PRリファレンスとして揺るがぬ音質を現代的にアップデート
Shureの旗艦イヤホン「SE846」第2世代を速攻レビュー!進化した“十年名機”、新サウンドの魅力に迫る
試聴は、サウンドの差分を捉えやすくするため、次の流れで行った。
(1)まず、SE846高遮音性イヤホン(第2世代)と、筆者所有のSE846初代機の両方に、ノズルインサート「バランス」を装着して両者のサウンドに有意な個体差がないことを確認。
(2)続いて、SE846高遮音性イヤホン(第2世代)側のノズルインサートのみ交換し、バランスに固定した筆者所有のSE846のサウンドと随時比較。
ちなみに、最初のチェックで、SE846が発売当初から第2世代となる現在まで、バラツキなく一定のハイクオリティサウンドを提供し続けていることも確認できた。これもさすがプロオーディオブランドの雄Shure!というポイントだ。
さて、比較試聴のインプレッションの前に、「ノズルインサートの特長:◎」「気になりそうなポイント:▲」「マニュアル記載データ:■」をまとめてみた。
ブライト | ◎:ステージの照明が明るくなり音色の輝きも増すイメージ ▲:楽器の音色のナチュラルさが損なわれる場面も ■:+2.5dB / 1kHz to 8kHz |
エクステンド | ◎:ブライトの明るさとバランスのナチュラルさを絶妙に両立 ▲:ナチュラルさはバランスに半歩及ばないかも ■:+2.0dB / 4kHz to 10kHz |
バランス | ◎:声や楽器の音色のナチュラルさはこれが一番 ▲:アグレッシブさやエレクトリック感の表現は弱め ■:NEUTRAL(おそらくこれを±0としてある) |
ウォーム | ◎:とにかく耳に優しい柔らかな音色 ▲:良くも悪くも明らかにソフト傾向 ■:-2.5dB / 1kHz to 8kHz |
エクステンドの音作りは、おおよそ「バランスとブライトの中間」というポジショニング。まさにそれを求めていた!というSE846既存ユーザーも多いのではないだろうか。
だが、単純に中間というわけではない。データを見ても、同じ周波数範囲のままdB数のみ上げるのではなく、周波数範囲も変えられていることがわかる。具体的にはバランスを基準に、5kHz付近と10kHz以上を上げているとのこと。編集部実測データでは「ブライトやバランスと比べて、高域のピークやディップ(凹凸)が整えられ、より滑らかな周波数カーブ」という違いも見られたという。既存の3タイプとは一線を画すチューニングのようだ。
比較試聴した印象は、「ブライトの明るさとバランスのナチュラルさを絶妙に両立した音」だ。筆者自身が悩まされていた「バランスのままだと高域が少し甘いが、ブライトにするとあの心地よいナチュラルさが損なわれてしまう……」という点を、すっきり解決してくれる一手!
ただ、実際ブライトを用いた際のナチュラルさの損失は微細で、さほど気にならないことも多い。だが筆者の場合はギターの整備や演奏が趣味なこともあって、その音色の変化が特に気になってしまう。なので、例えばジミ・ヘンドリックス「Little Wing」を、ブライトを用いて再生すると、あの絶品のクリーントーンのアタックや芯が硬く、強まりすぎるように感じていた。
エクステンドでは、そこを絶妙に再現してくれる。音色が硬くなりすぎたり、違和感はほとんど感じられず、ナチュラルさをキープ。それでいて音の輝きや抜けは高まっている。視覚的に表現するならば、ブライトが「ステージの照明がグイッと強められ、歌い手の姿はクッキリと、シンバルはその光をギラリと反射」するのに対し、エクステンドは「ステージの照明が適度に強められ、歌い手の姿はより明瞭に、シンバルはその光をきらりと反射」するよう。微細ながらも大きな違いがある。
またはギター的に表現するなら、「ブライトの高域の出方にはイコライジング感があるが、エクステンドで得られるのは、弦を新品に張り替えたときのように自然な輝きや抜け」といった印象だ。
なお、これはあくまで筆者の場合。だが同じように「この楽器の変化にだけは敏感」といったポイントがあるオーディオ&音楽ファンもいるはず。ノズルインサートを聴き比べて選択する際には、そうした自分ならではのポイントを意識して確かめると分かりやすいだろう。
ロバート・グラスパーの楽曲で言えば、ハイブリッドな音楽性の楽曲に含まれる様々なジャンル成分のうち、メロウ&ソウル寄りの成分、エレクトリック&ヒップホップ寄りの成分、どちらをより強く感じられるか。各ノズルインサートの印象は以下のとおり。
←メロウ&ソウル エレクトリック&ヒップホップ→ | |||||
ブライト | ・ | ・ | | | ■ | ・ |
エクステンド | ・ | ・ | ■ | ・ | ・ |
バランス | ・ | ■ | | | ・ | ・ |
ウォーム | ■ | ・ | | | ・ | ・ |
個人的には総じて、「エクステンドが良すぎる!」というのが正直な感想だ。ただ、エクステンドがあれば十分ということではない。ユーザーによるチューニングは様々な要素の組み合わせであり、各要素の兼ね合い次第となるからだ。
たとえば、リケーブルやイヤーピースを、音質よりも使い勝手や快適性を重視して選んだ場合、音の傾向が意図せずソフトになってしまうこともあるだろう。そんな時は、ノズルインサートをブライトにすると、全体をニュートラルに持っていけるかもしれない。
音質だけを考えて柔軟に選択できるのがノズルインサートの強み、だからこそチューニングの最後のまとめに大活躍してくれる。そして、「チューニングの最後のまとめ」における対応の幅は、ノズルインサートのバリエーションあってこそといえる。
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