USB入力のクオリティもチェック
旗艦SACDプレーヤーの技術を継承した“末弟”の実力は? エソテリック「K-07Xs」レビュー
その独自伝送でも大きな威力を発揮する技術として、HCLD(ハイカレント・ラインドライバー)と名付けられた出力バッファー回路にもぜひ注目したい。フラグシップのK1をはじめとする上位機種でその威力が実証された重要な回路技術であり、電流伝送能力の余裕と高速なレスポンスなど、音質に直結する効果を発揮する。
同回路をチャンネル当たり2系統用意し、バランス接続では差動出力、アンバランス接続ではパラレル出力を実現する回路構成も上位機種からそのまま受け継いでいる。
K-05Xsと同様、電源回路にも改善のメスが入った。安定化に重点を置いた設計から帰還量を減らす方向に舵を切って基本設計を変更しており、それと同時に回路パターンの改良を実施。音質面では瞬発力の向上や低音の押し出し感を向上させる効果が得られるとされ、期待が募る。
■幅広いハイレゾフォーマットに対応。Bulk Pet伝送もサポート
デジタル入力も大幅に強化された。USB入力ではPCMで768kHz/32bit、DSDでは最大22.5MHzまでそれぞれ対応フォーマットを拡張、話題のBulk Pet伝送方式も新たにサポートしている。ミュージックサーバーやパソコンをつないでファイル再生を楽しむうえで、現在流通しているハイレゾ音源を事実上全て再生できるわけで、新設計のD/A変換回路がもたらすUSB-DACとしてのパフォーマンスにも期待が募る。
■楽器を鮮明に描き出す解像度を実感。ライヴに近いリアリティを再現する
最初にCD、SACDの再生音を確認する。ブニアティシヴィリが独奏を弾くラフマニノフのピアノ協奏曲はオーケストラの重心が低く、グランドピアノの重量感に見合う厚みのある響きを引き出すことができた。第3楽章では短い音符で演奏されるトゥッティの瞬発力の強さが際立ち、鋭いアタックで和音が鳴った後に素早く余韻が消える様子がライヴに近いリアリティを再現する。
重量級のサウンドが俊敏に反応するのは聴いていて気持ちが良く、ブニアティシヴィリの優れたリズム感など、演奏の特徴もストレートに伝わってくる。
スイス・ロマンド管のルーセル『バッカスとアリアーヌ』では、音数が多いフレーズでも全ての楽器を鮮明に描き出す解像度の高さを実感。空間の絶対的な広がりと奥行きの深さは上位機種の方が余裕があるとはいえ、強奏でもオーケストラの響きが飽和しない点は本機にも共通してそなわる美点だ。低音楽器が刻むリズムがもたつかず、見通しの良い音場のなかで旋律が軽快に動き回ることにも感心させられた。
ガラッティのピアノトリオを本機で再生すると、ドラムとピアノの実在感のある音像が定位し、芯のある音が飛び出してくる。ベースは4本の弦それぞれの音色を正確に再現し、立ち上がりだけでなく、連続する音符同士をクリアに描き分けていることがよく分かる。低音楽器は音の立ち上がりが遅いと言われることが多いが、優れたプレーヤーはアタックと音色をきめ細かくコントロールし、速い音を出す技術にも長けている。
音色や音の勢いから演奏テクニックの中身まで想像させるのは普及クラスのプレーヤーではなかなか難しいことだが、本機はそうした微妙な情報も含め、演奏を左右するいろいろな情報をきめ細かく再現していると感じた。
オプションボードを内蔵した「F-03A」をつないでES-LINK Analogの再生音も聴いてみた。オーケストラは通常接続よりも振動する空気の絶対量が増えたような雰囲気があり、特に低音楽器が押し出す空気の動きが一段階パワーアップしたように感じる。旋律とリズムの関係がより立体的に浮かび上がることも見逃せないポイントだ。
次ページ伸びやかさと空間の広がりが秀逸。会場の雰囲気を生々しく伝えてくれる