バイアンプ駆動の検証も
2chじゃダメなんですか? マランツ「NR1609」で5.1.2chと2chの映画再生をガチ比較
「センタースピーカーは必須か」という問いは、実際にホームシアターに取り組んでいる方々においても議論のテーマになる。ハイエンドオーディオシステムとホームシアターを共存させる場合、L/Rスピーカーと同クオリティのセンターを用意することが難しいケースも多い。L/Rスピーカーに対して貧弱なセンタースピーカーを用意するくらいなら、センターをファントムとした方が好ましいクオリティが得られるという考えもある。
試聴ソースは、2010年に公開された人気ミュージカル映画「バーレスク」。ダンスホールでクリスティーナ・アギレラが歌うシーンでセンタースピーカーのあり/なしを切り替え、ボーカルの実体感を確認した。
まずはフル構成の「5.1.2」、次にセンターを外した「4.1.2」で視聴したのだが、結果として今回の試聴環境ではセンタースピーカーなしでも十分満足できる臨場感が得られた。やはり近年のスピーカーは音像定位の表現能力が高いので、画面中央で見ればしっかりとセンター位置から声が聞こえてくるのだ。
ただ、今回はプロジェクター環境とはいえ、実際の家庭環境に近い比較的近距離での視聴だったことも大きいかもしれない。今回のような環境のようにセンタースピーカーを画面下部に設置すると、角度や環境によってはセリフ位置が下がってしまうので、そもそもセンタースピーカーは設置環境に音が左右されやすいという一面があるのだ。無論、サウンドスクリーンなどを用いればこの問題は解決するのではあるが、そうするとリビングで使いやすいとは言いがたい。
センタースピーカーを追加すれば、試聴位置が正面から外れても声が画面中央にしっかり定位することは大きなメリットといえるだろう。
■バイアンプ駆動の検証
ここまで、厳格なスピーカー本数にこだわらなくてもサラウンドが楽しめることを紹介してきた。しかし、そうなると「マルチチャンネルアンプが入っているのに、それを活かせないのはもったいない」と思う方もいるだろう。
そんな方にお薦めしたいのがバイアンプ駆動という方法だ。今回使用したRUBICON 6は、高域用と低域用の2つの入力を備えている。そこで、合計7チャンネルのアンプを持っているNR1609の特徴を生かして、高域と低域を別のアンプで駆動し、更なる高音質再生を狙うのである。
このバイアンプ接続で、通常の接続でも視聴したアンドリス・ネルソンスを再び再生したのだが、結果から言うと、音が出た瞬間から衝撃だった。はっきり言って、全帯域の力感が先ほどは全く違うのだ。バイアンプ駆動にすると、スピーカーがより生き生きと鳴り出す。決して誇張して書いているのではなく、周りにいた取材陣も驚くほど音が良くなったと口々に話していた。まるで2クラスほど上位のアンプに変えたような、劇的な音質向上効果が感じられた。本機を購入された方、また既に所有している方は、絶対にバイアンプ駆動を試すことをお勧めする。
NR1609の魅力を、2つのポイントに分けて検証してみたが、いかがだったろうか? まず2チャンネルの音質については、AVアンプながらピュアアンプと比べても遜色ないサウンドが実現できていた。ちなみに本機の音質チューニングは、マランツオーディオビジュアル製品の音質チューニングを一手に引き受ける、尾形好宜氏が担当している。結果、筆者にもあった「AVアンプは2chピュアアンプと比べて音質が低い」というイメージを払拭してくれるサウンドとなった。
また、もう1つのテーマである「リビングで使いやすいスピーカー配置を探る」については、実際にフルのサラウンド環境でなくても、一定以上の満足する音を出すことができた。もちろんセンタースピーカーやサブウーファーがあったほうが良いに越したことはないが、AVアンプとスピーカーのクオリティをしっかりと考えて組み合わせれば、今回のように2チャンネルでも臨場感ある音が楽しめるということだと思う。したがって、場所や予算に限りがある場合は「まずは2チャンネルから始める」というのもアリだろう。
いずれにせよ、1つのシステムでサラウンド環境と2チャンネルを、どちらも高いレベルで楽しめるアドバンテージは大きい。NR1609はエントリークラス最強のAVアンプである。
(土方久明)