【特別企画】オーディオ銘機賞<銀賞>受賞モデル
異例の高S/Nと豊潤な倍音表現。真空管アンプの常識に挑戦するトライオード「EVOLUTION」レビュー
トライオードの製品ラインナップのなかで、ひと際美しいピアノ・ブラック仕上げを装った「EVOLUTION」。“進化” というネーミングが示す通り、これまでの真空管アンプにはなかった使いやすさを追求、本年度の「オーディオ銘機賞2023」では見事に<銀賞>の栄誉を獲得している。
トライオードのアンプの進化が近年非常に目覚ましい。なかでも特に注目したいのが、同社が指定したショップのみでの販売となるプレミアム・シリーズである。いずれのモデルもハイグレードなブラックのデザインが印象的で、オーディオルームのみならず、現在のスタイリッシュなリビングでも、お気に入りのスピーカーとプレーヤーを組み合わせて使いたくなるほどだ。
このプレミアム・シリーズはこれまでに、出力管「KT150」をプッシュプルで使用するAB級のプリメインアンプ「MUSASHI」(出力100W/8Ω)と、300Bパラシングルで使用するA級の「TRZ-300W」(出力20W/8Ω)の2モデルを発売してきた。そしてついに今年、「KT88」をプッシュプルで使用するAB級のプリメインアンプ「EVOLUTION」(出力40W/8Ω)を登場させた。
本機はそのモデル名が示す以上の “進化” を遂げており、本年度の「オーディオ銘機賞2023」では見事に<銀賞>の栄誉を獲得している。
「EVOLUTION」を見て、管球ファンならまず注目するのはその斬新なデザインであろう。全体はピアノ・ブラックで統一され、中央に入力と音量値がLED表示されている。左右シンメトリーなデザインであることも魅力で、愛用者が将来プリアンプを導入し、本機をパワーアンプとして使用しても、プリメインアンプをパワーアンプに使ったという違和感がまったくないところがとても良い。
本機の開発テーマは、「真空管アンプの殻を破った使いやすさの追求」だ。従来の管球アンプでは、電源やセレクター、音量調整を手で操作する製品が多かった。半導体アンプと比較するなら、管球アンプならではの音質重視の設計思想があるにしても、実に不便だ。そこで同社は、アルミ削り出しの重量感のあるリモコンを標準装備することにチャレンジした。
その機能は、リレーによる入力セレクター操作やモーター駆動の機械式ボリュームによる音量調整とはまったく違う。多くの管球アンプビルダーが電子ボリュームやLED表示の採用を躊躇していたが、同社はここにチャレンジした。
その結果として、ミュート機能やLED照度調整、さらに電源ON/OFFもリモコン操作を可能にしてしまった。リスニングチェアに座りながら全ての操作を可能にする管球アンプは実に斬新である。
「EVOLUTION」の魅力はもちろん外観や操作性だけではない。「MUSASHI」の開発以来、内部技術についても斬新な手法を取り入れているのだ。まず注目するのは、入力から出力まで各パートの基板が整然と配置されていることだ。各回路との干渉を避けた高S/N化が見てとれる。特に入力系の信号経路を見直し、最短で設計することにより、クロストークの低減とチャンネルセパレーションの改善を行なっている。
回路の概略を説明しよう。左に配置された入力制御基板には、入力切り替えリレーを使用。入力信号は最短でMUSES電子ボリュームに接続されている。これが先に説明した入力系の信号の最短化と諸特性の向上の一つだ。
この基板を通過したアナログ信号は、1chあたり「12AX7」を2本使用した初段およびドライバー段に接続されて増幅される。そしてその信号はさらにKT88をプッシュプルで使用する出力段で増幅され、筐体上部のL/Rの2式の出力トランスを介してスピーカーをドライブする仕組みだ。
全体を見渡しても、つくづく伝送距離を最短にしていることが見てとれる。さらにバイアス調整が簡単に行えるように配慮されていることにも好感を持った。
こうした回路を支えるメイン電源に関しては、大型トロイダル電源トランスを筐体の上部に配置し、内部に大容量コンデンサーが2式搭載されている。整流素子には応答特性に優れ、損失が少ないSiCショットキーバリアダイオードを使用。大型電源トランスとの相乗効果により、安定した強力な電源を回路に供給している。
中央には出力管KT88のプレートに450Vという高い電圧を供給するB電源回路基板が配置されている。さらに電源OFFであってもリモコンで即ONにできるよう別途でスタンバイ電源も搭載している。
同社の説明によると、本機においては、MUSES電子ボリュームの採用が音質向上を実現した要素の一つだと述べている。確かに弱音におけるギャングエラーも皆無で経年劣化もしない。S/Nもセパレーションも非常に高い。音の鮮度も格別だ。低ノイズで安定した強力な電源部も音質に大きく貢献しているはず。広帯域で俊敏な音の立ち上がりは、独自開発の出力トランスを搭載したことが大きく貢献しているに違いない。
本機に関しては3回ほど試聴を行なったが、大きな音質の特徴は、真空管アンプとしては異例の高S/Nを実現していること。弱音へと変化する楽曲では、静けさを特に鮮明にする。
また、どの帯域をも強調することのないフラット・レスポンス特性である。しかも急峻に弱音から強音へと変化する楽曲においては、驚くほど俊敏なスピーカーの駆動力を感じる。ダブルウーファー搭載のB&W「803 D4」も緩みなく朗々と鳴らし切ってしまう。
もう一つの特徴は、倍音が直熱3極管に迫るほど豊潤で透明感があることだ。個人的には、従来のKT88を使用する多くの製品には、中低域に厚みのあるクリーミーな暖色傾向の音を感じていたが、そのカラーレーションも排除され、鮮度の高いナチュラルな音を身につけていることを実感した。
同社のアンプはアナログレコード再生だけに特化せず、CDやハイレゾ再生のメリットも十分に発揮できるような設計をしている。デジタル音源を再生しても、出てくる音の全てがトライオードのアナログの音だ。デジタル再生のダイナミックレンジの広さは失っていないどころか、躍動感に溢れた瑞々しい音楽を体験することができるのだ。
この「EVOLUTION」は高品位なデザインと搭載された技術を考えると価格も実にリーズナブルで、なおかつ長く愛用できるアンプである。往年の真空管アンプ愛好家はもちろんのこと、これから真空管アンプを導入される愛好家にも、まずはぜひトライオード・プレミアム・ショップで試聴していただきたいと思うところだ。
(提供:トライオード)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.187』からの転載です。
ブラックデザインが印象的、トライオードのプレミアム・シリーズ第3弾
トライオードのアンプの進化が近年非常に目覚ましい。なかでも特に注目したいのが、同社が指定したショップのみでの販売となるプレミアム・シリーズである。いずれのモデルもハイグレードなブラックのデザインが印象的で、オーディオルームのみならず、現在のスタイリッシュなリビングでも、お気に入りのスピーカーとプレーヤーを組み合わせて使いたくなるほどだ。
このプレミアム・シリーズはこれまでに、出力管「KT150」をプッシュプルで使用するAB級のプリメインアンプ「MUSASHI」(出力100W/8Ω)と、300Bパラシングルで使用するA級の「TRZ-300W」(出力20W/8Ω)の2モデルを発売してきた。そしてついに今年、「KT88」をプッシュプルで使用するAB級のプリメインアンプ「EVOLUTION」(出力40W/8Ω)を登場させた。
本機はそのモデル名が示す以上の “進化” を遂げており、本年度の「オーディオ銘機賞2023」では見事に<銀賞>の栄誉を獲得している。
フロントLEDの装備やリモコンなど、使いやすさを追求
「EVOLUTION」を見て、管球ファンならまず注目するのはその斬新なデザインであろう。全体はピアノ・ブラックで統一され、中央に入力と音量値がLED表示されている。左右シンメトリーなデザインであることも魅力で、愛用者が将来プリアンプを導入し、本機をパワーアンプとして使用しても、プリメインアンプをパワーアンプに使ったという違和感がまったくないところがとても良い。
本機の開発テーマは、「真空管アンプの殻を破った使いやすさの追求」だ。従来の管球アンプでは、電源やセレクター、音量調整を手で操作する製品が多かった。半導体アンプと比較するなら、管球アンプならではの音質重視の設計思想があるにしても、実に不便だ。そこで同社は、アルミ削り出しの重量感のあるリモコンを標準装備することにチャレンジした。
その機能は、リレーによる入力セレクター操作やモーター駆動の機械式ボリュームによる音量調整とはまったく違う。多くの管球アンプビルダーが電子ボリュームやLED表示の採用を躊躇していたが、同社はここにチャレンジした。
その結果として、ミュート機能やLED照度調整、さらに電源ON/OFFもリモコン操作を可能にしてしまった。リスニングチェアに座りながら全ての操作を可能にする管球アンプは実に斬新である。
信号経路を最短で設計。S/Nや音の鮮度を追求
「EVOLUTION」の魅力はもちろん外観や操作性だけではない。「MUSASHI」の開発以来、内部技術についても斬新な手法を取り入れているのだ。まず注目するのは、入力から出力まで各パートの基板が整然と配置されていることだ。各回路との干渉を避けた高S/N化が見てとれる。特に入力系の信号経路を見直し、最短で設計することにより、クロストークの低減とチャンネルセパレーションの改善を行なっている。
回路の概略を説明しよう。左に配置された入力制御基板には、入力切り替えリレーを使用。入力信号は最短でMUSES電子ボリュームに接続されている。これが先に説明した入力系の信号の最短化と諸特性の向上の一つだ。
この基板を通過したアナログ信号は、1chあたり「12AX7」を2本使用した初段およびドライバー段に接続されて増幅される。そしてその信号はさらにKT88をプッシュプルで使用する出力段で増幅され、筐体上部のL/Rの2式の出力トランスを介してスピーカーをドライブする仕組みだ。
全体を見渡しても、つくづく伝送距離を最短にしていることが見てとれる。さらにバイアス調整が簡単に行えるように配慮されていることにも好感を持った。
巨大な電源回路や独自の出力トランスも音質に大きく貢献
こうした回路を支えるメイン電源に関しては、大型トロイダル電源トランスを筐体の上部に配置し、内部に大容量コンデンサーが2式搭載されている。整流素子には応答特性に優れ、損失が少ないSiCショットキーバリアダイオードを使用。大型電源トランスとの相乗効果により、安定した強力な電源を回路に供給している。
中央には出力管KT88のプレートに450Vという高い電圧を供給するB電源回路基板が配置されている。さらに電源OFFであってもリモコンで即ONにできるよう別途でスタンバイ電源も搭載している。
同社の説明によると、本機においては、MUSES電子ボリュームの採用が音質向上を実現した要素の一つだと述べている。確かに弱音におけるギャングエラーも皆無で経年劣化もしない。S/Nもセパレーションも非常に高い。音の鮮度も格別だ。低ノイズで安定した強力な電源部も音質に大きく貢献しているはず。広帯域で俊敏な音の立ち上がりは、独自開発の出力トランスを搭載したことが大きく貢献しているに違いない。
異例の高S/Nを実現。直熱3極管に迫るほど豊潤で透明感ある倍音
本機に関しては3回ほど試聴を行なったが、大きな音質の特徴は、真空管アンプとしては異例の高S/Nを実現していること。弱音へと変化する楽曲では、静けさを特に鮮明にする。
また、どの帯域をも強調することのないフラット・レスポンス特性である。しかも急峻に弱音から強音へと変化する楽曲においては、驚くほど俊敏なスピーカーの駆動力を感じる。ダブルウーファー搭載のB&W「803 D4」も緩みなく朗々と鳴らし切ってしまう。
もう一つの特徴は、倍音が直熱3極管に迫るほど豊潤で透明感があることだ。個人的には、従来のKT88を使用する多くの製品には、中低域に厚みのあるクリーミーな暖色傾向の音を感じていたが、そのカラーレーションも排除され、鮮度の高いナチュラルな音を身につけていることを実感した。
同社のアンプはアナログレコード再生だけに特化せず、CDやハイレゾ再生のメリットも十分に発揮できるような設計をしている。デジタル音源を再生しても、出てくる音の全てがトライオードのアナログの音だ。デジタル再生のダイナミックレンジの広さは失っていないどころか、躍動感に溢れた瑞々しい音楽を体験することができるのだ。
この「EVOLUTION」は高品位なデザインと搭載された技術を考えると価格も実にリーズナブルで、なおかつ長く愛用できるアンプである。往年の真空管アンプ愛好家はもちろんのこと、これから真空管アンプを導入される愛好家にも、まずはぜひトライオード・プレミアム・ショップで試聴していただきたいと思うところだ。
(提供:トライオード)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.187』からの転載です。