【特別企画】<測定と聴感>で探る最新オーディオの楽しみ
iFi audioと最新GaNデバイスでガチンコ対決!ACアダプターの音質差を徹底研究
昨今、次世代半導体の素材として注目を集めているGaN(窒化ガリウム)。電源効率の良さや小型化が容易であることから、GaNを活用したACアダプターなどのデバイスも急速に数を増してきている。このGaNはより高い周波数でスイッチングを行うので、オーディオの音質改善にも効果があるのでは、という噂がまことしやかに囁かれている。ここでは、市販で購入できるいくつかのGaNアダプターとiFi audioのACアダプターを用意し、それぞれのノイズ特性の測定と、それが音質にどのような影響を与えるかを炭山アキラ氏と共に探ってみた。
20世紀頃まで、オーディオ界にはほとんど「ACアダプター」というものが必要とされていなかった。当時のオーディオは重厚長大なコンポーネントがラックにずらりと並び、それでほぼ完結しているのが普通だった。それに引き換え現代のオーディオは、小型のフォノイコライザーやPWMパワーアンプなどを愛用する人が増えてきたし、ネットワークオーディオなど始めたものならミュージック・サーバー(NAS)やスイッチングハブなど、ACアダプターを接続するタイプが主流になりつつある。
そんな世相にあって、ACアダプターのクオリティ改善は火急の要といっても過言ではなかろう。現在世に出回っているACアダプターの大半はスイッチング電源を用いたもので、これを未対策で使うとオーディオへまことによろしくない影響を及ぼすことが知られている。
具体的にいうと、可聴帯域外の高周波が大量に電源ラインへ乗っており、それが音の品位を大きく損なうことが挙げられる。また、電源ライン以外からも空中を不要輻射(電波ノイズ)が飛び、アナログ増幅アンプなどが近くにあれば電波が飛び込んで再生音に影響を与えてしまうのだ。
ならばスイッチング式を改め、昔ながらのトランスとダイオード、コンデンサーの方式にすればいいかというと、同じ大きさではスイッチング電源に比べて出力できる電力量が少なくなってしまう。それに、瞬間的な大電力の供給力などはスイッチング式に分があるということもあり、話は一筋縄でいかない。
最近はそんなスイッチング式でも窒化ガリウム(GaN)素子を用いた製品が「音がいい!」と評判を呼び、特に情報感度が高い若者たちの間でさながら争奪戦の様相を呈しているという。一方、われわれオーディオ業界には「音の良い電源装置」を開発・生産しているメーカーがいくつかあり、私もいくつか試してその驚くべき音質向上を実感している。
このたびは、英iFi audioの輸入元ENZO j-Fiのスタッフにして「24時間オーディオのことを考えています」と公言する業界の若手ホープ菅沼洋介さんのレクチャーを受けつつ、GaN採用の汎用品とiFi audo製品のノイズレベルの測定を交えながら、じっくり聴き比べてみよう、ということになった。
試聴は自宅リスニングルームにて、アナログ再生に必要なフォノイコライザー「micro iPhono3 BL」(以下、iPhono3)のACアダプターを交換して聴き比べた。プレーヤーはパイオニアの「PL-70」。43年も前の製品だが、幾度かの重修理を経ていまだ絶好調の個体である。
カートリッジはわが絶対レファレンスのオーディオテクニカ「AT33PTG/II」を、iPhono3の75Ω設定で受けている。プリとパワーはともにアキュフェーズの「C-2150」と「P-4100」である。スピーカーはもちろん、20cm鳥型バックロードホーンの「ハシビロコウ」を用いる。
試聴ソフトは、長岡鉄男氏が激賞され世界で日本だけ飛び抜けて大ベストセラーとなったグレゴリオ・パニアグワ「古代ギリシャの音楽」でいく。このソフトは冒頭ほんの数秒でオーディオの素性が大半分かってしまうという恐ろしくも面白いソフトで、その巨大パーカッション・ケースをひっくり返してしまったような大音響は音楽的にも面白いし、オーディオ的にも挑戦し甲斐のある音源といってよいだろう。
まず純正の「iPower II」で音を出した。古代ギリシャの音楽冒頭のアナクルシスが部屋いっぱいに音のかけらをきらめかせながら飛び散っていく。うん、これこそが古代ギリシャの神髄だ、と菅沼さんと私が大きくうなずき、一方で取材に立ち会っていた編集子は目を丸くして「古代ギリシャの音楽がこんな鳴り方をするのは初めて聴きました」というではないか。
世界の高級スピーカーに比べれば、いささか粗野な音で潤いやS/Nには欠けるかもしれないが、その代わり反応の良さにかけては天下一品のバックロードホーンは、細かな音の変化をよく表現し、テストには何とも使いやすいスピーカーだと感じている。
今回の取材では、菅沼さんが大変な代物を引っ提げてきて下さった。社でお使いのAUDIO PRECISIONの測定器「APx525B」である。これで各ACアダプターのDCラインへ乗るノイズの大きさとスペクトラム(周波数帯域の分布)を見ながら、音質の違いにどう影響があるかを見てみようというわけだ。わが家の電源はしっかりと大地アースを取っていないのでどうしても基礎ノイズはあるが、それを含み置いた上で測定結果を見てみよう。
菅沼さんは多くの汎用GaNアダプターを買い込んでテストを繰り返しているということで、そこそこいい結果を得たGaN-ACアダプターRAVPOWER「RP-PC104」と、あまり良い結果が出なかったというADTEC「APD-V140AC2」をつないでみることとする。iPhono3の電源は15Vだが、最近のアダプターは1個でいくつかの電圧に対応してくれる製品もあるのがありがたい。
まず、RAVPOWER「RP-PC104」をつないだ。音が出た瞬間、全員の頭の上に “?” が点灯する。決して悪い音ではないのだが、本来澄み切った金属打楽器の響きに何となく雑味が乗り、音場も見晴らしがもうひとつ良くない。わずかな違いなのだが、それで音楽の面白さが大幅に減じてしまうのだ。恐ろしいものだと思う。
続いて、あまりいい成績を上げられなかったADTEC「APD-V140AC2」も、せっかくだから聴いてみる。つないで音を出した瞬間、全員の顔が歪んだ。中高域はザラザラと耳障りで、何だか番手の荒い紙やすりで頬を擦られているような、痛みにも似た不快感がある。それでいて全体のパワーや浸透力はさほど変わらないのだから、これはダメだと早々に退散せざるを得なくなった。改めて申し上げるが、これでも一般的なACアダプターよりも音が良いとされているGaNタイプなのだ。ACアダプターによる音の変化はかくも恐ろしいものかと、知ってはいたがやはり天を仰ぐ仕儀となった。
ここで真打ち登場、iFiの単売ACアダプター「iPower Elite」を聴こう。同社独自のActive Noise Cancellation IIと呼ばれる技術でノイズフロアを限界まで下げ、オーディオグレードのパワーMos-FETを使って高品位なDC電源を供給する、いってみればACアダプターのロールスロイスのような製品である。
一つ前に聴いたアダプターがアレだったからというのもあるが、もう音が出た瞬間の感激は忘れられない。例のおもちゃ箱をひっくり返したような音の洪水を超微粒子がほとばしるような瑞々しさで描き出し、音場はどこまでも広大で透明、ノイズフロアが極端に下がったことが分かる。試聴ソフトがアナログだからスクラッチノイズは避けられないが、それが耳へ届く絶対量が大幅に減り、音質も耳へ障らないものになるから、聴感上のS/N向上は言葉で言い表せないほど目覚ましいものがある。
これらの「測定」データも見てみよう。まず、一番結果の悪かったADTEC「APD-V140AC2」とそこそこ音の良かったRAVPOWER「RP-PC104」を比べてみると、おぉ、明らかな違いが現れるではないか。これ即ち音質の違いと断ずるのは危険だが、大きな要素の一つとなっていることは間違いないだろう。
続いて結果の良かったRAVPOWER「RP-PC104」とiPowerIIを比べようとしたら、何たることか同じ測定のレンジではiPower IIがまったくノーノイズということになってしまう。仕方なくここで測定のレンジを変えることにしたが、計算してみるとこの両者、何と280倍ものノイズレベルの差がある。これではもう測定値も音質も、比較にならなくて当たり前である。
次はiPower IIと同Eliteの比較だが、これももう後者の圧勝で、面白いのはEliteほどノイズレベルが下がると、今度はわが家の基礎ノイズが測定値で見えてきてしまうことだ。Eliteのみ若干オシロがギザギザしているのがわが家のノイズである。
周波数特性を見ても明らかな違いがある。一般的なGaNタイプと比べれば、iFiの2製品はピークレベルが極端に低いのはもちろんのこと、特にiPower Eliteはピークの頭を削り、総合的なノイズレベルを大幅に削減していることがスペクトラムアナライザから見て取れるのが興味深い。
ふと気が付くと、この大いなる音質の違いをもたらしているのはオーディオ機器本体ではなく、ごく最近まで単なる付属品扱いをされてきたACアダプターなのだ。電源の大切さそのものはオーディオ界で長く説かれてきたことではあるが、それがこうも画然と目の前に示されてしまうのだから、ACアダプターというのは今やはっきり「オーディオ機器」の1ジャンルとして確立しつつあるといって過言ではないだろう。
ACアダプターのクオリティ対策はオーディオにおける火急の要
20世紀頃まで、オーディオ界にはほとんど「ACアダプター」というものが必要とされていなかった。当時のオーディオは重厚長大なコンポーネントがラックにずらりと並び、それでほぼ完結しているのが普通だった。それに引き換え現代のオーディオは、小型のフォノイコライザーやPWMパワーアンプなどを愛用する人が増えてきたし、ネットワークオーディオなど始めたものならミュージック・サーバー(NAS)やスイッチングハブなど、ACアダプターを接続するタイプが主流になりつつある。
そんな世相にあって、ACアダプターのクオリティ改善は火急の要といっても過言ではなかろう。現在世に出回っているACアダプターの大半はスイッチング電源を用いたもので、これを未対策で使うとオーディオへまことによろしくない影響を及ぼすことが知られている。
具体的にいうと、可聴帯域外の高周波が大量に電源ラインへ乗っており、それが音の品位を大きく損なうことが挙げられる。また、電源ライン以外からも空中を不要輻射(電波ノイズ)が飛び、アナログ増幅アンプなどが近くにあれば電波が飛び込んで再生音に影響を与えてしまうのだ。
ならばスイッチング式を改め、昔ながらのトランスとダイオード、コンデンサーの方式にすればいいかというと、同じ大きさではスイッチング電源に比べて出力できる電力量が少なくなってしまう。それに、瞬間的な大電力の供給力などはスイッチング式に分があるということもあり、話は一筋縄でいかない。
最近はそんなスイッチング式でも窒化ガリウム(GaN)素子を用いた製品が「音がいい!」と評判を呼び、特に情報感度が高い若者たちの間でさながら争奪戦の様相を呈しているという。一方、われわれオーディオ業界には「音の良い電源装置」を開発・生産しているメーカーがいくつかあり、私もいくつか試してその驚くべき音質向上を実感している。
このたびは、英iFi audioの輸入元ENZO j-Fiのスタッフにして「24時間オーディオのことを考えています」と公言する業界の若手ホープ菅沼洋介さんのレクチャーを受けつつ、GaN採用の汎用品とiFi audo製品のノイズレベルの測定を交えながら、じっくり聴き比べてみよう、ということになった。
長岡名盤「パニアグワ」をレファレンスに、試聴と測定で違いを探る
試聴は自宅リスニングルームにて、アナログ再生に必要なフォノイコライザー「micro iPhono3 BL」(以下、iPhono3)のACアダプターを交換して聴き比べた。プレーヤーはパイオニアの「PL-70」。43年も前の製品だが、幾度かの重修理を経ていまだ絶好調の個体である。
カートリッジはわが絶対レファレンスのオーディオテクニカ「AT33PTG/II」を、iPhono3の75Ω設定で受けている。プリとパワーはともにアキュフェーズの「C-2150」と「P-4100」である。スピーカーはもちろん、20cm鳥型バックロードホーンの「ハシビロコウ」を用いる。
試聴ソフトは、長岡鉄男氏が激賞され世界で日本だけ飛び抜けて大ベストセラーとなったグレゴリオ・パニアグワ「古代ギリシャの音楽」でいく。このソフトは冒頭ほんの数秒でオーディオの素性が大半分かってしまうという恐ろしくも面白いソフトで、その巨大パーカッション・ケースをひっくり返してしまったような大音響は音楽的にも面白いし、オーディオ的にも挑戦し甲斐のある音源といってよいだろう。
まず純正の「iPower II」で音を出した。古代ギリシャの音楽冒頭のアナクルシスが部屋いっぱいに音のかけらをきらめかせながら飛び散っていく。うん、これこそが古代ギリシャの神髄だ、と菅沼さんと私が大きくうなずき、一方で取材に立ち会っていた編集子は目を丸くして「古代ギリシャの音楽がこんな鳴り方をするのは初めて聴きました」というではないか。
世界の高級スピーカーに比べれば、いささか粗野な音で潤いやS/Nには欠けるかもしれないが、その代わり反応の良さにかけては天下一品のバックロードホーンは、細かな音の変化をよく表現し、テストには何とも使いやすいスピーカーだと感じている。
オーディオ・プレシジョンの測定機を用いてノイズレベルを測定
今回の取材では、菅沼さんが大変な代物を引っ提げてきて下さった。社でお使いのAUDIO PRECISIONの測定器「APx525B」である。これで各ACアダプターのDCラインへ乗るノイズの大きさとスペクトラム(周波数帯域の分布)を見ながら、音質の違いにどう影響があるかを見てみようというわけだ。わが家の電源はしっかりと大地アースを取っていないのでどうしても基礎ノイズはあるが、それを含み置いた上で測定結果を見てみよう。
菅沼さんは多くの汎用GaNアダプターを買い込んでテストを繰り返しているということで、そこそこいい結果を得たGaN-ACアダプターRAVPOWER「RP-PC104」と、あまり良い結果が出なかったというADTEC「APD-V140AC2」をつないでみることとする。iPhono3の電源は15Vだが、最近のアダプターは1個でいくつかの電圧に対応してくれる製品もあるのがありがたい。
まず、RAVPOWER「RP-PC104」をつないだ。音が出た瞬間、全員の頭の上に “?” が点灯する。決して悪い音ではないのだが、本来澄み切った金属打楽器の響きに何となく雑味が乗り、音場も見晴らしがもうひとつ良くない。わずかな違いなのだが、それで音楽の面白さが大幅に減じてしまうのだ。恐ろしいものだと思う。
続いて、あまりいい成績を上げられなかったADTEC「APD-V140AC2」も、せっかくだから聴いてみる。つないで音を出した瞬間、全員の顔が歪んだ。中高域はザラザラと耳障りで、何だか番手の荒い紙やすりで頬を擦られているような、痛みにも似た不快感がある。それでいて全体のパワーや浸透力はさほど変わらないのだから、これはダメだと早々に退散せざるを得なくなった。改めて申し上げるが、これでも一般的なACアダプターよりも音が良いとされているGaNタイプなのだ。ACアダプターによる音の変化はかくも恐ろしいものかと、知ってはいたがやはり天を仰ぐ仕儀となった。
ここで真打ち登場、iFiの単売ACアダプター「iPower Elite」を聴こう。同社独自のActive Noise Cancellation IIと呼ばれる技術でノイズフロアを限界まで下げ、オーディオグレードのパワーMos-FETを使って高品位なDC電源を供給する、いってみればACアダプターのロールスロイスのような製品である。
一つ前に聴いたアダプターがアレだったからというのもあるが、もう音が出た瞬間の感激は忘れられない。例のおもちゃ箱をひっくり返したような音の洪水を超微粒子がほとばしるような瑞々しさで描き出し、音場はどこまでも広大で透明、ノイズフロアが極端に下がったことが分かる。試聴ソフトがアナログだからスクラッチノイズは避けられないが、それが耳へ届く絶対量が大幅に減り、音質も耳へ障らないものになるから、聴感上のS/N向上は言葉で言い表せないほど目覚ましいものがある。
これらの「測定」データも見てみよう。まず、一番結果の悪かったADTEC「APD-V140AC2」とそこそこ音の良かったRAVPOWER「RP-PC104」を比べてみると、おぉ、明らかな違いが現れるではないか。これ即ち音質の違いと断ずるのは危険だが、大きな要素の一つとなっていることは間違いないだろう。
続いて結果の良かったRAVPOWER「RP-PC104」とiPowerIIを比べようとしたら、何たることか同じ測定のレンジではiPower IIがまったくノーノイズということになってしまう。仕方なくここで測定のレンジを変えることにしたが、計算してみるとこの両者、何と280倍ものノイズレベルの差がある。これではもう測定値も音質も、比較にならなくて当たり前である。
次はiPower IIと同Eliteの比較だが、これももう後者の圧勝で、面白いのはEliteほどノイズレベルが下がると、今度はわが家の基礎ノイズが測定値で見えてきてしまうことだ。Eliteのみ若干オシロがギザギザしているのがわが家のノイズである。
周波数特性を見ても明らかな違いがある。一般的なGaNタイプと比べれば、iFiの2製品はピークレベルが極端に低いのはもちろんのこと、特にiPower Eliteはピークの頭を削り、総合的なノイズレベルを大幅に削減していることがスペクトラムアナライザから見て取れるのが興味深い。
ふと気が付くと、この大いなる音質の違いをもたらしているのはオーディオ機器本体ではなく、ごく最近まで単なる付属品扱いをされてきたACアダプターなのだ。電源の大切さそのものはオーディオ界で長く説かれてきたことではあるが、それがこうも画然と目の前に示されてしまうのだから、ACアダプターというのは今やはっきり「オーディオ機器」の1ジャンルとして確立しつつあるといって過言ではないだろう。
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