優れたアンプこそがマルチch再生を制する
最新にして最強。マランツ最高峰一体型AVアンプ「SR8015」の“音楽力”を検証
■サラウンドアンプ「SR8015」の“音楽力”に感服
試聴はD&M本社のマランツ試聴室で行った。3年ぶりに登場した一体型最上位の地力の充実を確認すべく、Hi-FiソースによるSR8012との比較からスタートした。
ソロヴァイオリンからコンボジャズまで、楽音から硬さが消え、よりしなやかになったことが第一印象。モーツァルトのオペラアリアで、SR8012は若干ソプラノが突っ張る印象があったが、「SR8015」ではそれが消えた。歪みがさらに減少したことがわかる。ノイズフロアが下がり音場の見通しが澄明さを増し、豊かな奥行きと立体感が生まれた。HDAM-SA2の採用とアナログ電源部に最新の高品位部品を採用しS/Nが向上した成果だろう。
注目のサラウンドはどうだろうか。スピーカーコンフィギュレーションは7.1.4(フロントハイト/リアハイト)構成で、使用スピーカーは別記を参照。
本機で聴くエルトン・ジョンの波乱の半生を描く「ロケットマン」は印象深いものだった。映画前半のハイライトであるチャプター8「ユアソング」(僕の歌は君の歌)誕生シーン。名曲誕生の瞬間というものはつねに感動的だが、今回は琴線に触れることひとしお。バーニー・トーピンから歌詞を渡されたエルトンが実家のアップライトピアノで曲想の基点のF音を打ち込む。今回の試聴環境では、センタースピーカーHTM1D3から出音されるが、ピアノ単音の発声の立ち上がりが速く鈍らない。量感に富み倍音も豊か。音場イコール聴き手の心への浸透力に富む。HDAM-SA2採用によるスルーレートの改善が大きく貢献している。続いてメロディーが降りてきて、リズムが生まれ、歌が大きく育っていく。
「SR8015」は大型センタースピーカーHTM1D3プラスLRの802D3を軽々とハンドリングし、うねるような音楽を音場に解き放つ。ダンピングファクター(スピーカーをドライブする能力の指標)が高く、大型スピーカー3台を掌中に収め、意のままに歌わせている。次に背景をうっすら彩色するように、ストリングスを音場の奥に忍び込ませる。処理能力の高い新DSPの優秀性プラス、アナログ部分にコストをかけて低ノイズフロアを達成したから、この弱音の美しさと深々とした音場表現ができたのだろう。
華やかな演出の趣向を凝らしたミュージカル仕立ての「ロケットマン」だが、主人公の生涯癒されなかった心の傷と人生の浮沈を描いて、映画はいたってシリアスである。エルトン・ジョンの楽曲の特徴はプロ作曲家らしい抑揚に富んだメロディーの構成力で、劇伴音楽として映画のストーリーを引っ張って行く推進力に富み、ミュージカル仕立てにうってつけだが、聴き馴染んだ名曲の素朴な美しさと対比的に映画に描かれる現実は悲惨である。つまり映像と音楽の対比法が映画の着想だが、「SR8015」がB&Wのスピーカーに歌わせる楽曲は凜として美しく存在感に曇りがなく、人生の数々の危機に屈することのなかった一人のナイーブな音楽家の人生を感動的に描き出し、サラウンドアンプ「SR8015」の「音楽力」を知らしめる。
「地獄の黙示録 ファイナルカット」でも、SR8015はサラウンドのダイナミックな表現力をまざまざと見せつける。チャンネル間のクロストークがなくバランスが正確で、ヘリの移動の軌跡にキレがあり、アクションが映像と正確に一致して小気味よい。爆撃の水柱が頭打ちにならず、視聴室の天井まで高々と立ち昇る。ソフトのリマスターの狙いのひとつは低音の改善だが、SR8015は低音の伝送特性に優れ、立ち上がりメインスピーカーおよびスーパーウーファー(LFE)から押し寄せるスピードが速くて映像に遅れない。
このソフトは何回も、いや何十回も聴いたが、「SR8015」はいままで気付かなかった音に気付かせてくれた。ノイズフロアが低く解像力が高く、デジタル部のデコード能力が高く弱音が正しいバランスで出音するから、リアリティーや体験性を担う音情報が生命を吹き込まれ、逐一聴き手に届くのだ。
映画音響はタフでダイナミックな動的表現と微細な心理効果が複合して構成されるが、「SR8015」はこの大きな振幅を活かし、解き放つアンプとしての地力がある。そこにマランツのアンプらしい音楽美が加わり、鬼に金棒だ。13chまで対応し、イマーシブサウンドの発展拡大に柔軟に寄り添うことも頼もしい。
HDMIの新ステージに突入したいま、「SR8015」は何をおいても聴く価値があるアンプだ。