「魔法を再設計」は本当か
第2世代AirPods Proの凄さと残念なところ。第1世代機との違い、他社最新機との比較レビュー
第2世代AirPods Proで追加された「適応型環境音除去」とは
もう一つ、第2世代AirPods Proで追加された機能が「適応型環境音除去」だ。漢字を見ると難しそうに思えるが、要は、AirPods Proを着けているときに周囲で大きな音が鳴ると、自動的に騒音を低減するという機能だ。
アップルはこれまでも、大きな音にさらされて聴覚が傷つけられることを保護するため、Apple Watchにノイズレベルの測定機能を加えたり、AirPodsで大音量再生し続けると警告したり、自動的に音量を下げる機能などを追加してきた。そして今回、外部音からの聴覚保護機能が追加された。
Apple Watchの「ノイズ」アプリを開くと、その動作状況がわかる。80dBまでは長時間さらされても聴覚に問題ないと表示され、ノイズ抑制は行われないが、80dBを超えるとイエローの警告色が表示され、AirPods Proのノイズ低減機能が働き出す。動作状況は同アプリでチェックできるので、周囲の雑音が多い状況で、AirPods Proが的確にノイズを抑えてくれていることがわかり、大変心強い。
この適応型のノイズ低減を、あくまで聴覚保護のために活用してきたのがアップルらしいところだ。たとえばボーズのQC Earbuds IIなどは、独自の「ActiveSense」機能によって、周囲の音が大きくなるとノイキャンレベルを自動的に調整し、音楽を快適に楽しむ機能を備えている。つまり、アップルは聴覚保護のために、ボーズは音楽再生をより楽しくするために、周囲の音に適応してノイキャンレベルを調整する機能を活用している。どちらが良いというわけではないが、考え方の違いがこういうところに表れているのが興味深い。
このように、非常に高い性能を誇る第2世代AirPods Proの外部音取り込み機能だが、まだ完璧とはいえない。「マイクで拾った音を再生する」という仕組み上、なかなか全てを消し去ることが難しいのが、風切り音ノイズだ。外部音取り込みモードにしながら外を歩いていると、やはりこの風切り音ノイズが気になってしまうのだ。
とはいえ、第1世代と第2世代で着け替えて比較してみると、風切り音ノイズ対策も進化しており、第2世代ではかなり抑えられている。第2世代機は、マイクの位置の問題なのか、上からの風を多く拾いがちで、空調の風が耳を直撃すると少しうるさいのだが、そういう特殊な状況でない限り、総じてノイズのストレスは軽減される。
そしてノイキャンをオンにすると、当然ではあるが、ほとんど風切り音ノイズが気にならなくなる(たまに聞こえはするが)。だがそれと同時に、周りの音も聞こえなくなる。できることなら、外部音取り込みのまま、風切り音のみを効果的に抑制するようなアップデートが行われて欲しいものだ。
音質はどう進化したか。ライバル機との違いとは
さて、いよいよ音質チェックである。AirPods Proは第1世代から第2世代に代わり、様々な部分が進化したが、中でも音質はノイキャンと並んで、進化の度合いが大きい部分だ。
これまでのAirPods Pro 第1世代機は、よく言えばおとなしい、悪く言うと平板なサウンドだった。イージーリスニングには良いが、音質の良さを大切にするのであれば、ほかのイヤホンを選んだ方が良いかもしれないと、7月の記事でも指摘した。
第2世代AirPods Proは、ひと言で言うと、メリハリがしっかり付いたサウンドに進化した。音質が一気に向上し、この価格帯の完全ワイヤレスでも十分競争力のあるレベルになった。
ただし対応コーデックは現在のところSBCとAACで、LDACなどハイレゾ伝送が可能なコーデックには対応していない。このため、Apple MusicやAmazon Musicなどで提供されている、ロスレスやハイレゾ音源のクオリティをそのまま引き出すことはできない。
藤井風「きらり」では、アンニュイで少し乾いた歌声が、実体感を持って再現される。ボーカルを支えるベースラインやドラムもしっかりと沈み込む。低音がしっかり再現されるから楽曲の背骨がくっきり明確になるし、高域も素直に上まで伸びて、聴いていてとても心地よい。
Vaundy「踊り子」でも、イントロから曲全体をリードするベースラインの音色がとてもリアルだ。呟くようにふんわりと歌うボーカルも、妙な誇張がないから浮遊感が際立ち、楽曲全体の雰囲気を損なわない。
大滝詠一「君は天然色」はものすごく音数が多く、それが複雑に絡み合う楽曲だ。第2世代AirPods Proで再生してみると、それぞれの音がしっかり分離して聞こえることに、少し驚く。AACで接続しているとは思えないほどだ。全体的なバランスも良く、原曲が持つ自然なパワー感を引き出しながら、なおかつ余計な脚色があまりないのが好ましい。
洋楽も聴いてみよう。Silk Sonic「Leave the Door Open」では、アンダーソン・パークが叩くドラムの、独特の軋みまでしっかりと再現。その上に乗るブルーノ・マーズらのシルキーな歌声も伸びやかだ。高域を彩るきらびやかな鉄琴も、涼やかに響き渡る。
同じAACで接続していても、第1世代機とはクオリティがまったく異なる。第1世代機に比べ解像感が格段に高まり、音の分離も良くなった結果、全体的に音の広がり感が増した。同時に迫力や臨場感も高まった。誰が聴いても違いがわかるほどの差がある。あらためて、コーデックだけで音質は語れないという思いを強くした。
それでは、同じAAC接続であるボーズのQC Earbuds IIと比べるとどうか。これはもう、サウンドの方向性がまったく違うので、好みの問題だと思う。
ボーズの音はとにかくメリハリが効いており、聴いていてとても楽しい。ただし、そのメリハリゆえに、長時間のリスニングでは少し疲れるかもしれない。とはいえアプリを使って、イコライジングで音を調整できるため、聴きやすいサウンドに調整することもできる。
もう一つ、これもよく比較対象となるソニーWF-1000XM4と比べるとどうだろう。先ほど「コーデックだけで音は決まらない」と言った舌の根も乾かぬうちになんだが、やはりLDACコーデックで接続できるメリットは、ものすごく大きい。LDAC対応のAndroidスマホと組み合わせると、ワイヤレスとは思えないほど高品位なサウンドが実現する。これを聴いてしまうと、音質が格段によくなった第2世代AirPods Proも、少しかすんでしまう。やはり第2世代AirPods Proにも、ロスレスコーデックへの対応を期待したくなってくる。
次ページ音質強化だけではない。空間オーディオなどアップルならではの利点