【特別企画】適確な駆動でパワーアンプに情報を送り出す
新世代の真空管プリ「EVOLUTION PRE」に見るトライオードの新挑戦。半導体/真空管パワーで聴き比べ
リモコンや大型ディスプレイを配置した真空管アンプの“革命”「EVOLUTIONシリーズ」のラインナップに、新たにプリアンプが加わった。真空管を追求するトライオード技術が惜しみなく投入された「EVOLUTION PRE」、プリアンプならではの挑戦を聴いてみよう。
「EVOLUTION」や「EVOLUTION 300 30th Anniversary」などで大きな飛躍を見せたトライオードから、今度は同じシリーズのプリアンプが発表された。これまでのモデルは多くがパワーアンプ部を独立して使うことができる設計なので、これらに接続してグレードアップを図るというのがひとつの使い方。
もちろんそれだけではなく、汎用的なプリアンプとして、他のパワーアンプとの組み合わせも視野に入れている。トライオードではセパレートタイプが少なくプリメインアンプを主体としているので、本機のような本格的なプリアンプは大変注目される存在である。なお「EVOLUTION」同様本機もインターネットでの取り扱いは行わず、一定条件を満たした販売店トライオード・プレミアムショップでのみ入手できる。
入力は全てRCAで4系統。ボリュームにMUSES電子ボリュームを採用しているのが目を引くが、EVOLUTION以来これによって回路構成がシンプルになり、またギャングエラーのない音量調節も実現されたことをよく認識しておきたい。
増幅素子には双3極管「12AX7」をチャンネル当たり2本使用している。回路は2段増幅でこれに1本を充て、もう1本は2回路連結の並列としてカソードフォロワーを形成する。さらにそこからFETを通って出力されるが、これはソースフォロワーのようだ。
電源には大型Rコアトランスを搭載。またオリジナル・ポリプロピレン・コンデンサーを始め高品質なパーツが採用されている。さらにディップフォーミング無酸素銅製の電源ケーブルが付属する。
まず一般的な形として、半導体アンプで聴いてみる。アキュフェーズ「P-4500」である。輪郭が明確で濁りがなく、響きの瑞々しい音調だ。立ち上がりにも逡巡がなく、きめ細かな手触りと曇りのないディテールが伸びやかな鳴り方を支えている。
ピアノトリオや古楽器アンサンブルなどはそうした特質が遺憾なく発揮され、どちらもとりわけ弦楽器の音色が潤いに富んで大変颯爽としている。それでいて肉質感はしっかり備えているから、芯が消えてふやけることはない。そしてエネルギー・バランスが整ってどこにも凹凸がなく、極めて平坦なレスポンスがいっそう乱れのない再現を充実させる。
ピアノは芯の強さと骨格の逞しさが際立っている。高低両域へ無理に引き伸ばすことをしていないため、わずかだがどちらにも丸く収まる感触がある。ピアノの場合はそれが瞬発力の強さと相乗効果を挙げて、タッチの力強さがくっきりと印象付けられるのである。
だから質感は無駄に鋭くはなく、速いが円やかな厚みがある。これでスピードが遅ければ昔ながらの真空管の音になってしまうが、そこが現代の先端に位置する本機のポイントである。弱音部でも弱々しくなることはなく、細かなフレーズの端々までエネルギーが乗って表情の陰影が深い。
マドリガルは最もイメージとしてマッチしそうなソースだから、鳴り方がいいのはある意味では当然である。しかしそれ以上に伸びやかな余韻と汚れっぽさのない声の質感が魅惑的だ。肉質感と響きのバランスがよく、それはスピードとエネルギーの両方が優れていることの証拠でもある。過不足がないだけでなく、音楽の繊細なニュアンスがたっぷりと描き出されて鮮やかな情景が浮かぶ。
オーケストラではそのスケール感がどう出るか興味深いところだが、ソースの音圧に負けることなく強力なフォルテが悠然と引き出されている。トゥッティの大音量が団子状になる寸前まで起伏が取れているし、解像力が崩れることもない。それに続くカンタービレも滑らかでまた凹凸に富み、ダイナミックな表現が力強く展開されている。
組み合わせによってはまた別の鳴り方が引き出せるかもしれないが、ここではパワーアンプの駆動力を巧みにドライブして弾力的で潤い豊かな音調を得ていることで見事に期待に応えている。
パワーアンプを管球式に替えてみるとどうか。同じトライオードのEVOLUTIONで、そのパワー部だけを使用してみる。やはりと言うべきだろうが、マッチングに無理がないのか出方が楽々としている。スケールや瞬発的な強さは少し違うとはいえ、音の動きが自然で生き生きとしているのが相性のよさというものである。無理に音量を上げなくても、ひとりでに前方に音場ができ上がってくるのが快い。弦楽器の瑞々しさも一層高まるようだ。
ピアノはタッチの強さ、肉質感の厚さなど基本的に出方は変わらない。若干タッチが軽く感じられるが、その反面一音ごとのニュアンスはもっとデリケートだ。またマドリガルでは音場の奥行や声の位置感が掴みやすい。小ぢんまりとしているが、これがむしろ本来のスケールと思って差し支えない。
オーケストラは落ち着いてやや静的な出方で、ダイナミズムの幅は広く取りながら瞬発力をいいように炸裂させることがないため、起伏がなだらかで刺々しさを感じさせない。ゆったりとした音楽の流れは、あるいはこの方が本当かもしれないと思わせる。余裕を感じるのである。
以上のように性格の異なるパワーアンプに対して、それぞれ適確な駆動と正確な情報供給が行われていることに注目したい。本機の水準の高さがそこで浮き彫りになってくると言ってよく、選択の幅は大きく広がることになる。渾身の力作と呼びたくなるような出色の完成度である。
(提供:トライオード)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.190』からの転載です
トライオードから登場した本格的な真空管プリアンプ
「EVOLUTION」や「EVOLUTION 300 30th Anniversary」などで大きな飛躍を見せたトライオードから、今度は同じシリーズのプリアンプが発表された。これまでのモデルは多くがパワーアンプ部を独立して使うことができる設計なので、これらに接続してグレードアップを図るというのがひとつの使い方。
もちろんそれだけではなく、汎用的なプリアンプとして、他のパワーアンプとの組み合わせも視野に入れている。トライオードではセパレートタイプが少なくプリメインアンプを主体としているので、本機のような本格的なプリアンプは大変注目される存在である。なお「EVOLUTION」同様本機もインターネットでの取り扱いは行わず、一定条件を満たした販売店トライオード・プレミアムショップでのみ入手できる。
入力は全てRCAで4系統。ボリュームにMUSES電子ボリュームを採用しているのが目を引くが、EVOLUTION以来これによって回路構成がシンプルになり、またギャングエラーのない音量調節も実現されたことをよく認識しておきたい。
増幅素子には双3極管「12AX7」をチャンネル当たり2本使用している。回路は2段増幅でこれに1本を充て、もう1本は2回路連結の並列としてカソードフォロワーを形成する。さらにそこからFETを通って出力されるが、これはソースフォロワーのようだ。
電源には大型Rコアトランスを搭載。またオリジナル・ポリプロピレン・コンデンサーを始め高品質なパーツが採用されている。さらにディップフォーミング無酸素銅製の電源ケーブルが付属する。
半導体アンプとの組み合わせ - 細かなフレーズの端々までエネルギーが乗る
まず一般的な形として、半導体アンプで聴いてみる。アキュフェーズ「P-4500」である。輪郭が明確で濁りがなく、響きの瑞々しい音調だ。立ち上がりにも逡巡がなく、きめ細かな手触りと曇りのないディテールが伸びやかな鳴り方を支えている。
ピアノトリオや古楽器アンサンブルなどはそうした特質が遺憾なく発揮され、どちらもとりわけ弦楽器の音色が潤いに富んで大変颯爽としている。それでいて肉質感はしっかり備えているから、芯が消えてふやけることはない。そしてエネルギー・バランスが整ってどこにも凹凸がなく、極めて平坦なレスポンスがいっそう乱れのない再現を充実させる。
ピアノは芯の強さと骨格の逞しさが際立っている。高低両域へ無理に引き伸ばすことをしていないため、わずかだがどちらにも丸く収まる感触がある。ピアノの場合はそれが瞬発力の強さと相乗効果を挙げて、タッチの力強さがくっきりと印象付けられるのである。
だから質感は無駄に鋭くはなく、速いが円やかな厚みがある。これでスピードが遅ければ昔ながらの真空管の音になってしまうが、そこが現代の先端に位置する本機のポイントである。弱音部でも弱々しくなることはなく、細かなフレーズの端々までエネルギーが乗って表情の陰影が深い。
マドリガルは最もイメージとしてマッチしそうなソースだから、鳴り方がいいのはある意味では当然である。しかしそれ以上に伸びやかな余韻と汚れっぽさのない声の質感が魅惑的だ。肉質感と響きのバランスがよく、それはスピードとエネルギーの両方が優れていることの証拠でもある。過不足がないだけでなく、音楽の繊細なニュアンスがたっぷりと描き出されて鮮やかな情景が浮かぶ。
オーケストラではそのスケール感がどう出るか興味深いところだが、ソースの音圧に負けることなく強力なフォルテが悠然と引き出されている。トゥッティの大音量が団子状になる寸前まで起伏が取れているし、解像力が崩れることもない。それに続くカンタービレも滑らかでまた凹凸に富み、ダイナミックな表現が力強く展開されている。
組み合わせによってはまた別の鳴り方が引き出せるかもしれないが、ここではパワーアンプの駆動力を巧みにドライブして弾力的で潤い豊かな音調を得ていることで見事に期待に応えている。
真空管アンプとの組み合わせ - 音の動きが自然で生き生きしてくる
パワーアンプを管球式に替えてみるとどうか。同じトライオードのEVOLUTIONで、そのパワー部だけを使用してみる。やはりと言うべきだろうが、マッチングに無理がないのか出方が楽々としている。スケールや瞬発的な強さは少し違うとはいえ、音の動きが自然で生き生きとしているのが相性のよさというものである。無理に音量を上げなくても、ひとりでに前方に音場ができ上がってくるのが快い。弦楽器の瑞々しさも一層高まるようだ。
ピアノはタッチの強さ、肉質感の厚さなど基本的に出方は変わらない。若干タッチが軽く感じられるが、その反面一音ごとのニュアンスはもっとデリケートだ。またマドリガルでは音場の奥行や声の位置感が掴みやすい。小ぢんまりとしているが、これがむしろ本来のスケールと思って差し支えない。
オーケストラは落ち着いてやや静的な出方で、ダイナミズムの幅は広く取りながら瞬発力をいいように炸裂させることがないため、起伏がなだらかで刺々しさを感じさせない。ゆったりとした音楽の流れは、あるいはこの方が本当かもしれないと思わせる。余裕を感じるのである。
以上のように性格の異なるパワーアンプに対して、それぞれ適確な駆動と正確な情報供給が行われていることに注目したい。本機の水準の高さがそこで浮き彫りになってくると言ってよく、選択の幅は大きく広がることになる。渾身の力作と呼びたくなるような出色の完成度である。
(提供:トライオード)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.190』からの転載です