【特別企画】密閉化による音色の変化も見逃せない
STAX「CES-A1」 レビュー&開発者インタビュー。コンデンサー型イヤホンの先駆けを“現代的”にアップデート
すでに十分なクオリティを持つサウンドであるが、CES-A1との組み合わせではよりスピード感溢れる、タイトでキレ味に優れたサウンドへと進化する。ボーカルはスカッとヌケ良く際立ち、ピアノの響きも階調性が一段と細かくクリアなアタックを聴かせてくれた。
重心がより低くなり、ナチュラルで生々しい描写がこれまで以上に実感できるようになる。ウッドベースの弦の動きも艶が乗り、胴鳴りの引き締め効果も相まって明瞭感が数段向上。キックドラムのアタックも軽快で、空気の押し出しも素早くなる。
オーケストラはハーモニーのパワーが増したように感じられ、リリースの密度感も適切にコントロール。緻密な階調性と、ダンピング良いローエンドの表現により、音場の透明感もより良くなっている。特に中域のエナジーが充実しており、ドラムのタムの響きやボーカルのボトム感を存在感豊かに描き出す。ただ量が多いというわけではなく、輪郭は引き締め、フォーカス良い定位を見せている。高域方向への倍音成分も豊かであり、シンバルの煌びやかさも嫌味がない。アタック感を重視した現代的な傾向が強まった印象だ。
CES-A1の登場により、SRS-002やSR-003MK2の持つ実力を改めて再確認することができたことは非常に大きな収穫である。初代モデルのSR-001が誕生したのは24年前の1995年。会社の体制やモデルチェンジを繰り返しつつも、基本的な発音体構造は変えず、流行り廃りの激しいポータブルオーディオ市場の荒波を越えてきた。
コンデンサー型イヤホンも昇圧トランス込みの提案や、密閉型カナル方式のものなど、選択肢も広がりつつあるが、ロングセラーを続けるスタックスの“SR-001系”はいずれの製品よりも手頃な価格で手に入り、20mmの大口径ユニットから放たれる低域の豊かさはイヤホンの世界を越えたリッチなものである。
CES-A1によって時代に即した遮音性能と解像度重視のサウンドを実現できるようになったことは大いなる福音といえるだろう。ぜひCES-A1を組み合わせ、世界随一の大口径コンデンサー型イヤホンのサウンドを楽しんでいただきたい。
(岩井 喬)
【試聴音源】
・飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラ コンサート2013『プロコフィエフ:古典交響曲』〜第一楽章(96kHz/24bit)
・デイヴ・メニケッティ『メニケッティ』〜メッシン・ウィズ・ミスター・ビッグ(CDリッピング:44.1kHz/16bit・WAV)
・長谷川友二『音展2009・ライブレコーディング』〜レディ・マドンナ(筆者自身による2.8MHz・DSD録音)
・『Pure2-Ultimate Cool Japan Jazz-』〜届かない恋(2.8MHz・DSD)
・Suara「キミガタメ」11.2MHzレコーディング音源
(特別企画協力:有限会社スタックス)