【特別企画】VGPアワード審査員3名が徹底検証
新4K衛星放送チューナー内蔵 液晶ビエラ「GX850」を全方位チェック!
■Dolby Atmos対応、パワフルな設計
液晶ビエラ「GX850」シリーズの音質面での特徴は“ダイナミックサウンドシステム”と銘打たれた、こだわりのオーディオ設計にある。
画面左右表向きにスピーカーを配するのではなく、下向きのスピーカーを採用。独自の測定方法に基づいた位相補正によって、音響特性や音像定位を改善させ、Dolby Atmosへの対応を実現したことが大きなトピック。さらに大容量のスピーカーボックスは剛性を高めるための凹凸形状を採用し、振動の影響を低減させ、歪みを抑えたサウンド再生を実現させている。用いているスピーカーの詳細は明かされていないが、楕円形状のフルレンジユニットが左右1発ずつ搭載されているとのこと。つまりこの2発のスピーカーだけでDolby Atmosを実現しているということでもあり、どれほどの立体音場効果が得られるのか、非常に興味深いところだ。
音声処理においては低ノイズ・低歪を実現させるため、映像と音声用の回路を分離させた、独立構成のオーディオ専用サーキットを搭載。またアンプは同価格帯製品の場合、左右のステレオ信号をワンチップで増幅するところを、左右独立したアンプを用意。これにより左右セパレーションの向上に加え、国内仕様限定のハイパワー化(左右合計・実用最大出力30W)を実現し、よりパワフルで余裕のあるサウンド再生が可能となっている。
「GX850」の音声モードには、バランス指向の「スタンダード」、音楽コンテンツに最適なメリハリよい傾向の「ミュージック」、人の声をより聴きやすくする「快聴」、スポーツ番組に適した臨場感重視の「スポーツ」、さらに個々にカスタマイズできる「ユーザー」の5種類を用意。なおユーザーモードでは高域・低域の量感を調整できる『トレブル』『バス』の代わりに8バンドのグラフィックEQ仕様となる「イコライザー」が開放される。
基本的な音質調整の中には「Dolby Atmos」と「サラウンド」という項目が個別に用意されており、通常時は「Dolby Atmos」がオンの状態で問題ない。「サラウンド」に関しては、Dolby Atmos以外の2chコンテンツ時にサラウンド効果を与えるかどうかの項目で、“Dolbyサラウンド”はDolby Atmosの立体音声にアップミックスを行うもの。“シネマサラウンド”は広がり感と定位感のバランスを両立させ、映画視聴に最適化させた独自設定、“スポーツサラウンド”はスポーツ番組視聴に最適な広がりある空間性によって臨場感を生み出す独自設定で、映像モードで「スポーツ」を選べば自動連動で“スポーツサラウンド”になる。
■スピーカー2本とは思えない空間表現力
音質面でのクオリティ確認であるが、まずは「DMR-SUZ2060」で録画した4K放送のコンテンツのなかから、昨年末の『第69回NHK紅白歌合戦』を選び、チェックしてみた。
まず、「ミュージック」を選択したが、低域増強の効果もあり、リズムパートの密度感、コシのある表現を楽しめる。歌手の歌声は比較的スマートで、高域成分の際立ち感を中心にまとめる印象だ。明瞭度は高く、スピーカーが下向き配置であることを思わせない、画面中央へ自然に定位する音像感にも驚いた。ストリングスもハリよくスッキリと浮かび上がり、シンセサイザーやシンバルなど、高域にかけて特徴のあるパートを煌びやかに表現。次に「サラウンド(Dolbyサラウンド)」を有効にしてみると会場内のざわめきや歓声が粒立ちよく広がる。一旦スタンダードモードに切り替えてみると、落ち着き感のある傾向となり、歌手の声もボトム感を持たせたナチュラルな描写となった。歌もの以外のコンテンツも確認してみたが、MCやナレーションなど、声の帯域の密度と明瞭さに主軸を置いたバランスで整えられ、際立ちのよい人の声を聴くことができる。
続いてパナソニックのUltra HDブルーレイプレーヤー「DP-UB9000」と組み合わせて、パッケージソフトでも確認していこう。
まず、Dolby Atmosのデモディスクで定番の『リーフ』など、様々な音源を確認してみた。「GX850」のDolby Atmos機能を有効にした状態でDolby Atmos収録作品を再生すると、TV側で信号を検知し、“Dolby Atmos”のロゴが表示される。テレビ本体に搭載されているのが下向きのスピーカーにも関わらず、天井や後ろ方向からの音も自然に感じられ、Dolby Atmosならではのイマーシブ感を十分に味わうことができた。TV画面に対して頭の高さを平行に揃えることで最大限の効果があるように感じられたが、もちろん決してスイートスポットが狭いわけではない。
次にDolby Atmosで収録された『エクスペンダブルズ3』の冒頭シーンを確認してみたが、BGMは広がりよく、周囲を回り込んでくる。ローエンドの響きは深く、メリハリよい。セリフは腰高で発音の明瞭さに重きを置いている印象だ。銃声などのSEは高域の甲高さを抑えつつ、粒の細かいニュアンス感をうまく引き出してくる。低域強調をオンにすることで爆発音などをより豊かに表現できるようになるため、全体のバランス感も向上するようだ。ヘリのホバリング音など上方向からの音も適度に感じ取れるが、画面からほんの少し上あたりに定位する感触である。しかしながら下向きスピーカー2本で表現しているとは思えない空間表現力であることは確かに実感できた。
さらにもう一つ、『カーズ/クロスロード』のUHD BD盤をチェックした。こちらには英語のDolby Atmos音声が収録されている。チャプター3のマックイーンがクラッシュするシーンでは浮き上がる車体が移動してくるさまがリアルだ。ふわっと物体が動いてくるエアー感を自然に描き出し、前後方向の移動感もしっかりと感じ取れた。またチャプター9の泥レースのくだりでは、泥のびちゃびちゃとしたSEの質感をくっきり明瞭に引き出しつつ、セリフは落ち着きを持って、かつ鮮明に描写。拡声スピーカーのアナウンスも空間性よく浮き上がっている。低域強調を有効にするとBGMのボトム感が増してリッチさが向上。特にエレキギターのコシが出るようになる。8の字型コースの移動に合わせてこのエレキギターの音が左右に動く場面も立体的な移動感でパンニングしており、この部分がTV内蔵の下向きスピーカーで豊かな空間性を持って表現できることは驚いた。
最後に、ドルビーデジタルTrueHD・6.1chで収録されている『スカイ・クロラ』を「スタンダード」モードでチェックした。基本的にセリフはシャープに描き、BGMも高域のクリアなスッキリとした傾向である。「サラウンド(Dolbyサラウンド)」機能を有効にし、チャプター15の空戦シーンを確認してみたが、サラウンドによる左右方向への広がりのよさとBGMのハリ感の向上による分離の良さも手伝い、個々のSEも鮮明に浮き上がってくる。戦闘機の移動感はコンパクトであるものの、粒立ち細かくエンジン音や銃声のニュアンスを拾い上げてくれた。爆発音は低域より中高域の破裂感を優先するような印象で、ドスドスと量を多く表現するようなことはない。
Dolby Atmos収録作品はもちろん、放送コンテンツや旧作BDまで。TV画面から飛び出してくるような臨場感ある音場、さらにはTV画面内を中心とした空間の密度感、明瞭さを両立できることに「GX850」におけるサウンドの優良点を見出すことができるだろう。
(岩井 喬)
(特別企画 協力:パナソニック)