PR評論家・岩井喬が本国スタッフを直撃
実売600万円超え。「Warwick Acoustics」の独自静電型ヘッドホン、その音質と開発思想に迫る!
■1枚の振動板を分割して再生する独自のトランスデューサー
Model Oneは一定の成果を得ることができ、次のステップとして、その高い技術力の象徴となるスーパーハイエンドモデルの開発を進めていたといい、それがフラッグシップたるAPERIO(アペリオ)である。APERIOはラテン語で『開ける』という意味であり、Warwick Acousticsの新たなるステージの扉を開ける起点ともなるプロダクトだ。
Model OneやBravuraでは、WATが開発した静電型トランスデューサーにHPEL(高性能静電ラミネート:High-Precision Electrostatic Laminate Transducer)が採用されていた。HPELは音を発生する振動膜と一体化した前面電極とステンレスメッシュの後面電極を用いる構造で、前面電極から発生した音波が電極に遮られることなく、そのまま耳へ届く構造であることが特徴である。
加えて振動膜と後面電極の間は大きさの異なる複数の六角形状の桟で仕切られたPP絶縁スペーサーを設置。この桟に囲まれたいくつものドラムセル(振動面)が同時に振幅するため、各々が再生する周波数帯域が異なる一種のマルチウェイとなるが、それぞれ共振点をずらすことで共鳴が平均化され、共鳴ピークを抑えるメリットも持つ。
このようにWATでは片面駆動方式を採用してきたが、APERIOではよりダイナミックでエナジーに溢れた、パワフルなサウンドを実現すべく、2枚の固定電極に振動膜を挟み込むスタイルへ進化。理想的なプッシュプル駆動が実現するため、この新トランスデューサーはBD(Balance Drive)-HPELと命名された。
BD-HPELとなっても振動膜の構造は同一であるといい、2枚の7μm厚BOPP(2軸延伸ポリプロピレン)を高い内部減衰特性を持つアクリル系接着剤で貼り合わせている。なおBOPPの一方には接着面側へ24金メッキが施されており、複合構造でありながら15μmという薄さを誇る。
固定電極には高純度銅OFHC素材を採用。光化学エッチング成形の上、金メッキ処理を施した。BD-HPELはこれら2枚の固定電極と振動膜、絶縁スペーサーを合わせ、8層構造となっている。
ちなみにModel OneやBravuraでは1350V DCという大きなバイアス電圧をかけてドライブしていたが、APERIOでは1800V DCというさらに大きな値を採用。Model Oneの段階で実用化に苦労していたのが、このバイアス電圧の高さであったが、APERIOではその上を行く困難を乗り越えたという。
Model One以降、開発体制で大きく変わったのは中国生産からUK・バーミンガムの自社工場での組み立てに変更したことだ。メインボードなど重要な部材調達はUK内での調達に切り替えるとともに、アッセンブリは自社の身で行う体制とすることでビルドクオリティの強化を図っている。しかし静電型ヘッドホンは製造難易度も高く、一台組み上げるのに一人の熟練工で2週間かかるとのこと。それはBD-HPELの左右マッチングやアンプとのマッチングも含まれており、今後も時間を短縮した大量生産体制へ移行するつもりはないという。
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