「TT3」のアップグレードモデル
TIEN AUDIOのアナログプレーヤー「TT5」を聴く − トルク調整機能がレコードの情報を極限まで引き出す
■音楽的に中立で雑味がなく、音楽以外の要素が伝わってこない
輸入元のトップウイング社製の朱雀というカートリッジを用いて試聴を行った。トルクは通常のLPに推奨されている「H」のポジションとした。台湾から到着したばかりの個体だったので、当初はヒエヒエのサウンドだったが、20分も経過すると目覚めてきた。明晰な音である。分解能が恐ろしく高い。静かな音ともいえる。音場が森閑と静まり返っている。雑味のない音ともいえる。いわゆるアナログ的な味つけのようなものが全くなく、レコードの音だけが聴こえてくるような印象だ。
味つけが希薄だからといってつまらない音では断じてない。ピアノトリオのピアノには濡れた瞳のような輝きと水蜜桃を思わせるフレッシュな甘みがあり、ベースには切れば血の出るかのように生々しく、ドラムスのエネルギーは脳天を直撃する。音楽的にはあくまでも中立で、楽曲・演奏への介入は一切ない。いや、それどころか音楽以外の要素がスピーカーから全く伝わってこないのである。
■トルク変更で艶や響きが変化奥の深い楽しみ方もできる
ここで、トルク値の変更による聴感の変化を探る実験を行った。まずは大胆に「L」のポジションに切り替えたのだが、エネルギーバランスが大きく変化したのには少なからず驚いた。それまでは「H」のポジションではすらりとした摩天楼型だったのが、どっしりしたピラミッド型になったのだ。「M」のポジションはその中間……と申し上げたいところだが、そうではなかった。低音の量は似たり寄ったりなのだが、こちらの方が音に艶があって響きが好ましい。トルクの問題は奥が深く、どれが正しいのかは一概には言えない。本機を手に入れたオーナーはあまり深刻に考えず、大らかな気持ちで変化を楽しんでいただきたい。
最後にメインプラッターをアクリル製のものに交換して聴いてみた。エネルギーバランスが腰高になるとともに、音が明るくなったような印象を受けた。これは好みの問題であろう。
音楽のジャンル別のインプレッションを記す余裕がなくなってしまったが、何を聴いてもエクセレントであることを保証しよう。あれこれ遊べるエスプリの効いたプレーヤーである。
(石原俊)
開発者から
ティエンオーディオ
代表
ジェフ・ティエン氏
TT5は、私たちのTT3をさらに発展させ、安定した電源供給や3段階のトルク切り換え機能、そしてプレーヤーとしての安定度を高めるベースとしての機能を追加したプレーヤーとなります。特に皆様が興味を持たれるのは、3段階のトルク切り換えだと思います。実はレコードのマスターは、時期や国によってワックス、ラッカー、そしてDMMなど素材の異なるマスターの素材によって、レコードの溝の深さが異なります。このマスターによって異なるカッティングの状況に合わせてトルクを切り換えることで、レコードの音溝からより多くの情報を得ることができます。自動車に例えれば、凹凸の多い荒れた道をゆっくりと走れば車内で感じる振動も減るように、カートリッジもレコードの状況に応じてトルクを変えることでより滑らかに動作でき、安定したトレースが行えるようになるというメリットもあります。ぜひ、TT5でご自身のレコードから新しい発見をしていただけると幸いです。(ティエン氏)
TT5 Specifications
【ターンテーブル】●駆動方式:ベルト駆動(3本、シリコン製)●モーター:ブラシレス・ダイレクト・カレント・モーター(低トルクで使用)×3●回転数:33.3/45/78rpm●回転制御:CPUによるPWM信号●トーンアーム:2本装着可能●マグネット・ベアリング●プラッター:デルリン製●デジタル・トルク・コントローラー:3段階●ワウ・フラッター:±0.015%●ベース部:航空機グレードアルミニウム(12kg)、パウダーコーティング処理●アームボード:アルミニウム製●取りつけ可能アーム本数:最大3本【トーンアームVIROA】●型式:ワンポイントピボット・スタティックバランス型●長さのラインアップ:10インチ(標準)、12 インチ(オプション)●内部配線:ヴァン・デン・ハル製純銀撚り線ケーブル●取り扱い:ENZO j-Fi LLC.、(有)トップウイング
■組み合わせた機材と試聴ディスク
●MCカートリッジ/TOPWING「朱雀」
●フォノイコライザー/ACCUPHASE「C-37」
●プリアンプ/ACCUPHASE「C-3850」
●パワーアンプ/ACCUPHASE「A-36」
●スピーカーシステム/B&W「803 D3」
●試聴ディスク
※本記事は「季刊analog」60号所収記事を転載したものです。本誌の購入はこちらから。