独自R-2RDAC/FPGA搭載の最先端DAP
3つの技術を巧みに集約!Astell&Kern次世代DAP「A&futura SE300」の“新次元サウンド”を聴く
試聴では、beyerdynamic(ベイヤーダイナミック)のイヤホン「Xelento remote 2nd generation」に、付属の4.4mmプラグ仕様のバランスケーブルを接続。まずは一般的なDAPの構成と近い「AB級動作/OSモード」にて聴いてみる。
その音は、R-2R方式ならではの音像の密度感と分離の良さ、誇張感を抑えたナチュラルな輪郭表現を軸とした耳当たり良いサウンド傾向であり、個々の楽器を丁寧に拾い上げ、アタック感も鮮明だ。
続いて「AB級動作/NOSモード」に切り替えると、見通しが深く、音像の分離がさらに良くなり、輪郭表現も倍音の強調感がなく自然に際立ってくる。定位のフォーカス感も向上し、立体的な音場が展開。余韻も階調性良く伸びやか。質感描写も丁寧で、全体的に落ち着きのあるトーンとなる。
そして「A級動作/OSモード」に切り替えてみると、音像の太さが増し、低重心で安定感のあるサウンドに変化。リッチで艶やかな音色であり、音像の輪郭は僅かに煌びやかなエッジで際立たせている印象を持つ。ローエンドにかけて厚みのあるふくよかな描写となるが、密度が伴い、広がりすぎることはない。質感そのものは上品なタッチである。
一方「A級動作/NOSモード」では脚色感がなく、奥行きの深さと音場のクリアさが向上。余韻の微細なニュアンスも鮮明に掴み取れる。音像の重心もぐっと沈み込み、ベースの響きの太さや腰の据わった安定感が強まった。ボーカルの質感は滑らかで、口元の艶、潤いもより良く描く。描写のリアルさと分離の良さ、それに加え適度な艶が生み出す彩りとスムーズな音運び、生々しい密度を伴うボディ表現により、有機的なサウンドを聴かせてくれる。
YOASOBI「アイドル」を再生すると、AB級動作ではボーカルのキレが良くハキハキとしたタッチで描く。OSモードではより輪郭を強調した傾向で、口元のフォーカスも良い。シンセベースの高い周波数のエッジ感、ギターのフラッシーさも印象的。サビ前のREAL AKIBA BOYZによる掛け声や手拍子は広がり良く拡散していく。
NOSモードでは個々のパートが自然に浮き立ち、余韻のキレも向上。シンセベースやピアノの響きは締まり良くブライトに描く。サビ前の手拍子も鮮明だ。
続いてA級動作/OSモードになると、声の厚みやシンセベースも密度感が増している。ギターのトーンも落ち着きがあり、サビ前の掛け声や手拍子は粒立ちが細かく浮き立ってくるが、その前後の距離感も掴みやすい。
さらにNOSモードになると、音像のコシの太さとともに、自然な輪郭表現によって音離れの良さが引き立つ。コーラスの伸びやシンセの輝き感も明瞭であり、サビ前の掛け声や手拍子も一際クリアでほぐれ良い。ボーカルの肉付き感や滑らかさもナチュラルに描き、生々しさも醸し出す。音数が多くても飽和せず、きつくならない点もR-2R方式DAC+A級動作によるメリットだろう。
このままA級動作/NOSモードで他のジャンルも聴いていこう。クラシックの飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラ コンサート2013『プロコフィエフ:古典交響曲』では、管弦楽器の響きは潤い良く爽やかに展開。音場は広がり良く、ホールトーンの質感も丁寧に拾い上げる。低域のコントロールにも優れ、ハーモニーをダンピング良くまとめ、空間をクリアに表現。木管パートの厚みも抑揚良く描いている。
ロックアルバム『MENIKETTI』では、エレキギターはハーモニクスが豊かで、弦は太く、リフの存在感も高い。リズム隊はローエンドの重さを的確にトレースしつつ、アタックのキレも両立。ボーカルは音ヌケ良く浮き立つが、輪郭感はナチュラルで、口元は艶良くウェットに描写。ボディの太さも良く、低重心で芯が強い。
DSD音源についてもチェック。ジャズの『Pure2 -Ultimate Cool Japan Jazz-』は、ホーンセクションに重みがあり分離が良い。キックドラムやウッドベースは太く密度があるが、アタックは滑らかなに描き、ウッドベースの弦はむっちりとした艶を丁寧にトレース。余韻の響きも緻密であり、ピアノやシンバルの響きは上品でハリがある。
11.2MHz音源のSuara「キミガタメ」はピアノやアコースティックギターのローエンドまで的確に捉え、芯の太さとハーモニクスの豊かさを引き出す。ボーカルの口元は潤い良く丁寧で、リヴァーブ処理も分離良く感じられる。有機的な音の融合を実感できる生々しいサウンドだ。
R-2R方式DAC、A級動作、NOSモード、この3点はともに音質的傾向は同じベクトルの軸上にあり、組み合わせることでその魅力を倍以上に引き上げてくれるような実感を得られた。
SE300によって、汎用チップに頼らずとも、ハイレートな音源を正確に再生しつつ、アナログの理想的な音色で聴かせることができる、Astell&Kern念願のDAPが完成したといえるのではないか。
ここで培ったノウハウを下位モデル、そして更なるブラッシュアップを加えフラグシップモデルへ反映させていくことで、Astell&KernのDAPはまた一段上の次元へと進化していくだろう。SE300はそうした次世代のサウンドを垣間見せる、魅力に溢れたプロダクトである。
(企画協力:アユート)