小型サイズに込めた各社こだわりの技術が光る
“有線イヤホン派”のマストアイテム!スマホを高音質にするスティック型DAC 11モデル一斉試聴
Lotoo「PAW S2」 音楽表現の高さでリスナーを巧みに引き込む
Lotooは1999年に中国/北京で創業されたインフォメディア社のコンシュマー向けブランド。同社はラジオ局やテレビ局などで使用される業務用機材が高く評価されているが、Lotooブランドはその技術を生かしたDAPも好評だ。スティック型DACの分野でも、同社は比較的早い時期から製品を投入してきたが、PAW S2は過去に高い評価を得た「PAW S1」の後継機種である。
筐体サイズは66Wx22Dx13Hmmで、6000系アルミニウム合金を採用した筐体はデザインも秀逸。筐体表面からの反射光が美しく見える、滑らかなボディラインを持つ。レゾリューションやボリュームなどのステータス表示は有機ELを用いており、表示部をカバーするガラスはCNCによって冷間切削加工された3D曲面ガラスを採用する。
DACチップには「AKM4377」を採用。アナログ基板とデジタル基板は、高度な2枚の8層高密度相互接続プリント基板を採用し、小型化によるノイズや音質劣化を最小限に抑えているほか、アナログデバイセズ社の「Blackfin」DSP、オーディオ処理専用のオペレーティングシステムである独自OS「Lotoo OS」をインストールしており、自社独自のソフトウェアを実装している。
さらに付属ケーブルも、高純度のOFC線に銅編組とアルミ箔の二重シールドを施したオリジナル品を採用するなど、高価格帯の製品だがその分随所に見どころの多いモデルの1つだと言えよう。また、ボディには再生、停止、曲送りなどが可能なボタンが装着されており、ユーザビリティを上げている。ヘッドホン出力は3.5mmシングルエンドおよび4.4mmバランスを搭載する。
全体的な音の印象だが、音色的なクセが少なくfレンジ/Dレンジともワイドレンジ。低域の力感や立ち上がりも良好だ。それにより、帯域バランスがニュートラル方向の「Signature STUDIO」との相性が高い。エド・シーランはスピードと音楽性とのバランスが良く、音楽表現の高さでリスナーを巧みに引き込む。アデルは吸い込まれるようなバックミュージックの雰囲気が素晴らしい。ジョン・ウィリアムズはフラットな帯域バランスと適度な解像感も併せ持ち、低域のレンジも伸びている。
「HD 800S」では若干の駆動力不足も感じるが、クセのない音色は同一傾向で、エド・シーラン、アデルとも自然な質感で低域の立体感は担保されている。バックミュージックに対するボーカルの距離感や浮かび上がり方も自然な表現だ。ジョン・ウィリアムズはオーケストラを構成する金管楽器、木管楽器とも自然な音色で誇張がなく、fレンジは広いが低域の無駄な迫力も抑えてある。分解能は高いが、あからさまに解像感を強調するような無理のある作りではないので長時間のリスニングでも心地よく楽しめるだろう。
楽彼(LUXURY&PRECISION)「W2-131」 バランス接続ではシャープな表現に
弩級のR-2Rラダー型DAC回路を搭載したポータブルプレーヤーなどを発売してきた中国のオーディオブランドLUXURY&PRECISION(ラグジュアリーアンドプレシジョン)のスティック型DAC。W2-131は2021年5月に発売された「W2」のアップグレードモデル。
美しいプロシアンブルーカラーの筐体は外観的なオリジナリティがある。3.5mmシングルエンドと4.4mmバランスの2端子を搭載し、スティック型DACでは珍しいS/PDIFデジタル出力も機能も備える。DACチップはシーラスロジック社製「CS43131」をデュアル構成で搭載。筐体にはボリュームや項目選択用のシーソー式ボタンを装備し、レゾリューションやボリューム表示部も備えている。ケーブルは脱着式で、「USB-C to C」および「USB-C to Lightning」の2種類のケーブルが同梱されている。
サウンドは、全帯域のスピード感とディテール表現が明瞭でメリハリが効いている。最低域のレンジは若干制限されて聴こえ、アンバランス接続とバランス接続のキャラクターの違いが大きいことも印象的だった。
アンバランス接続時の質感表現はバランス接続よりも若干柔らかく安心して聴ける音で、エド・シーランやアデルは解像感と密度のバランスが良い。ジョン・ウィリアムズは色付けがなくニュートラルなサウンドだが、柔軟なディテールもあり聴きやすい。
一方のバランス接続は高音域から低音域までよりシャープな表現に変化する。エド・シーランは高音域に若干の突き刺さり感があるものの、低域のレンジは伸ばさずスピード感がある。アデルは空間および質感の両面で透明感が高く、ボーカルのディテールもシャープ。若干高域が強いためか、ベースとピアノともスピード感のある音に聴こえる。ジョン・ウィリアムズはタイトで引き締まった力強い低域によって抑揚表現にスピードがあり、サウンドステージは左右方向も奥行き方向も良く広がっている。
いかがだったろうか? 巷では完全ワイヤレスイヤホンが活況だ。しかし音質を一番に考えるなら、やはりワイヤードタイプのアドバンテージは俄然大きい。外出先で自分の愛機を手軽に使いたいと思った時に、スマートフォンには3.5mmのヘッドホンジャックが搭載されていないと嘆く方には、ぜひスティック型DACの導入をお勧めしたい。
今回は代表的な11機種を集中試聴したが、当初の予想以上にしっかりとした音質のモデルが多かった。大型の据え置き型アンプと比べてしまうと、中高域のディテールの滲みや低域の制動力をさらに求めたくもなる時もあるが、完全ワイヤレスイヤホンが活況の昨今、スティック型DACは、ワイヤードイヤホンの愛機に改めて光を当てる注目のアイテムといえる。
これから先も、スティック型DACはポータブルオーディオの定番商品の1つとなるだろうが、現時点では各メーカーが機能を含め試行錯誤中、ある意味で過渡期の製品ともいえる。それにしても現時点でこれだけバラエティ豊かなラインナップから選べるのは本当に嬉しい。これから買う1本に、本レビューを参考にして頂けたら幸いだ。