注目のターンテーブルの誕生背景に迫る
アナログブランド「Tien Audio(ティエンオーディオ)」訪問記 ― アジアのアナログ名人はこんな人
■レコードのマスターに着目、TT5に織り込まれた技術
試聴室にはTT3に土台がついたような特殊な形のプレーヤーがあった。上位モデルに当たるTT5のプロトタイプだった。常に工夫を重ねることを怠らないティエンさんらしい、斬新な技術が織り込まれている。
「3段階で回転トルクの調整ができます。そうする理由は、レコードを製造する工程に関わっています。カッティングレースによってマスター音源が刻まれた原盤は、時期や国などでワックス、ラッカー、メタル(DMM)など素材が異なっています。この素材によって、微小なレベルで溝の深さが異なります。つまりレコードの溝の深さはまちまちで、それに合わせてプレーヤーの回転トルクを調整すべきなんです。たとえば昔、DMM盤は音が悪いと言われていたことがありますが、プレーヤーのトルクが合っていなかったんですね」
レコードによって回転トルクの適不適があるなんて聞いたことがなかった。この新機軸が、どこまで有効なのか未知だが、まずレコードありき、次にプレーヤーやアームがあるという至極当然なことをティエンさんは語っている。
「TT5のベース部分には、スティルポインツ社のインシュレーターを取りつけて振動対策を行っています。プラッターはTT3のアクリル製に代わってデュポン社のデルリンという樹脂です。聴いた瞬間に違いが分かりますね。響きが綺麗です」
正式な発表はこの取材の後となるが、ティエンさんはいくつものアイデアを持っていて、さらにブラッシュアップを重ねていきたいということだった。
取材はひと通り終わり、自然とレコードの話になる。所有盤は、なんとここにあるものが全てではなく、この3倍の物量が台中に保管してあるそうだ。「どうにかしてレコードに刻まれた音をありのままに再現したい」。そんな激しい欲求、商売よりも遙かに強大な趣味力が、プレーヤーやアームを開発する大きな原動力になっているとしか思えない。
最後に嶋田さんへ。冒頭の件ですが、ティエンさんは音楽とレコードと再生技術を知り尽くす傑出したエンジニアでした。
「マニアは欧米に目が行く」のではなく「真のマニアは世界中に目が行く」と訂正します。
(田中伊佐資)