【特別企画】長く愛されるベースモデルも振り返る
オーディオテクニカ「ATH-M50xBT2」レビュー。定番モニターを“忠実に”ワイヤレス化、機能性もさらに洗練
ビリー・アイリッシュ「bad guy」のような、使う音の数を絞り込んだサウンド・デザインとの相性は特に良好だ。ひとつひとつの音の存在感をやや大柄に押し出しつつ、楽曲全体のバランスもキープして届けてくれる。
空間に余白を残しつつも物足りない感じにはならないし、ベースをぐいぐいドライブさせつつ、かといってドカンと目立ちすぎたりすることもない。低音の太さの成分は膨らませることなく、芯や輪郭を明確にしてくれるのが持ち味だ。
この曲の特徴的な要素である、様々な処理と配置で複雑に構築されるボーカルの再現性も見事。冒頭、左右の耳元に張り付くというか密着したところから囁かれる歌の、その左右の違いによって生まれる立体感。それをはっきりと感じられるのは、声の凝った定位やエフェクト処理を、このヘッドホンが制作の意図通り緻密に描き出してくれているからこそだろう。中高域のクリアさが発揮されている。
YOASOBI「怪物」でも同じく、ボーカルと拮抗して曲の顔となっているシンセベースの引き締められた強靭さやそのエッジの気持ちよさなどで、低域の良質さと中高域の透明感や抜けの良さを実感できる。ボーカルの配置や処理の見え方もやはり見事。
そしてこちらの曲では、サビ以降でのバスドラムやスネア、クラップのキレもポイントだ。抜けの良いアタックの後、音のボディが妙に膨らんだり響きが余韻が残りすぎたりすることなく、すっと収まる。曲の空間の奥に配置されている地味なところだが、この曲のスピード感はこのキレがあってこそ。そこをしっかり再現してくれるのは嬉しい。
なおiPhoneと組み合わせてのAAC接続時の音の印象も、少し甘くなるというかカチッとした精密感は多少損なわれるものの、LDAC接続時から激変してしまうようなことはなかった。
ワイヤレス接続時の音質が有線のATH-M50xにさらに肉薄するものとなったことは、ストレートに「ATH-M50xのワイヤレス版」を求めるユーザーにとって何よりも嬉しいポイントだろう。
加えて、通話周りの性能や機能も高められたことで、純粋なモニターヘッドホンであるATH-M50xではカバーしきれなかった場面、例えばビジネスシーンなどでの活躍もこれまで以上に期待できる。
定番モニターヘッドホンの魅力もキープしつつ、ワイヤレス化によってモニターヘッドホンとしての枠を超えてしまった、そんな一挙両得感のあるヘッドホンだ。