[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域 【第236回】
“数十年” 使えるヘッドホン誕生! 約3万円で買える基準機、ソニー「MDR-M1ST」レビュー
■サウンドのみならず、使い勝手も現代的に進化
それでは早速、現代ソニーヘッドホンから継承する技術面を確認していこう。
まず、いきなりカタログ等には明記されていない部分であり、これは推測になるのだが、現代ソニーヘッドホンの低域制御の要である「ビートレスポンスコントロール」は、それそのものではないにしても、そこで得られたノウハウは本機にもがっつり投入されているように思える。
というのも、ハウジングを見るとMDR-1AM2とほぼ同じ場所にポートが配置されている。また、堅実に制御しつつ豊かな力感や弾性を感じさせる低音という実際のサウンドの特徴も、ビートレスポンスコントロール採用モデルと共通する感触だ。
技術的なところは筆者の推測でしかないが、実際の音としても、近年のソニーヘッドホンの低音表現が好みの方には、M1STの音質も違和感なくフィットするかと思う。
イヤーパッドは、薄くペタリとした感触が特徴的だった900STの付属品から大きく変化し、耳への圧迫感を低減する「立体縫製イヤーパッド」となっている。ここは完全に、MDR-1Aシリーズなどから継承するところだ。
ただし実際にMDR-1AM2と比べてみると、用途に応じての設計の違いはこのイヤーパッドにも見られる。M1STのイヤーパッドは1Aのシリーズのイヤーパッドよりも薄めなのだ。
900STよりは厚くて立体縫製なので装着感は向上、でも1Aよりは薄いので、1Aほど耳をふわっとすっぽり覆う感触にはなっておらず、900ST的に耳をぺったりと覆う感触も残されている。
この「やや薄め」イヤーパッドには、900STとの装着面での違和感を減らす狙いもあるのかもしれないが、音質チューニングの一環でもあるはずだ。そんな単純な?と思うかもしれないが、音との距離感を近くするモニター的な音作りには、イヤーパッドを薄めにして耳とドライバーの距離を近付けることも効果的。実はそこは、900STの音作りにおける要点として、その開発を担当した投野耕治氏が挙げているポイントでもある。
機構面では、可動部にシリコンリングを用いてガタつきとそれに伴うノイズを低減する「サイレントジョイント」の技術を、M1STにも大々的に導入。「スイーベル機構」によるフラット収納が可能になった点は、折りたたみ的な機構を持たなかった900STからすると、地味だが嬉しい進化と言えるだろう。
ちなみにこのスイーベル機構。コンシューマー機では持ち運び時などのコンパクト収納モード的な便利さを想定して採用されているものかと思う。
だがプロ機であるこちらでは、便利さのポイントが違う。本機におけるスイーベル機構は「薄くなれば大量のヘッドホンをずらっと並べて吊るしておく際により詰めて並べられて省スペース!」という、スタジオ側からの要望もあって採用されたものとのことだ。なるほど納得。