合計700万円の最高峰システム
超重量級メカと独自DACで究極のその先へ。エソテリックのセパレートプレーヤー「Grandioso P1X/D1X」を聴く
■“エソテリックの音”を追求すべくDACの自社開発に挑んだD1X
P1Xがエソテリックのメカトロニクスの集大成とすれば、D1Xは理想のD/A変換プロセスを追求した渾身の作だ。これまでデバイスメーカーから購入していた基幹部品を自社設計のディスクリート回路に置き換える作業はきわめて難度が高く、開発には2年を要したという。
エソテリックは10年以上前から旭化成エレクトロニクス(AKM)と緊密な関係を維持して同社の32bit DACを使い続けてきたが、“エソテリックの音”を貫くためにはD/A変換処理も含めて自社で設計することが必要と判断。独自のアルゴリズムを組み込んだFPGAと大規模なディスクリート回路を組み合わせ、同社初となる64bit処理の高精度な「Master Sound Discrete DAC」を完成させた。
FPGAは2基搭載し、前段のデジタル基板側のFPGAではPCM信号のアップコンバート(RDOT)、PCM→DSD変換処理などを受け持つ。後段のDAC基板ではデジタル/アナログアイソレーターを介して2つ目のFPGAに信号を受け渡し、そのFPGAと後段のディスクリート回路でΔΣ変調をベースにした独自方式のD/A変換が行われる。
ΔΣ変調回路のアルゴリズムの詳細は公開していないが、計9レベルのマルチレベルΔΣ変調をFPGAで実現しているとのこと。また、設定メニューのなかにアルゴリズム変更の機能が用意され、モード1からモード3まで3種類の設定を好みに応じて選ぶことができる。
基板上でひときわ目を引く半円形の回路が、8つのエレメントで構成されるディスクリートDAC回路に相当する。チャンネル当たり計4つのDAC回路が差動でD/A変換を行う仕組みだ。チャンネル当たり32回路の各エレメントは抵抗とロジック素子を組み合わせたもので、エレメントごとに独立した電源供給路が確保され、等距離で配置された中心部に出力信号が集結、ローパスフィルターを経てアナログ信号として出力される。抵抗はいずれも高精度なMELF抵抗をさらに選別して採用している。
MELF抵抗は表面実装のチップ抵抗よりもサイズが大きく、特性も優れているという。DACチップの場合は、半導体で作った微小サイズの抵抗に特性のばらつきが生じて歪を生じることがある。一方、チップの外に出してディスクリートで組むと、基板の規模は大きくなるが、音質面では大きなメリットが期待できるのだ。
実はこの基板は前作「D1」のDAC基板と同じサイズなのだが、D1では8個のDACチップ(AK4495S)が横一列に整然と並んでいたので大きさをあまり意識させなかった。一方、今回のDAC基板は中央のFPGAを挟んで左右に2回路ずつディスクリートDACを並べる構成。デジタルに限らず直線的な基板レイアウトが圧倒的多数を占めるなか、D1XのDAC基板の弧を描く部品配置には個性の主張があり、存在感は圧倒的。再生音への期待が募る。
どんな音を目指したのか、開発部長の加藤氏に音作りの狙いを尋ねると「AKMのDACは“Velvet Sound”を掲げている通り、ベルベットのようななめらかな階調表現に良さがありましたが、今回のディスクリートDACはそれに加えて、瞬発力を引き出すことを目指しました」と、明確な答えが返ってきた。
メカニズムの新規設計と低重心化、ディスクリートDACの自社開発という思い切ったテーマに挑戦した背景には、妥協することなく「エソテリックの音」を追求したいという強い意志が存在し、コストに縛られないフラグシップならそれが実現できるという確信があったことがうかがえる。
次ページ外見はP1/D1と変わらずとも、変化の大きさには音を聴けば一瞬で気付く