注目のターンテーブルの誕生背景に迫る
アナログブランド「Tien Audio(ティエンオーディオ)」訪問記 ― アジアのアナログ名人はこんな人
■数々のプレーヤーを触るうちにあらゆる製品の長所を把握
プレーヤーを収集したり、様々なメンテナンスを行ったりしているうちに、世界のあらゆる製品の長所と短所が見えてきた。その技術的な経験値を妥協なく形にしたのが、その次に誕生したTT3である。
「TT3はベルトドライブ式で3個のモーターを使っています。1個のモーターでは軸が一定方向へ引っ張られる力を絶えず受けてしまいます。この方式では、軸はストレスなく中心へ直立できます。中心に立つ精度は低域に大きな影響を与えているんです。また3つのモーターで回すため、個々のモーターのトルクを小さくできます。理想に近いドライブ方法ですが、技術的には易しくないです。モーターそれぞれに微小な特性のばらつきがあるので、マッチングさせる必要があります。それは千個単位でモーターを買って、特殊な測定器を使って行っています。手間も資金もかかるので会社としてもたいへんなんです」
プラッターを外してモーターとベルトの部分を見せてもらう。面白いのが、モーターの軸そのものがぐにゅぐにゅと360度自在に動くようにマウントされていることだ。
「これによってモーター軸が適正なバランスで引っ張られて、3方向からうまくプレーヤーの軸を支えることができます。モーターをリジットに固定してみましたが、音はよくなかったですね」
ベルトはやや太め。それほど弾力がない。
「特殊なシリコン製です。これを探すのは苦労しました。サンプルだけでも2000種類以上は試しています。使えるのはこの1本だけでした。強いテンションで張っていないので、寿命も長いです」
TT3はプラッターをマグネットでフローティングさせている。磁石はちょっとしたことで斜めになるので、仕組みそのものはそれほどいいとは思っていないと言っていたのは意外だった。
「でも、トリプルモーターのデザインでしたら安定させることができます。傾きません。モーターが3個ですので、その振動は出ます。それをフローティングによって解決しています。簡単に見えますが、技術的には難しいことをやっているんですよ」
■台湾で200本以上の販売実績があるアーム
続いてテーマは10インチ・トーンアームのViroaに移る。
「アームは10年前から設計を始めて、Viroaを発売して3年が経ちました。台湾では200本以上の販売実績があります。世界でもこれと同じタイプのものは見たことがないですね。ピンポイントの1点支持方式です。アーム側の磁石とアームベース側の磁石が引き合うことで水平を維持しているんですね。レコードの溝が浅いか深いかで、インサイドフォースは随時変わっていくと私は認識しています。この方式で、レコードごとに異なるインサイドフォースにうまく対応できます。またレコードの内側はどうしても歪みっぽくなりがちですが、それも解消できます。私は1日に6時間もレコードをかけていますので、歪みっぽくなるなんてことは我慢できませんからね」
ティエンさんはトーンアームを100本以上コレクションしている。さんざん聴き比べたが、音は自分のトーンアームがベストだと断言する。エンジニアの独りよがりではなく、コレクターとして客観的に分析していた。
「ディテールがよく出るし、音像の位置関係もはっきりする。低域も力強い。あるお客さまから、このアームを使うと同じカートリッジでも音が大きくなると聞いています」