【特別企画】25周年モデルと30周年モデルの実力を検証
トライオードの原点、3極管の魅力をいかに引き出すか?「300B」搭載の周年モデルを徹底比較!
“3極管”の名を関するトライオードは、創立以来一貫して3極管の魅力を追求してきたブランドだ。同社の「EVOLUTION 300 30th Anniversary」と「TRZ-300W」(25周年記念モデル)は、いずれも300Bならではの音を引き出すべく開発されたモデル。その技術、そして音質の違いはどこにあるのか探ってみた。
トライオードを代表するアンプを2台。同じ直熱管300Bを使いながら、コンセプトも構成も異なる両機が持つ個性と魅力をたっぷり味わってみたい。
「EVOLUTION 300 30th Anniversary」(以下「EVOLUTION 300」)はWE製300Bを使用した同社30周年記念モデルで、シングル構成ながら12W/chの出力を確保。初段/ドライバー段間を直結とするなど、回路やパーツにも先進化を図っている。
一方の「TRZ-300W」は25周年記念モデルで、創業時の最初のモデルVP-300BDを引き継いでパラシングル構成としている。出力は8Ωで20W/chと余裕がある。
「EVOLUTION 300」はA級でもグリッド電位を正領域になるまで使うA2級として、ぎりぎりまで出力を取り出している。しかしそこから出てくる音には無理矢理な生硬さがなく、管球式の王道と言ってもよさそうな当たりのいい音調が人を惹き付ける。柔和で潤いに富み、刺や引っ掛かりを感じさせない滑らかな鳴り方が、これこそ300Bというイメージにぴったり当てはまるのである。この音を聴いて不快に思う人はいないだろうし、どんなソースを持ってきても無理がない。高品位に安定した充実感が目覚ましい。
古楽器によるハイドンの交響曲は、弦楽器の瑞々しさをいっぱいに響かせて隅々までバランス感覚の行き届いたハーモニーが快い。楽器どうしの分離もきれいに取れてまとまりがよく、清々しさに満ちた再現が楽しい。ピアノは汚れのないタッチが、澄んだ余韻に乗ってほどよい肉質感を保っている。瞬発的な鋭さは控えめに抑え、濁りや刺のない質感をじっくりと捉えている印象だ。この均衡がちょうどいいところで取れているらしく、どこにももの足りなさは感じないが出過ぎた強調感もまた皆無と言っていい。
特に現代のハイスピードなスピーカーでその特質が際立つようで、弱音のきめ細かな表や陰影の濃さ、演奏者が直接語り掛けてくるようなストレートな感触などが聴くほどに明らかになってくる。
オーケストラは壮麗な響きを持つブルックナーの作品だが、その大編成のアンサンブルを混濁することなく整然と描き出して揺るぎがない。大音量での輝かしい艶やかな和声が実にたっぷりと鳴り渡り、悠然とした足取りさえ感じさせる。そこに弦楽器の瑞々しい音色や金管楽器の明るさなど、暴れのないスケールの大きさが生きている。ことに低音弦の実在感が音楽全体のベースとなって、落ち着いた重心を作り上げているようだ。
アナログでもこの特質に変わりはなく、安定感と充実した手触りはそのまま受け継がれている。むしろこの方がウェスタン球の瞬発力やスピードを感じさせる部分もあって興味深い。
バロックは爽快で瑞々しく、楽器どうしの分離が利いてアンサンブルが生き生きとしている。独奏フルートの表情がなんともいえずリアルで、これがアナログのよさだなとしみじみ感じるのである。オーケストラの鮮やかなシャープネスは意外で、朗々とした金管楽器やしっとりと厚みを備えた弦楽器などが、強弱の幅の広いダイナミズムで描き出されている。低音の深い底力も明瞭だし、色彩感が豊かで再現が多彩なのである。
TRZ-300Wは当たりのいい柔らかさがいっそう際立ち、期待どおりの3極管の音というイメージである。響きがふんわりとして包み込むようなところがあり、古楽器アンサンブルなどそれだけで持っていかれてしまいそうな魅力に富んでいる。
ピアノは少々近代的な作品なのでその鋭さや破綻したようなデカダンス感は若干おとなしく感じられるが、同時にその底に流れる濃厚なロマンティシズムが深く描き出されてくる。音色が純粋で汚れがなく、しかもパラシングルだけに強弱の起伏が十分に取れている。その振幅の大きさが、こうした情感を引き出しているのに違いない。
オーケストラはどうだろう。ダイナミズムの幅が非常に広いソースなのでそこで破綻が起きてはなんにもならないが、その心配は無用で突発的なフォルテにも余裕で対応し悠然とした大音量をたっぷりと響かせる。重心が落ち着いているのかバランスが大変安定して聴きやすく、木管楽器などの細かなパッセージにも緻密な表情が乗っている。柔らかな力感が頼もしい。
アナログでは繊細さやディテールのシャープネスが生きる。バロックは特に弦楽アンサンブルの切れのよさと独奏フルートの清新さが明るく引き出されて、表現に張りがある。ピアノはがっしりと骨格が張って力強く、タッチの肉質感が厚い。またオーケストラの余裕のあるダイナミズムにも、高い信頼性が現れている。さすがに定評ある仕上がりである。
現代的で緻密な再現性を見せるEVOLUTION 300と、おおらかで当たりがよく弾力に富んだTRZ-300W。いずれも300Bの特質を高品位に展開した再現性である。それぞれが捉えた側面は異なるが、出てくる音にはどちらも300Bの魅力が充満している。同じ3極管の魅力を描き分けて見せてもらった印象で、真空管の愉悦に浸りきった気がする。オーディオ的至福の時間である。
(提供:トライオード)
本記事は『季刊・アナログ80号』からの転載です。
300B搭載の25周年モデルと30周年モデルを徹底比較!
トライオードを代表するアンプを2台。同じ直熱管300Bを使いながら、コンセプトも構成も異なる両機が持つ個性と魅力をたっぷり味わってみたい。
「EVOLUTION 300 30th Anniversary」(以下「EVOLUTION 300」)はWE製300Bを使用した同社30周年記念モデルで、シングル構成ながら12W/chの出力を確保。初段/ドライバー段間を直結とするなど、回路やパーツにも先進化を図っている。
一方の「TRZ-300W」は25周年記念モデルで、創業時の最初のモデルVP-300BDを引き継いでパラシングル構成としている。出力は8Ωで20W/chと余裕がある。
EVOLUTION 300 -現代的な緻密な再現性で高品位に安定した充実感
「EVOLUTION 300」はA級でもグリッド電位を正領域になるまで使うA2級として、ぎりぎりまで出力を取り出している。しかしそこから出てくる音には無理矢理な生硬さがなく、管球式の王道と言ってもよさそうな当たりのいい音調が人を惹き付ける。柔和で潤いに富み、刺や引っ掛かりを感じさせない滑らかな鳴り方が、これこそ300Bというイメージにぴったり当てはまるのである。この音を聴いて不快に思う人はいないだろうし、どんなソースを持ってきても無理がない。高品位に安定した充実感が目覚ましい。
古楽器によるハイドンの交響曲は、弦楽器の瑞々しさをいっぱいに響かせて隅々までバランス感覚の行き届いたハーモニーが快い。楽器どうしの分離もきれいに取れてまとまりがよく、清々しさに満ちた再現が楽しい。ピアノは汚れのないタッチが、澄んだ余韻に乗ってほどよい肉質感を保っている。瞬発的な鋭さは控えめに抑え、濁りや刺のない質感をじっくりと捉えている印象だ。この均衡がちょうどいいところで取れているらしく、どこにももの足りなさは感じないが出過ぎた強調感もまた皆無と言っていい。
特に現代のハイスピードなスピーカーでその特質が際立つようで、弱音のきめ細かな表や陰影の濃さ、演奏者が直接語り掛けてくるようなストレートな感触などが聴くほどに明らかになってくる。
オーケストラは壮麗な響きを持つブルックナーの作品だが、その大編成のアンサンブルを混濁することなく整然と描き出して揺るぎがない。大音量での輝かしい艶やかな和声が実にたっぷりと鳴り渡り、悠然とした足取りさえ感じさせる。そこに弦楽器の瑞々しい音色や金管楽器の明るさなど、暴れのないスケールの大きさが生きている。ことに低音弦の実在感が音楽全体のベースとなって、落ち着いた重心を作り上げているようだ。
アナログでもこの特質に変わりはなく、安定感と充実した手触りはそのまま受け継がれている。むしろこの方がウェスタン球の瞬発力やスピードを感じさせる部分もあって興味深い。
バロックは爽快で瑞々しく、楽器どうしの分離が利いてアンサンブルが生き生きとしている。独奏フルートの表情がなんともいえずリアルで、これがアナログのよさだなとしみじみ感じるのである。オーケストラの鮮やかなシャープネスは意外で、朗々とした金管楽器やしっとりと厚みを備えた弦楽器などが、強弱の幅の広いダイナミズムで描き出されている。低音の深い底力も明瞭だし、色彩感が豊かで再現が多彩なのである。
TRZ-300W -弾力に富み濃厚なロマンティシズムを深く描き出す
TRZ-300Wは当たりのいい柔らかさがいっそう際立ち、期待どおりの3極管の音というイメージである。響きがふんわりとして包み込むようなところがあり、古楽器アンサンブルなどそれだけで持っていかれてしまいそうな魅力に富んでいる。
ピアノは少々近代的な作品なのでその鋭さや破綻したようなデカダンス感は若干おとなしく感じられるが、同時にその底に流れる濃厚なロマンティシズムが深く描き出されてくる。音色が純粋で汚れがなく、しかもパラシングルだけに強弱の起伏が十分に取れている。その振幅の大きさが、こうした情感を引き出しているのに違いない。
オーケストラはどうだろう。ダイナミズムの幅が非常に広いソースなのでそこで破綻が起きてはなんにもならないが、その心配は無用で突発的なフォルテにも余裕で対応し悠然とした大音量をたっぷりと響かせる。重心が落ち着いているのかバランスが大変安定して聴きやすく、木管楽器などの細かなパッセージにも緻密な表情が乗っている。柔らかな力感が頼もしい。
アナログでは繊細さやディテールのシャープネスが生きる。バロックは特に弦楽アンサンブルの切れのよさと独奏フルートの清新さが明るく引き出されて、表現に張りがある。ピアノはがっしりと骨格が張って力強く、タッチの肉質感が厚い。またオーケストラの余裕のあるダイナミズムにも、高い信頼性が現れている。さすがに定評ある仕上がりである。
現代的で緻密な再現性を見せるEVOLUTION 300と、おおらかで当たりがよく弾力に富んだTRZ-300W。いずれも300Bの特質を高品位に展開した再現性である。それぞれが捉えた側面は異なるが、出てくる音にはどちらも300Bの魅力が充満している。同じ3極管の魅力を描き分けて見せてもらった印象で、真空管の愉悦に浸りきった気がする。オーディオ的至福の時間である。
(提供:トライオード)
本記事は『季刊・アナログ80号』からの転載です。