世界で評価されるターンテーブルブランド、そのこだわりに迫る
独Transrotor本社訪問レポート ― 自社設計、自社生産へのこだわりで生み出される「ハイエンド」
■自社ですべてアッセンブルされるシンプルかつユニークなターンテーブル
ケルン近くの閑静な住宅街を行くと現れるTransrotorのオフィス兼工場は、一見するとまさかここでターンテーブルが作られているとは思いもしないだろう。看板も何も出ていないごくごく普通の欧州建築の建物の中へ足を踏み入れると、そこには実に合理的に整えられた生産体制が広がっていた。
現在、Jochen氏とDirk氏を含めて全15名の社員がTransrotorのターンテーブルに携わっているそうだが、一点一点、ていねいに組み立てられる様はTransrotor製品のクオリティの高さを裏づけているとも言える。
まず、この日はTransrotorのターンテーブルの特徴でもある、上品な光沢を出すために行う研磨の工程を見ることができた。実は研磨に関しては本社工場内に加えもうひとつ、社員が「ファーム」と呼んでいる場所を近くに設けている。メインとなるのは、後者の「ファーム」だそうだが、本社内に設けられた研磨室でも、当然のことながら防塵服を着た社員が一点一点、ていねいにパーツを磨き上げている。Transrotorのターンテーブルが持つ独特な美しさは、こうしたハンドメイドで行われる研磨へのこだわりが大きく反映されたものと言っていいだろう。
アッセンブルに関しても実にシステマチックだ。Transrotorにとって心臓部とも言える駆動に関連するパーツの組み立て工程では、それぞれのパーツがずらりと並んだ余裕ある広さを持つ部屋で行われている。これらを一点一点、モーターの軸出しから筐体への取り付けなど、従業員自身の目でしっかり確認しながら慎重に組み立てて行く。
Transrotorのターンテーブルを見て気づくのは、どれもが「メカニカル」ということだが、実際にこのアッセンブルの工程を見ると構造そのものはシンプルに組み上げられているのが分かる。これは、他ならぬJochen氏の考え方を具現化したものだ。
「理想的なターンテーブルとは素晴らしいサウンドを持ち、独自のユニークなデザインを持っていること。そして使いやすく、アップグレードが容易で、メンテナンスが簡単なターンテーブルです。また、ターンテーブルはトーンアームとカートリッジのために安定した土台であることが大切で、ターンテーブルの音自体にカラーレーションがあってはいけません。これは簡単なことに思われるかもしれませんが、実際には特定のサウンド特性を付加するターンテーブルを設計するほうがはるかに簡単です」(Jochen氏)
ただし、シンプルとはいえそこに盛り込まれたアイデアは極めてユニークだ。TMD(Transrotor Magnetic Drive=マグネットを使ったクラッチ機構)、FMD(Free Magnetic Drive=非接触磁気結合ドライブ)といった軸受けはまさにそのことを示す理想的なドライブ方法だ。
後者のFMDは、プラッターとモーターの間に機械的な接点を持たせず、磁気の力を使って結合させ、モーターのコギングや振動を伝えないようにするというTransrotorの代名詞とも言える機構だ。また、ターンテーブルに直接ベルトを掛ける弊害をなくすと言う点は、FMDとTMDに共通したポイントで、モーターの振動に起因する悪影響から、完全に回転を切り離した構造となっている。
音溝に刻まれた微細な音楽信号を取り出すことが基本原理となるアナログ再生において、振動対策はなによりもサウンドを左右するといわれている。Transrotorは、この課題を柔軟なアイデアで解決しているのだ。
こうしたユニークな機構を見ていると、自社内の目に届く範囲でほぼ全てを完結させているTransrotorのものづくりには、同社の製品クオリティに対して俄然大きな意味を持っていることに気づく。