PRVGP審査員・林 正儀氏が音質チェック
トーレンス「TD1500」レビュー。VGP「特別大賞」のアナログプレーヤーを評論家が自宅で聴く!
サブシャーシは樹脂をアルミニウムで挟んだアルコボンド製。これは軽量さと丈夫さを備えた複合素材だ。キュルテン氏によれば、社内に素材のプロを擁し複数のマテリアルを巧みに使い分けているそうだ。モーターは高精度なエンコーダー制御のDCモーターでワウ・フラッター(回転ムラ)もおさえられ、スムーズかつ静かな回転が得られる。
「TP150」という専用トーンアームがまた魅力的で、スマートなスタティックバランス型。カートリッジはオルトフォンのMM型上位機種「2M Bronze」(単品価格 税込59,400円)が標準で付属する。この状態でベストにチューンされているわけだが、ヘッドシェルが着脱可能で好みのカートリッジが選べるのも嬉しい。
海外製ならではのVTA(垂直トラッキング角)やアンチスケートなどマニアックな調整ができるのだが、すべて調整済みだ。アームの調整が苦手という人にも親切で、カートリッジを取りつけてカウンターウエイトを装着。バランスをとって針圧をかければすぐに音が出る。これはいい。
背面を見ると、出力端子はMM用のRCAとMC用のXLRバランスを装備している。本格的なプレーヤーだが、難しいところはない。若者やアナログ初心者にこそ使って欲しいものだ。
TD1500レビュー:評論家が自宅のシステムで試聴
価格帯的にはプリメインとの組合せが想定されそうなTD1500であるが、プリとパワーを別筐体で組むわが家のシステムでどう実力を発揮するのか興味津々。
やや個性的だが、オクターブの真空管回路モジュール採用のフォノイコライザー「Phonomodule」をフォノ・プリとして使い、パワーアンプはFirstWattのモノラルパワー「SIT-1」を2台。これでパラダイムのスピーカー「Persona B」を鳴らしている。
TD1500に灯が入った。起動が早くアルミダイキャストターンテーブルの回転も静かで滑らか。実にS/N感のよい回転だ。33と45rpmの2スピードで、切り替えノブの感触もよい。リフターレバーを操作するとアームがゆっくり優雅に降りてゆく。そうした操作感と見た目の優美さ。トーレンスらしい再生音が三位一体となるような感触だ。
2M Bronzeを含めた音調だが、しゃきっとした国産プレーヤーとは大きく違う。針の情報を微細に拾いながらもプレーヤー自体が鳴っているような、そんな聞こえ方である。クラシックやボーカル、北欧ジャズなど様々なジャンルの盤をかけたが、バランス的には往年のトーレンスらしい中〜低音域の厚みと現代的なレンジの広さ。スピード感を両立したようなイメージだろうか。
「このプレーヤーは“響き"が出る」
このプレーヤーは“響き"が出る。特に弦楽器や声楽がよく歌うというのが第一印象だ。例えば楽劇「ワルキューレ」は音場が立体的に広がり、天空に導かれるような錯覚である。
次にかけた「カンターテ・ドミノ」は教会の空気が澄みきり、深々としたオルガンが心地よい。重低音は意外にたっぷりだし、コーラスの倍音に包まれながら至福のひとときが……。しかもHi-Fiっぽくないのが好ましい。ほのかな体温感があり音楽的に楽しませてくれるのだ。