「Broadway/S」「Formula S」
XI AUDIOの新型DAC「SagraDAC」&ヘッドホンアンプを一斉レビュー。創設者がポイントを解説
SagraDACのサウンド
■デジタルっぽさが皆無の基本性能に優れた音楽表現
音質については音元出版の試聴室でハイエンドスピーカーを用いて行った。はじめにPCMソースから聴き始めたが、まず感じたのは音再現が極めて滑らかで自然であるということだ。普通デジタルオーディオの音は角が立っていてキツさがあるものだが、「SagraDAC」の音はスムーズでそうしたキツさがほとんど感じられない。これは楽器の音でもヴォーカルでもよくわかるが、人の声、特に歌というよりもMCなどの普通に会話しているところでわかりやすい。これはPCMの再生において変換が必要なく直接アナログ化できるというマルチビットDACの特性によっている点が大きいと思う。それに加えて電源などDACのアナログ系統も良質であるのだろう。
高音質録音盤であるAcoustic ArtsのCDからリッピングした『Eternal Desert』を聴くと、ダイナミックレンジが大きくて試聴室が揺れるほどの打撃感や音の歯切れの良さに驚くが、それでいてデジタルっぽさがまるでないことに感心する。低域の重みや深さがとても低く沈むことで、基本的なDAC性能が良いのもよくわかる。
アカペラグループRajatonの曲『Walking In the Air』ではまるで真空管アンプのような滑らかさだが、それでいてソリッドステートらしく全く歪み感がなく端正である。また余分な着色感は少ない。また微小レベルの再現性にも優れている。音の空気感・楽器音の重なりの深み、あるいは弦楽器が擦れる音の生々しさは素晴らしい。シャオ氏に尋ねると、こうした点が、前述した27bit精度の余剰の3bitの効いているところだという。
ジャズカバーのヴォーカルとギターのデュオ、FriedPrideのハイスピードの曲では、とてもノリの良さを感じ、思わず曲に合わせて手や足を動かしてしまう。「SagraDAC」は柔らかい音再現だが、決して音が遅いというわけではない。しっとりした美しい曲からハイスピードな曲まで対応できる懐の深さがあり、それは基本的な性能が優れているからだろう。
一方で、興味深いのはDSD音源の再生だ。DSDでもかなり高いレベルの音質が感じられるが、他のDACでDSDネイティブで再生した音に比べると音の角がやや立ってデジタル臭さが少し感じられる。これは他のDACがPCMを再生するときに感じるデジタルっぽさに似ている。おそらく「SagraDAC」ではDSDはPCMに変換されるのでその際に生じる「アーティファクト(変換副作用)」であるのではないだろうか。これはDSDネイティブ方式の逆ともいえ、つまりマルチビットDACとはPCMを再生するときに特に効果のある、いわばPCMネイティブ方式であるということも言えるだろう。
依然として世の中の音源はPCMが主流であり、PCMを再生した時に、滑らかで自然、デジタルっぽさが皆無のマルチビット形式、また高いダイナミックレンジ、ジッターの抑制、解像感の高さなど基本性能が良い「SagraDAC」は、素晴らしい音楽再現を約束してくれると感じた。
Formula S/Broadway/Broadway Sの概要
■あらゆるヘッドホンを平然と鳴らしきる高駆動アンプ
XI AUDIOはヘッドホンアンプも用意している。「Formula S」というシングルエンドの弩級アンプと「Broadway」というバッテリー駆動のヘッドホンアンプだ。
「Formula S」はXLR端子が採用されているのでバランス駆動のように見えるが、シングルエンドタイプであり2chの通常のヘッドホンアンプだ。これはハイエンドのヘッドホンがXLRのバランス端子を有していることが多いので、その便宜のためだという。つまりシングルエンドにはシングルエンドの良さがあり、シングルエンドでも平面型のようなハイエンドヘッドホンでも十分に鳴らせるという自信の証だ。
シャオ氏が語るには、アンプ設計は歴史が古いので基本形式はだいたい決まっているという。しかし、音が違うのはそれを活かす設計者のセンスである。つまりFormula(形式)という名前は基本というルールに則っているが、音質は設計者のセンス次第だというメッセージでもあるそうだ。またフォーミュラーカーのように競争を勝ち抜くという意味もあるという。
「Broadway」はバッテリー駆動のアンプで、バランスタイプの『Broadway』とシングルエンドタイプの『Broadway S』がある。「Broadway」という名前はニューヨークのブロードウェイから取ったネーミングで、ブロードウェイは世界的に有名だが長い斜めの道という特徴もあるそうだ。つまり「Formula S」が基本に忠実な古風で直球の設計ならば、バッテリー駆動の「Broadway」はルールに従わない斬新な変化球という意味が込められている。
「Broadway」はバッテリー駆動だが、一般的なバッテリー駆動のデジタルプレーヤー等とは違い昇圧せずに回路を動作させているという点が特徴だ。これはおそらく世界初ではないかという。一般的なオーディオ回路は普通は安定して動作させるために15V程度の電圧が必要だが、デジタルプレーヤーはそれほど高い電圧のバッテリーを使用できないため、昇圧をして回路に供給している。バッテリーはきれいな電力を供給できるはずだが、昇圧のためには余分な昇圧回路やICを経ることになるため、せっかくのきれいな電力を汚してしまう。「Broadway」では3.7Vのバッテリーを4つ直列に使用して約15Vにすることで昇圧しないで電力を供給している。そのためバッテリーの電力をきれいなままで使えるというわけだ。
「Broadway」は小型でバッテリー駆動ではあるが、バランスタイプ・シングルエンドタイプともに駆動力は高く、ゼンハイザーの「HD800」でも問題なく鳴らすことができる。またAbyssの「AB1266Phi」でも他社の平面型ヘッドホンでも駆動できるほどのパワーが出せるという。もちろん回路はクラスAで良質なパーツを選択して採用している。
シングルエンドタイプである「Broardway S」は、「Formula S」と同様にハイエンドヘッドホンの便宜のためにXLR端子が用意されている。ちなみにシングルエンドのタイプがあるのはバランスの廉価版という意味ではなく、ヘッドホンのタイプによって使い分けてほしいという意味がある。一般にシングルエンドアンプの出力はバランスアンプの1/4になる(バランス回路は実質BTL構成だから)が、その一方でよりノイズが少ないというメリットがある。そのため一般のヘッドホンや高感度IEMには、シングルエンドタイプの方がおすすめとなる。
ゲインを設ければよいのではないかとシャオ氏に尋ねてみたが、これはゲインの問題ではないそう。ローゲインをつけてもバランスだと過剰であり、適切な設計が肝要であるとのことだ。
それぞれに適切なヘッドホンを例示してもらうと、バランスタイプではAbyss 「AB1266Phi」、ゼンハイザー「HD800」、平面駆動型全般。シングルエンドタイプでは、フォステクス「TH900」、ファイナル「D8000」、フォーカル「UTOPIA」、グラドとソニーのヘッドホン全般、またイヤホン全般とのこと。ちなみにバッテリーのみでバランスタイプは6時間、シングルエンドタイプは11時間の稼働が可能だ。
Formula S/Broadway/Broadway Sのサウンド
■スムーズで着色感の少ない自然な音質
音質はXI AUDIOの「SagraDAC」との組み合わせて試聴。ヘッドホンはAbyss の「AB1266Phi」と「Diana」を使用した。「Formula S」はシングルエンドらしい素直なスムーズな音で、マルチビットのDACと相性良く感じる。「AB1266Phi」でさえ十分鳴らし切るパワーも感じた。
「Formula S」専用の外付け電源製品である「Powerman」も試してみる。ディスクリート構成でアンプの考え方で作られており、電力の変化というより音質の変化に着目して設計されているそう。実際に「Powerman」を介して「Formula S」を聴き直してみると、より厚みがあってノイズが減り音質的に向上が感じ取れた。つける前の音とはかなり別物であり、オーディオにおける電源設計の重要さがよくわかった。
「Broadway」では「AB1266Phi」でも十分に鳴らすことができ、やはりなめらかで着色感の少ない自然な音質を感じた。「Broadway」単体でも「Powerman」つきの「Foumula S」に負けないくらい音の厚みがあるので、電源の品質も高いと思う。
マルチビットDACと「Broadway」や「Formula S」の組み合わせは、上流からアンプまで滑らかで厚みがあって一貫性が高い。XI AUDIOのポリシーが、音の質を重視することであるということが十分に感じ取れた。