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完全自社設計DACによる新たな表現

演奏に込められた躍動感とエネルギー全てを引き出す − エソテリックが極めた最高峰DAC「Grandioso D1X」レビュー

公開日 2019/09/05 06:30 山之内 正
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チャンネルあたり32エレメントの回路は見た目にも存在感が大きく、8個のDACチップが並んでいたD1の基板から、外見が一変している点も興味深い。信号は外周から中心に等長で集まり、同一基板上のローパスフィルターを経てアナログ信号として出力される仕組みだ。

ディスクリートDACの基板は、筐体の約3/1ほどの面積を持つ巨大さ。吊り下げ式でマウントされる

電源回路の作り込みにも注目。チャンネルあたり2つの大型トロイダルトランスを搭載するほか、電源供給はデジタル部とアナログ部が完全にセパレートされた上で行われる

ΔΣ変調のアルゴリズムはエソテリック独自のもので、9レベルのマルチレベルΔΣ変調で動作するスキームが基本。ただし、そのアルゴリズムはメニューを呼び出すことで3つの設定を切り換えることができるようだ。その詳細は今のところ公開されていないが、モード切り換え時の音質変化はそれなりに存在する。今回、FPGA内部での信号処理が一気に64bitに拡張されていることにも注目しておきたい。

デジタルフィルターからΔΣ変調までチップの内部で処理されるのがDACの通例だが、D1XのDACはそれとは対極の大規模な回路で展開する。MELF抵抗をはじめとする各部品は、DAC内部のシリコンベースの素子に比べると桁外れに大きいが、その物理的な大きさは確実に音に効くという。

微小なチップ抵抗も含め、歪みなど精度以外の要素が主な違いだというが、もうひとつ、瞬発力の向上にも威力を発揮するという。あえてディスクリートで組んだ背景には、そうした音質面での狙いもありそうだ。

なめらかな質感表現と同居する、勢いの強さと素早い立ち上がり

本来ならペアで設計されたP1Xと組み合わせて聴くべきかもしれないが、今回はネットワークトランスポート「N-03T」を用意し、USB接続でD1Xの音を確認することにした。USBなど外部デジタル入力は左チャンネル用のD1Xに集約され、左右の接続にはES-Link用HDMIケーブルを使用する。なお今回クロックジェネレーターは使っていない。

ネットワークトランスポート「N-03T」(780,000円/税抜)と組み合わせることで、TIDALやQobuzなどストリーミング音源もディスクリートDACの音で楽しめる

サウンド面の優位性から左右独立のモノラル筐体を採用。Grandioso P1Xや前身のP1などを除き、Lch側の筐体へトランスポートからの出力を接続する。USB端子もLch側の筐体に装備

別の機会にP1XとD1Xの組み合わせで聴いた時には、声や楽器の音像が半歩か一歩ぐらい前に出て、余韻が広がる背景との遠近感が一段と深くなったことに強い印象を受けた。N-03Tとの組み合わせでもその印象はまったく変わらず、『ジャズ・アット・ザ・ポーンショップ』では、サックスやヴィブラフォンの実寸大の音像が力強く前に定位し、ウェーバーのクラリネット協奏曲では独奏楽器とヴァイオリンがステージ手前にほぼ同じ距離感で展開。トゥッティでオーケストラが鳴った瞬間、強い音圧感で管楽器の音が耳に飛び込んでくる。

この勢いの強さと素早い立ち上がりは、最近のエソテリックのソースコンポーネントではしばらく聴けなかったものだ。スティーリー・ダンのドラムスやベースも音に芯があり、重心も十分に低い。ヴォーカルはリズム楽器よりも確実に前に出てくるし、ホーンセクションもいざという時に強い音圧で迫る。設計陣がこだわった瞬発力や音の勢いは、ハイレゾのファイル再生からも確実に聴き取ることができた。

室内楽やピアノを聴くと、力強さとなめらかさが必ずしもトレードオフの関係にはなっていないことに気づく。エイヴィソン・アンサンブルのコレッリ『室内ソナタ集』をN-03TとD1Xの組み合わせで聴くと、ヴァイオリンとチェロのハーモニーに柔らかさと透明感が絶妙のバランスで共存していることが分かるし、カティア・ブニアティシヴィリが演奏したシューベルトの『ピアノ・ソナタ第21番』を聴くと、息を呑むような最弱音を包み込む余韻の柔らかい感触に浸ることができる。AKmの32bit DACの使いこなしで培ったなめらかな質感表現は、DACが自社設計の回路に生まれ変わってもそのまま生き続けているのだ。

次ページ空間性の再現は、エソテリック製DACの中でも最高水準

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