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【特別企画】ミドルクラスながら最上位級の音

デノン110周年オーディオ3モデル、超高級サウンドを手頃な価格で。感じた“歴史と未来”

公開日 2020/11/17 06:30 石原 俊
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ある意味で「国策」ともいえるDL-103を、コンシューマー向けに販売する計画は、当初はなかった。ところが困った事態が生じた。NHK・FMのレコード放送の音の良さに気づいた一部のオーディオ愛好家が、同機を血眼になって探し始めたのだ。横流しをする悪質なディスクジョッキーもいたのだろう。当時、筆者はまだ小学生でオーディオには手を染めていなかったが、アマチュア無線関連の先輩格の人物が「放送局用のレコード針」を手に入れたと嬉しそうに自慢していたのを憶えている。

オーディオ愛好家からのDL-103を望む熱い想いと、同モデルがヤミで、しかも高値で取引されていることに気づいた日本コロムビアは1970年に同機を一般向けに発売した。デノンブランド初の民生機であった。

NHKと共同開発され、のちにデノン初の民生用機器として発売された「DL-103」

MC型なので昇圧トランスを用意しなければならないというハードルはあったものの、DL-103は多くの愛好家の心をつかんだ。黒いボディの正面に白い縦一文字のスタイラスインジケーターが引かれたDL-103は視認性が抜群に良好で、当時としては極めてワイドレンジだった。トラッカビリティに関しては現在でもトップエンドの座にあるといっても過言ではない。もちろんチャンネルセパレーションや音場の再現性にも優れている。

民生機としてのDL-103からは数々のバリエーションが派生することになるのだが、オリジナルは現在でも作り続けられており、金型のリニューアルや製造工程の見直しなどは行われたものの、改変は全くなされていない。カートリッジの音が変わると、放送設備を大幅に見直さなくてはならなくなるからである。

以前は日本コロムビアがコンシューマー用機器担当で、デンオンがプロ用機器担当という棲み分けをしていたが、DL-103の民生バージョンを発売したことが契機となり、デンオンは総合的なオーディオメーカーとしての道を歩み始める。オーディオブームの波に乗り、ダイレクトドライブ方式のターンテーブル/レコードプレーヤーをはじめとして、アンプ、スピーカー、チューナー、テープデッキなどを次々と市場に送り出した。CDへの対応も素早く、CDが世に出た翌1983年9月に業務用プレーヤーを、12月に民生用プレーヤーを発売している。

デノン半世紀ものデジタル技術が注ぎ込まれた「DCD-A110」

デジタル分野におけるデノンの大きな功績は、世界初のPCM録音を行ったことである。CD元年の10年も前の1972年に、世界初の自社製PCM録音機「DN-023R」を用いて、スメタナ弦楽四重奏団によるモーツァルトの弦楽四重奏曲第15番・ニ短調、17番・変ロ長調「狩り」を録音し、デノンレーベルのLPとしてリリースした。DN-023Rのサンプリング周波数は47.25kHz、ビットレートは13と、CDの44.1kHz/16bitと微妙に違っているのが興味深い。おそらく録音に適したビットレートとサンプリング周波数を手探りで模索していたのであろう。

110周年記念のCD/SACDプレーヤー「DCD-A110」には、半世紀にならんとするデノンのデジタル技術が惜しみなく注ぎ込まれている。ひときわ目を引くのが、ペアを組む「PMA-A110」と共通の精悍なグラファイト・シルバーの筐体だ。この色味は110周年記念モデルだけの特別色である。筐体の剛性は極めて高い。

デノン最先端のデジタル技術に加え、最上級機のパーツが惜しみなく注ぎ込まれたDCD-A110

自社製のドライブメカニズムは上級機ゆずりの「Advanced S.V.H.(Suppress Vibration Hybrid)Mechanism」。信号経路を可能な限り短くし、回路を小型化することで、余分な電流やノイズの発生を抑止している。

デジタル信号処理を司るのは「Ultra AL32 Processing」だ。デジタル信号を前バージョン「Advanced AL32 Processing Plus」の倍に相当する1.536MHz/32bitにアップサンプリングしたうえで処理し、デジタル録音で失われた情報を補完する。DAC回路も強力で、TI社のステレオDAC「PCM1795」を片チャンネルあたり2基使用し、アップサンプリングした信号を2分割、合計4基のDACを差動させてアナログ信号を出力する。

パーツは最上級機の「DCD-SX1 LIMITED」に使用したものが多数投入されている。DCD-SX1 LIMITEDはサウンドマスターの山内慎一氏がパーツをひとつひとつ開発しながら音を詰めていったが、DCD-A110ではLIMITEDで開発されたパーツが使えたため、開発期間は比較的短かったという。電源トランスはデジタルとアナログにそれぞれ専用のものが使用されている。電源回路はフルディスクリート。メカニカル・グラウンディング・コンストラクションの作法に従って、電源トランスの直下にフットが配されている。

最新のアナログ波形再現技術「Ultra AL32 Processing」やQuad-DAC構成など、ミドルクラス帯とは思えないほどの全力投球ぶりだ

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