PRマルチ機と異なる独自の価値を放つ一台
MADOO第三弾イヤホン「Typ821」は“原点にして頂点”!マイクロプラナーシングル構成で磨き抜かれた描写力を聴く
同社イヤホンのアイコニックなデザインである、「窓」をイメージしたというサファイアクリスタル製フェイスプレートにも注目。
その形状は、これまでの「四角形の窓と4本のネジ」から「八角形の窓と8本のネジ」に変更されている。ブランドの第2世代としての新しさのアピールもありつつ、当初から意識していた「潜水艦の窓」により近付けたとのことだ。
このほか、リケーブル端子はPentaconn Ear、3.5mmシングルエンド駆動用「MRC011」と4.4mmバランス駆動用「MRC023」の2本を標準付属するのはこれまでと同様である。
現代的な描写が際立つ、クール&メロウなサウンドが魅力
付属の4.4mmケーブルを使い、ハイエンドDAPと組み合わせてのバランス駆動でその実力を確認する。DAPはAstell&Kern「KANN MAX」を使用した。
印象をまとめると、現代的な描写、その魅力が際立つサウンドだ。S/N感や透明感に優れ、シャープでハイコントラスト。しかもそのシャープさが中途半端ではなく磨き抜かれているおかげか、音のほぐれや湿度感も見事に表現してくれる。クールでいてメロウ。
そのサウンドの雰囲気は、ホセ・ジェイムズ「Bag Lady」とRobert Glasper Experiment「Human」の聴こえ方を例に出すと伝わりやすいかもしれない。どちらも現代的なサウンドで、硬質でハードなヒップホップのニュアンスと、優しくソフトなR&Bのニュアンスをどちらも含む。その上で前者はヒップホップ成分強め、後者はR&B成分強めというバランスだ。
Typ821はその成分のうち、R&B成分の魅力を特に際立たせてくれる。高域の細やかな描写によって、ハイハットシンバルの粒子感がほぐれ、より優しい印象に。スネアドラムのバシッという抜けも、その濁点成分がほぐれてよりナチュラルなアタックになる。加えて優れたS/N感によって背景の黒が沈み込むことから、全体としてより落ち着いた大人の雰囲気を醸し出す。
結果、ヒップホップとR&Bの比率が「Bag Lady」は6:4から5:5、「Human」では4:6から3:7に変化。そんな様子をイメージしてみてほしい。サウンドを激変させてしまうわけではなく、絶妙にほどよく、クール&メロウに寄せる。これにはハマる方もいそうだ。
現代最先端なポップスとの相性も当然抜群。音像の明瞭度、背景とのコントラストのおかげで、どんなに音数の多いアレンジでも全ての音が映える。
YOASOBI「アイドル」ではまず、OPで印象的な、オーケストラヒット的な音色によるフレーズのスケール感に注目。その音の後に響く余韻の成分の見え方がとてもクリア。それによって曲全体の空間が広がり、その広さがあるからこそ、音の細かな動きや配置もより生きてくる。
細かな動きといえば、サビに入る手前でのベースの高速スラップも注目ポイント。実に滑らかなアタック感で粒立ちよく届いてくる。あらゆる音域、あらゆる楽器の細かなフレーズも埋もれさせずに届けてくれることは、このイヤホンの大きな強みのひとつ。それがわかりやすく発揮される場面だ。
なお前述の3曲とも超低域までを活用したサウンドだが、Typ821はそれを損ねることもなかった。重みや厚みは必要十分程度。しかし低音楽器においても粒立ちやスピード感の表現に優れるおかげで、低音再生の総合力としては優秀だ。
特に中高域側の表現は、Typ711やTyp512からさらに磨き上げられた印象。それはシングルドライバーという最もピュアな構成もあってこそだろう。ならば今後マルチドライバーの第2世代モデルが登場してきても、Typ821は独自の価値を維持し続けられるはず。
原点にして頂点。本当にそうなってくれそうなモデルだ。
(提供:ピクセル)