくの昔に消えている。
腕利きのエンジニアがいると評判を呼び、オーディオ店は繁盛した。そして大きな転機を迎える。
「台湾のあるオーディオメーカーから依頼を受けて、プレーヤーの設計を行いました。しかし完成したものは、自分の意図通りではなく、あまり出来がよくなかったんですね。だったら自分で作って、設計が正しいことを証明しようと思い立ちました。そこからですね、もの作りが始まったのは」
ティエンオーディオの歴代モデルが会社に展示してある。第1号モデルは、TIEN Turntable。ボディがバーチ合板のダイレクトドライブ。台湾国内で50台ほど売り、Golden Pin Design Awardのデザイン賞も取っている。トーンアームの設計は開始していたが、まだこの時代は作られていない。
2号機はボディがアクリルのタイプ。輸出をする際、相手国が木材の種類によって輸入制限をしているため、アクリルを使っている。そのため高い切削精度が要求される。
3番目はTIEN XL。12インチの長いトーンアームに対応できるようになっている。
4番目はこれまでの流れとはまったく異なるデザイン。ダイレクトドライブの限界を知るための、プロトタイプモデルだ。外づけのモータードライブを設置してベルトドライブ式にも変更できるそうで、オーディオショウに出展したら、欲しがるお客さんが少なくなかった。僕もその重厚なデザインに目を留めたが、本人はその外観に満足していないらしく、売り出す予定はないとのこと。