HOME > レビュー > こんなカーブに誰がした?〜麗しきイコライザーカーブの世界〜【第1回】

アナログレコードのEQカーブの謎に迫る

こんなカーブに誰がした?〜麗しきイコライザーカーブの世界〜【第1回】

公開日 2019/04/18 12:00 和久井光司
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE

■「各レコード会社がマスター・テープをつくるときの基準がそれぞれにあるとしたら、どうなる?」

RIAAカーブの特性

英国のDECCAは、ポップ・ミュージックの録音においては1950年代からEMIよりも優れていると言われていた。EMIはDECCAのスタジオを真似てイコライザーやリミッターを自社開発したという話をアビー・ロード・スタジオの歴史本で読んでいたから、ストーンズのオリジナル盤の音の悪さに私は疑問を持っていたのである。

私がそう言うと、先輩の先輩、「さて、ここからが今日の本題なんだ。和久井くん、イコライザーカーブって知ってる?」と訊いてきた。もちろん知っている。これでも300曲ぐらいの録音に関わってきたプロのミュージシャンだ。EQでアッチを上げたりコッチを下げたりして、同じ周波数帯に多くの楽器が並ばないようにするのはレコーディングの常識。メイン・ヴォーカルを中域のど真ん中にしたら、コーラスをEQして、真ん中よりちょっと上を膨らませたりすると、メイン・ヴォーカルと重ならないうえに艶やかになって、明るい感じに響いたりする。

「そうそう。EQってのはそういうものだよね」と先輩の先輩。したり顔である。

「そのEQのカーブに、各レコード会社がマスター・テープをつくるときの基準がそれぞれにあるとしたら、どうなる?」

私は「え?」と絶句してしまった。そういうことなら、DECCAのレコードとEMIのレコードを “同じ設定” で聴いていること自体がおかしいことになる。いくらオリジナル盤を揃えても、各社が基準とするEQがバラバラなら、どんなレコードでもマスター・テープに近い音になる設定なんかあるわけがない。なるほど、各社のイコライザーカーブを自分のリスニング環境で再現すれば、レコードはよりマスター・テープに近い音で聴ける。

FFRRカーブとRIAAカーブの比較

FFRRカーブのレコードをRIAAカーブで再生した時の特性

しかし、全レコード会社が “イコライザーの基準を統一”して、それに合わせたレコードをカッティング/プレスしてくれれば、いちいち自分でEQを変えなくてもいいではないか。

うんうん、と頷きながら先輩の先輩。「誰だってそう思うよね。レコード会社だって、お前のところの盤は音が悪いなんて言われたくない。だから1953年に、全米レコード協会=RIAAがイコライザーカーブを統一したんだよ。これはRIAAカーブって呼ばれてるんだけど、実は、みんなおいそれとそれに従わなかったかったらしいんだ。英国のDECCAなんか、モノラルの赤レーベル時代は、ほら、耳のマークのところにFFRRって書いてある。これ、『Full Frequency Range Recording』って意味で、DECCAのカーブはFFRRカーブとも呼ばれているほど特徴的なんだ。青いステレオ・レーベルになると真ん中にFFSSのマークが躍り出て、DECCAのマークの下にデカデカと『Full Frequency Stereophonic Recording』と書いてある。これはストーンズの時代になっても、DECCAはRIAAカーブに合わせていなかった根拠となり得ると言えるんじゃないか?」

「俺はそう思ってストーンズやジョン・メイオールのオリジナル盤を集めてみたんだが、完全にモノラルの時代、つまり、66年ごろまではDECCAのFFRRカーブは明らかに生きている、という結論に達したわけだよ。」

次ページビル・ワイマンのベースが、ブンブン鳴っているではるではないか!

前へ 1 2 3 次へ

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE

関連リンク