著名ブランドから新興メーカーまで
“手の届く価格”の優秀スピーカーに注目 ー 独HIGH ENDで聴いた「特別な音」<2>
■エステロンは準フラグシップスピーカー「FORZA」を公開
大型のフロア型スピーカーのなかで特に強い印象を受けたのが、ESTELON(エステロン)のスピーカーである。エストニアのスピーカー専業メーカーである同社は、準フラグシップの「FORZA」をミュンヘンで公開。
日本のオーディオファンはあまりなじみがないかもしれないが、エストニアは音楽との関わりが深い国で、指揮者のネーメ・ヤルヴィとパーヴォ・ヤルヴィ父子の出身国として知られているし、揺るぎない評価を確立した現役最長老の作曲家、アルヴォ・ペルトもエストニアを象徴する人物の一人だ。
この偉大な作曲家に因んで昨年エストニア国立のアルヴォ・ペルト・センターが完成したが、同センターの公式パートナーに選ばれたのがエステロンである。オーディトリアムの設計に関わったり、メインホールにスピーカーを提供するなど、重要な役割を演じている。
FORZAはフラグシップの「EXTREME」よりひとまわり小型の4ウェイフロア型スピーカーで、ボトムに位置する2つのウーファーは25cm口径のアルミコーン振動板を採用。正面にミッドウーファー、ミッドレンジ、トゥイーターを近接配置することで音像はコンパクトに収束し、サイズの大きさを聴き手に意識させない。その一方でローエンドはEXTREMEに迫るほど深々と伸びていて、オルガンやピアノの最低音域は部屋の空気全体を一瞬で大きく揺るがす。包容力のあるサウンドだが音場は澄み切っている。
■Raidho Acoustic「TD3.8」は“今年トップ3に入るほど”の完成度
デンマークのRaidho Acousticはフロア型の「TD3.8」を会場ブースで公開した。ツイン構成の20cmウーファーと13cmミッドレンジの振動板はタンタルとダイアモンドを配合した5層構造のTDコーンを採用。1.1テスラの強力な磁気回路で駆動する。トゥイーターのリボンユニットも磁気回路などを見直した新規設計だという。
剛性を強化したキャビネットも新しいが、全体の形状とユニット構成からRaidhoの特徴が伝わり、ブランドのアイデンティティを受け継いでいることがわかる。
TD3.8の再生音は、私が聴いた範囲では今年のトップ3に入るほど完成度の高いものであった。細部まで精緻に解像する分解能の高い音だが発音と音色は素直で固有のくせがなく、大音圧で聴いても耳にストレスがかからない。低音は一音一音の分離が鮮明で、最低音域まで音色の変化を忠実に再現することにも感心させられた。
9万ユーロ前後の高額なモデルだが、TD3.8と共通する技術を搭載したブックシェルフ型の「TD1.2」も用意されており、こちらは2万ユーロ強に設定されている。