PRデジタル技術と対を成すアンプブランドとしてのコードの魅力
英・コード製プリメインアンプの実力恐るべし!「Ultima Integrated」をB&W「800 D4シリーズ」で徹底検証
コードの戦略プリメイン「Ultima Integrated」の実力を徹底チェック
ある春の日、僕は東京・秋葉原にあるオーディオ専門店「ダイナミックオーディオ5555 H.A.L.III」を訪れた。イギリスのChord Electronics(以下コード)が発売した新型プリメインアンプ「Ultima Integrated」を試聴するためだ。なんと、今回はBowers&Wilkins(以下B&W)のフラグシップライン「805 D4」「803 D4」そして「801 D4」の3機種と組み合わせて、徹底したクオリティチェックを行うのである。
コードといえば、高度なFPGAとディスクリートDACを備えたDAVEやMojoなどのDAコンバーターが高い評価を受けてきたことで有名だが、実は同社の起源はアンプにある。それは、昨年に創業者でありチーフ・エンジニアのジョン・フランクス氏のインタビューからも感じたことだ。僕個人も昨年、モノラルパワーアンプ「Ultima 3」を自宅に導入したコードのユーザーでもある。
Ultima 3を含め、コードのパワーアンプは駆動力と制動力が高く、組み合わせたスピーカーの高音域から低音域までしっかり支配下に置く。海外ウェブメディアでも「大型のフロア型スピーカーをブックシェルフのようにレスポンス良く鳴らす」などの好意的な意見が多い。しかしコードのパワーアンプ群はおいそれと購入できる価格ではないし、多くのケースでプリアンプも別途必要だ。
そのような中登場した、Ultima Integratedは、税込200万円強と、同社にとってある意味戦略的ともいえる低価格を実現したモデルだ。手に入れやすく、プリメインアンプなので単体で運用ができる。しかし、いくら駆動力に優れたコードのアンプとはいえ、ある意味“鳴らしにくい”とされるB&Wの800 D4シリーズを駆動できるのであろうか?
航空機グレードのアルミニウムで未来的なデザイン意匠もクール
取材場所となる4FのH.A.L.IIIに入ると、フロアマネージャーの島 健悟氏が迎えてくれた。店の奥にある試聴スペースには、すでにUltima Integratedと3種類の800 D4シリーズが設置されていた。入室した瞬間に自分の声がクリアに聴こえ、良質なルームチューニングがされた場所であることが理解できた。今回のような比較試聴では有り難く、製品購入前のチェックにももってこいな部屋である。
改めてUltima Integratedに視線を向けてみる。本アンプはUltimaシリーズ初となるプリメインアンプだ。
Ultimaシリーズのデザインは実に魅力的だ。航空機グレードの固体アルミニウムから精密機械加工されたシャーシは、未来的なデザイン意匠を持ち、フロントパネルの厚さは28mmもある。電源ボタンと背面には美しいブルーのLEDがあしらわれている。左のノブはボリューム、右側はバランスコントロールとなる。シリーズのデザインは共通だが、Ultima Integratedはその中でも全高が抑えられた形状で、より精密な印象を持った。 オーディオルームに入れたらさぞかし映えるだろう。
背面部にはスピーカーを含む入出力端子が搭載されている。入力はXLR1系統、RCA3系統、ビジュアル用途で使用できるAVバイパスXLRを1系統装備。出力はXLRとRCAが各1系統ずつで、プリアウトも搭載されているので、パワーアンプを加えてバイアンプ接続にも対応するなど、発展性があるのが嬉しい。シルバーのシャーシは未来的で素敵だが、もしもう少しシックにまとめたいならブラックモデルもオススメだ。
オーディオ的な回路構成については、同じUltimaシリーズの上位モデルと同様に、独自の超高周波スイッチング電源や、出力段の前でオーディオ信号を監視することでエラーのない信号増幅を行う「デュアルフィードフォワードテクノロジー」を採用。動作はAB級(スイッチング電源だがデジタルアンプではない)で、出力は125W(8Ω)となる。
roonサーバーをインストールしたオリオスペックのオーディオPCをトランスポートとして、コードのアップスケーラー「Hugo M Scaler」とUSB接続。そしてこのHugo M ScalerとDAコンバーター「DAVE」を、デュアルBNC(XLRバランス・デジタルケーブル)を介してUltima Integratedと接続した。再生ソフトはroonを使い、使用音源は全てハイレゾソースおよびストリーミングサービスのTIDALを利用する。
アンプの実力を赤裸々に示してしまう「800 D4」シリーズ
さて、今回Ultima Integratedの相手役にフィーチャーする800 D4シリーズは、2021年に登場したB&Wの最上位に当たる。トゥイーターはダイヤモンド、ミッドレンジ(805 D4はバス/ミッドレンジ)にコンティニュアム・コーン振動板を採用。前シリーズ800 D3からキャビネット構造に大幅な改良に加え、鋳造アルミニウムのトッププレートを採用するなど、キャビネット全体の剛性が一層高められている。また、アイコンとなるチューブローディング・システムも改良されるなど、全面刷新を受けてさらに高性能化した。
僕は800 D4シリーズをマランツの試聴室やオーディオショウでの講演など複数の場所で聴いているが、シリーズに共通する音質として、オーディオ的な再生尺度である高分解能、聴感上のfレンジ、Dレンジの広さ、入力された信号への応答性能、サウンドステージの高さ、横方向、奥行きの秀逸な表現力、ボーカル音像のリアリティと、つまるところ全領域でのリファレンス的な再生能力が高い。
有名なアビーロードスタジオから、国内オーディオメーカーの試聴室、専門メディアまで、さまざまな場面でリファレンススピーカーとして使われている。高性能が故にソース機器からアンプまでの再生能力を赤裸々に表現してしまう難しさはあり、個人的には最も良質なアンプを用いたいスピーカーだ。プリメインアンプであるUltima Integratedは3台のD4シリーズをどこまで鳴らし切れるのか。
ブックシェルフからフロア型までプリメインアンプの駆動力をチェック
■「805 D4」 -分解能高く音像の安定感は盤石-
最初はシリーズ唯一の2ウェイ・バスレフ型ブックシェルフスピーカー「805 D4」と組み合わせた。まずはノラ・ジョーンズから。曲が始まってすぐに、鮮度の高いサウンドが出ていることに感心した。分解能は高いが、刺激的な感じではない歪みのない音で、聴感上のfレンジが広く、とにかく粒立ちが良い。センター定位する音像の安定感は盤石で、声を張り上げた時のイントネーションの表現や、ベースなど低域楽器の質感表現もリアルだ。
テイラー・スウィフトは、イントロのバスドラムが重量感とレスポンスを両立し、バックミュージックとボーカルの分離感も素晴らしい。アート・ブレーキーは、キックドラムのレスポンスに優れ、シンバルの「シャーン」とした金属的な質感が良い。フレディ・ハバードのトランペットも立体的に聴こえる。小口径ウーファーなので、低音の絶対的な迫力はフロア型に譲るものの、ハードバップジャズの再生で必須のエネルギッシュなグルーヴはしっかりと伝えてくれた。スピーカーとの価格バランスはほぼ近いが、駆動力、制動力、ステージ表現とも全く不足がなく鳴らし切った印象である。
■「803 D4」 -中低音域が壮大になりダイナミクスの描き分けも優秀-
続いて、3ウェイ・バスレフのフロア型スピーカー「803 D4」と組みわせた。各ジャンルに共通するオーバーオールの音の印象は、中低音域が一気に壮大になることだ。一瞬プリメインで聴いていることを忘れてしまうくらい、高音域から低音域までしっかりと駆動している。特に低音域の表現力が好印象。
ノラ・ジョーンズは、部屋のルームチューニングが行き届いていることを差し引いても、ベースなど低音楽器の分解能が高く、テイラー・スウィフトでも再生難易度の高いキックドラムの音の立ち上がりやディテール表現に優れる。もうひとつの低音楽器であるベースが同時に鳴った時のダイナミクスの描き分けもできている。
3ウェイとなったことで、各帯域のユニットに余裕が生まれ音のつながりが向上するが、その良さをちゃんと感じられるのはアンプがしっかり駆動していることも大きいだろう。ムターのヴァイオリンとパブロ・フェランデスのチェロ、2つの弦楽器の音色に色彩感があるのも嬉しい。Ultima Integratedは高音域から低音域まで3つのユニットを同じ速度感で駆動できている。
■「801 D4」 -ステージ表現力はさすがのトップレベル-
最後は800 D4シリーズのトップモデルである3ウェイ・バスレフのフロア型スピーカー「801 D4」と組み合わせた。このスピーカーはオーディオファイルの憧れであり、リファレンスとしての能力は驚くほど高い。ここでもノラ・ジョーンズから再生したが、抜群に安定感があるサウンドだ。
分解能の高さと聴感上のfレンジはさらに上がり、センター定位するボーカルの口元が手で触れそうな程リアルな表現である。さらに広大となったバックミュージックの中でピンポイント定位するリー・アレキサンダーが弾くベースは、プリメインアンプとしては限界に近いと思われるダンピングで、かなり引き締まって聴こえる。
ムターはトッティの壮大さが一回り以上増して、サウンドステージもより広大に。ステージ表現力は流石トップモデルで、低音域のレンジが広がったことで精密な空間が描かれ、それが動的に動くような音像をプレゼンスする。アート・ブレーキーはハードバップジャズとしての熱気とグルーヴに溢れる音で、分解能も高く、サイドメンも含めたアーティストの位置関係までしっかりと提示してくれた。
低音域に関しては流石に若干緩く感じ、ここは「Ultima 3」や「Ultima 5」などのパワーアンプを持ってくればよりリアリティは上がるだろう。だが、そもそもこの音を出しているのが目の前にある未来的なボディのプリメインアンプなのだと考えたら、改めてその地力に感心した。
なお余談だが、試聴はかなりのボリュームで再生したが、アンプの天板を触ってもポッとしたくらいの温かさだった。出ている音はかなり熱気があるのに不思議な感覚だ。
最新鋭の高性能スピーカーとの相性抜群
いかがだったろうか。リファレンス性の高いB&Wの800 D4シリーズから3種類のスピーカーに登場してもらった本試聴だったが、総じて感じたのは、プリメインアンプとは思えない駆動力の高さだ。トゥイーター、ミッド、ウーファーの速度が揃うところは僕が使用する「Ultima 3」に通じる良さでもあり、それをプリメインアンプからも感じられたことは収穫だった。率直に話せば、このクオリティを考えればかなりお買い得感がある。
サイズもレコードジャケット程度の大きさで、重さも15kg以下と、このクラスのプリメインアンプとしては類を見ないほどコンパクトだ。それでも801 D4を含め、B&Wのスピーカーを悠々と鳴らし切る実力には正直僕も感激してしまった。
コードのアンプの強みは、分解能と音場表現に秀でた最新鋭の高性能スピーカーや、大口径ウーファーを持つスピーカーとの相性の良さだと僕は思っている。そしてD4シリーズは情報量、分解能、質感表現、音像定位、サウンドステージの表現に優れ、上流のソース機器やアンプの能力を赤裸々に表現するスピーカーで、Ultima Integratedとの相性の良さをしっかりと確認できた。
それに両方ともイギリスのオーディオメーカーの製品ということで、視覚的な相性も抜群。非常にカッコ良いシステム風景を作り出せたことも最後に申し添えておく。
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