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<特別対談>オーディオ評論家が語る“推し”アルバム。ティアック「701シリーズ」で魅力を検証!

公開日 2023/04/04 06:30 土方久明/生形三郎 構成:ファイルウェブオーディオ編集部
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「音をそのものを味わうこともオーディオの楽しみのひとつ」



生形 次はバッハのコンチェルトです。ドイツ・ハルモニア・ムンディからリリースされた『Bach Concertos:Lost and Found』というアルバムですが、コンセプトが面白い。バッハは過去に自分が作った曲や他人の曲をモチーフにして新しい楽曲を生み出していましたが、そのオリジナルとなった楽曲を再現できないか?というテーマで作られたアルバムです。

Die Freitagsakademie『Bach Concertos:Lost and Found』(FLAC 96kHz/24bit)

確かにオーディオの入口を作る上で、流行の音楽をピックアップすることも大切ですが、その上で「音そのものを楽しむ」ということもオーディオの重要な役割だと考えています。これはリファレンス用というよりは、私自身がオーディオを楽しむための音源ですね。バッハが元々好きというのもあるのですが。曲は2曲目の「オーボエ・ダモーレ協奏曲」。オーボエ・ダモーレは、オーボエより少し甘い音がでる古楽器です。

「音そのものを楽しむ」ということもオーディオの重要な役割と語る生形氏

土方 確かに。生形さんのおっしゃることもよくわかります。それでは、僕はジャズ好きのロマンが詰まった音源を。ビル・エヴァンスのライヴ音源『Morning Glory』から「Re:Person I Knew」です。オリジナルは1973年発売で、以前は海賊版で発売されていたのですが、オリジナルテープが見つかりそこからダイレクトトランスファーされたものです。2xHDからリリースされました。ヒスノイズも多いのですが、オーディオルームに会場の雰囲気をそのまま再現するのは、352.8kHz/24bitのDXDといったハイスペックな音源じゃないと難しいと思っています。

ビル・エヴァンス『Morning Glory』(FLAC 352.8kHz/24bit)

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土方 僕はクラシックを専門にしている訳ではありませんが、バッハのこの音源はとても気持ちがいいというか、しっかりしたオーディオシステムで聴くからこその音源の良さが出ていますね。

生形 アコースティック楽器って、ファイル再生時に歪み感の強調があると厳しいと考えています。特に今回のようなピリオド楽器では、倍音よりも噪音と言われるような、現代楽器とはまた違った魅力があります。このしなやかさを出すのは非常に難しくて、下手な装置でかけるとギシギシとして聴きづらくなってしまいます。でも今回のティアックのシステムはその良さもしっかり引き出してくれていますね。

土方 UD-701Nはネットワークプレーヤーであると同時にプリの機能まで入っていますから、パワーアンプまでダイレクトに繋ぐことができます。それが鮮度の高さの秘密だと思いますし、こういう音源を持ってきた時に良さが出てくるように思います。

生形 ティアックの500シリーズにも共通したものを感じていますが、瑞々しさがあって身の詰まったもっちりしたところが魅力だと思っています。701ではそれがさらに上品に、ひとつ上の次元に行ったかなと思います。

土方 ビル・エヴァンスはめちゃくちゃハイファイってわけではないのですが、未発表音源がハイスペックで聴ける! というのはやはりオーディオのロマンがありますよね。ベースラインのリアリティは再生が難しいので、ここを追求したい。それもオーディオの楽しみの一つです。

生形 元々の録音があまり良くなかったのか、低域はマスタリングで少し持ち上げたような感触もありますね。ただ、何十年も昔の録音を自宅で聴けるというのはオーディオの醍醐味の一つですよね。ハイレートならではのなめらかさというか、ある種のリアリティも感じてすごく傾聴できました。

オーディオの未来や可能性を感じる楽曲をセレクト!



ーー最後の曲は、おふたりがオーディオの未来を感じる!と思う曲を持ってきていただきました。

土方 待ってました!はい、中森明菜さんです!

生形 本当に好きですねそれ(笑)。

土方 これはただの中森明菜ではないんです。アナログのラッカー盤からデジタル化した音源で、e-onkyo musicで『POSSIBILITY AKINA NAKAMORI 7TH ALBUM (+2)』というタイトルで2022年12月に発売されています。もとは1987年にリリースされた7枚目のアルバムになりますね。

中森明菜『POSSIBILITY AKINA NAKAMORI 7TH ALBUM (+2)』(FLAC 96kHz/24bit)

僕は個人的にもアナログレコードのデジタル化にも取り組んでいて、ブルーノートのオリジナル盤を384kHzのPCMやDSD11.2MHzで録音しています。でもこれは、レコード制作の関係者以外、普通は触ることのできない「ラッカー盤」からデジタル化したというもので、オーディオファン的にも非常にワクワクする音源です。曲は1曲目の「サザン・ウインド (2022 Lacquer Master Sound)」を推薦します。

生形 では私からは、2Lレーベルの「北極の音」というアルバムです。2Lレーベルについてはオーディオファンの方はご存知と思いますが、北欧・ノルウェーのレーベルで、レコーディングのレベルの高さはもちろん、AURO-3Dを含む新しいオーディオフォーマットも積極的に取り入れているレーベルです。

『Lasse Thoresen:Lyden av Arktis (The Sound of the Arctic)』(DSD 11.2MHz)

レコーディングの特徴として、無志向性マイクでワンポイント録音を行っているので、再生が非常に難しい。ディテールを表現できないと、茫洋とした音で終わってしまいます。オーディオの製品評価としては意地悪なソースでもありますが、逆にフルにオーディオの性能を活かしきった時に出てくる音は素晴らしいです。

僕はこのレーベルがこういった音楽をリリースする、その志を非常に評価しています。ノルウェーの作曲家や演奏家をフィーチャーするなど、自国のアイデンティティを出して活動している所は素晴らしいと思いますし、かつそれが音に反映されています。曲は最終章「倒壊」。

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生形 中森明菜さん、高域が少ししょわしょわしているのが気になりますが…でも、80年代の音がそのままパッケージ化されているというか、音としての味わいがありますね。

土方 ネットワークプレーヤーで、強引にアナログサウンドを楽しむ(笑)。ただ、レコード再生っていい音を出そうとすると本当にお金がかかるので、デジタルアーカイヴすることで、手軽に音質的にも高いレベルに迫ることができる、というのは価値があると思っています。ただ、これスペックが96kHz/24bitなんですよね。せっかくレコード会社がオフィシャルでデジタル化するのですから、できればもうちょっと高いフォーマットを期待したかったところですが…。

ーー「北極の音」はすごいですね。音だけで氷河が割れるイメージ、崩れるイメージを表現していて、文字通り目の前に氷河が現れたような視覚的イメージを想起させてくれます。

土方 これは今日聴いた中で一番再生難易度が高い! でも最後にふさわしい! なんだこれはすごい!

生形 これは本当に再生が難しい曲で、正直に言えばこの音元出版の試聴室ではちょっと飽和気味になっていますね。でも、これはオーディオの可能性を感じませんか? 音ってなんなんだろう、音楽ってなんなんだろうっていう哲学的な問いにもつながってくるところがあり、これがオーディオの魅力のひとつだと私は考えています。

私自身が録音の仕事をしていることもありますが、「録音して再生する」という一連の流れを追うことで見えてくることもあると思います。現実の音と一旦切り離し、別の場において再現する。最初にミュージックコンクレートの話をしましたが、まさにそれが私のオーディオの入口とも言えるものです。

「音楽ってなんだろうって考えさせてくれるのもオーディオの魅力」

土方 音の世界に引き込まれてしまう凄みがありますよね。

生形 そういうイメージが湧きやすいのも、ティアックのS/Nがよくて透明感が高いシステムの力もあるかなと思います。またB&Wのダイヤモンドトゥイーターの空間の広さの再現はやはりすごいなと思いました。

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