フラグシップのノウハウを惜しみなく投入
デノンのミドル級AVアンプ「AVR-X4500H」レビュー。力強さと静寂感を手中にした高コスパモデル
松田聖子の『裸足の季節』(96kHz/24bit FLAC)は、語尾の伸びが聴きどころ。機器によっては歪みがちな部分だが、本機では刺激感が無く実にマイルドかつスムーズに空間に溶けて消えてゆく。静寂に吸い込まれるかのようだ。歪みも感じさせない一方、要所のキラキラ感も美しく、絶妙なチューニングであると同時に、物量を投じた高級サウンドの威力を感じた。総じて、ソフトで心地良い歌声が最高に楽しめた。
続いては、高S/Nの優秀録音音源、ポール・マッカートニーの『I'm Gonna Sit Right Down and Write Myself a Letter』(96kHz/24bit FLAC)。ベースの堂々とした弾力感と響きをゆったりと再生。柔らかな音色は実にアナログライクで、「AL 32 Processing」の威力とDA変換の良さを実感できる。試聴の際は、どんな楽曲であれ、低域の力感や温かみに耳を傾けると分かり易く、デノン製品を選ぶ理由となり得るだろう。
筆者がリファレンスの1つとしているスーザン・ウォンの『How Deep is your Love』(192kHz/24bit FLAC)は、音色の再現が忠実でボーカルが甘美になり過ぎず、本来の魅力をたっぷり引き出す。曲に込められた軽やかで華やかなエアー感も存分に楽しめた。中低域の圧迫感を少なくグイッと押し出す力感は、電源系の強さが感じられるもの。弾む心情をキレの良いリズムと爽快な空気感で見事に再現してくれた。
AVレシーバーで豊富なラインナップを揃えて気を吐くデノン。過去モデルで培ったアナログアンプ技術の確かさ、最新フラッグシップのAVC-X8500Hや上位モデルのAVC-X6500Hで磨き抜いたハイレゾ時代のデジタル技術やそれに応じたアナログ回路技術など資産の豊富さは業界随一といえる。
AVR-X4500Hは比較的手軽な価格ながら、そうしたノウハウが惜しみなく投入され、コストパフォーマンスの高さは驚くべきものである。
力強さだけでなく、しなやかさや静寂性も備えた品位の高さはハイファイライクで、ホームシアターからネットワークオーディオまで上質に楽しめる。この冬最も注目したいモデルの1つだ。
(鴻池 賢三)