海上忍のラズパイ・オーディオ通信(56)
話題のAudio over IP規格「Diretta」で、ラズパイが“ネットワークDAC”になる
■「ラズパイでDiretta」のこれから
PCの再生音をラズパイ・オーディオのもっともプリミティブな部分であるALSAへ直接出力でき、LANケーブルで直結すればOKという導入の容易さを評価したことが、1bcにDirettaを採用した最大の要因だが、実装の容易さも理由として挙げておきたい。
1bcでは、PCから送信されてきた信号を受ける「Diretta Sink」をどのようにシステムに組み込むかが重要になる。以前にも説明したとおり、1bcのベースにはRaspbian Lite ーー Raspberry Pi財団を中心に開発/メンテナンスが実施されている公式Linuxディストリビューション ーー を採用しており、そこでは「systemd」という機構によりシステム常駐型のサービスを管理しているため、Diretta Sinkもsystemdで管理することにした。
MPDとの切り替えは、現在のところ赤外線リモコンを利用している。ALSAへのアクセスをMPDに握られたままではDirettaがオーディオ出力できないため、赤外線リモコンのとあるボタン(既存品を流用しているので適当に信号をアサインしたもの)を押すとALSAのアクセス権がDirettaへ移るようにしたのだ。MPDとの垣根を意識しない実装を実現したいところだが、それは今後の課題になる。
Macのサポートも課題といえる。2019年5月現在、Diretta SyncとしてのMacサポートは実現されていないが、すでに“Diretta Sync機能を組み込んだ再生コマンド”は存在する(発表会のとき少しだけ紹介)。
Diretta開発元によれば、MacのオーディオシステムであるCore Audioに対応したドライバープログラムを開発中とのことで、そうすればAudirvanaなどMacユーザにも馴染み深いオーディオプレーヤーからDirettaで再生できるようになる。本件は1bcの管轄外だが、「Direttaいなあ」などと言わずお待ちいただきたい。
最後に、発表会終了後に受けた質問とその回答を掲載しておく。この部分だけを読んでも、1bcと「OSECHI BOX」がDirettaの導入により何を獲得するか、概要を掴むことができるはずだ。
Q1. ラズパイでDirettaを利用したDSDネイティブ再生は可能?
A1. もちろん可能だ。ただし、Direttaはオーディオ信号に一切手を加えない仕様のため、DSDネイティブ再生に対応したDACカードが必須になる。筆者が確認したかぎりでは、「SB32+PRO DoP」(http://nw-electric.way-nifty.com/blog/sb32pro.html)を搭載したラズパイに、Windowマシンから「Sony | Music Center for PC」や「Audirvana」を使いDSD 5.6MHz(DoP)を出力できている。
Q2. MPDと比べたときの音質は?
A2. ALSAまでの信号の経路がまったく異なるため単純比較はできないものの、一聴してS/Nの良さを実感できるのではないか。それが再生に使うデコード用ライブラリの違いなのか、ASIOドライバの特性によるものなのか現時点ではわからないが、MPDとは“ひと味違う”サウンドを楽しめるはず。Direttaはオーディオデータを可能なかぎり一定の短い間隔で(IPv6/UDPを使い)送信する設計であり、Ethernetケーブルという完全な絶縁接続環境を利用できることもあわせると、もう一段上のステージを目指せるかもしれない。
(海上 忍)