机の片隅で “懐かしくて新しい” 体験を
可愛すぎる、でも本格派のCDプレーヤー。Shanling「EC Smart」で始めるデスクトップCDオーディオのススメ
懐かしいのに新しい、Shanlingの小型CDプレーヤー
“最新型” のカセットテープ・プレーヤーであるFIIO「CP13」の記事を先日書いたところ好評を得た。こうした “懐かしくて新しい” オーディオ機器という分野にみな興味があるのかもしれないと思っていたところ、またこの分野に新顔が登場した。ShanlingのCDプレーヤー「EC Smart」だ。
EC SmartはコンパクトでスマートなデザインのCDプレーヤーである。スペースを取らないので、作業をしている机の端にちょっと置いておくことができる。
Shanlingらしい本格仕様のパーツを採用
EC Smartの外観は、男性でもつい可愛いという言葉が口をついて出るかもしれない。しかし中身は老舗のShanlingらしくオーディオ機器としてしっかりと作られている。Shanlingは最近CDプレーヤーに力を入れていて「EC3」などの本格的なCDプレーヤーも設計しているが、本機もその流れなのだろう。
前面の黒い楕円形のバーはCD読み取り部の保護の他に表示部・操作部を兼ねている。表示には赤色の7セグメント方式のLEDが採用されてレトロな雰囲気を作り出している。その下にはタッチ式の操作部が設けられている。
Sanyo製「DA11」光学ドライブを搭載し、DACチップにはCirrus Logic社 「CS43131」を内蔵している。出力としては3.5mmラインアウト端子と、3.5mmヘッドホン端子の2種類のアナログ出力を備えている。3.5mmラインアウト端子は背面に設けられ、3.5mmヘッドホン端子は側面にある。
ヘッドホン出力には高出力・低ノイズのオペアンプであるSG Micro社「SMG8262」が採用されている。これによって出力インピーダンスが1Ω未満というマニアックなスペックのヘッドホン駆動力をも実現している。
EC Smartのもう一つの特徴はBluetoothに対応していることだ。最新のBluetooth 5.4規格に対応していて、Bluetoothスピーカーや完全ワイヤレスイヤホンと簡単に接続ができる。これによりEC Smartのデザイン性を活かしてスピーカーを離して設置することができ、ワイヤレスイヤホンやヘッドホンで気軽に楽しむことができる。これは日本のCDプレーヤー全盛時代にはあまりなかった機能であり、新鮮に感じられることだろう。
電力は5V 2AのUSB-C端子の電源ケーブルから取る。これ自体にはバッテリーは内蔵されていないが、モバイルバッテリーでの動作も可能ということだ。
アクティブSPと組み合わせてデスクトップCD再生システムが完成
CDを再生するにはまず手前の黒いバーの部分を手で左横に倒す。それからCDをはめ込んでバーを元に戻す。すると少し回転してCDの情報を読み込み、再生時間や曲数が表示される。再生はリピート再生とランダム再生が可能だ。
再生時間や曲番号などの表示は懐かしの7セグメント表示で行われる。これは液晶ではなくLED発光管を使用したもので、「ちょっと昔のデジタル機器」を感じさせてくれる。CD盤面は剥き出しの状態だが、うっかり触ってしまってもすぐに再生が自動停止する。CDのアートワークが見えるのでそれも含めてインテリア的な楽しみ方ができる。スキップの際に多少動作音はするが、動作中の音は静かだ。
スピーカーに接続して再生してみた。スピーカーはカナダのメーカーであるKanto Audioの「YU2」を使用した。YU2は低価格でコンパクトなアンプ内蔵のアクティブスピーカーで、サイズおよび価格的にEC Smartと組み合わせるのにちょうど良い。接続は3.5mmアナログ入力端子があるので、EC Smartとは3.5mmアナログケーブルで接続する。
CDはまずレッド・ツェッペリン『IV』のリマスタリング盤を再生してみた。アトランティック・レコードのアートワークが映えて、ある世代には刺さること間違いがない。
ちょっと驚くことにはこのシンプルなシステムのサウンドがとても立体感が高く定位がピンポイントであるということだ。ロバート・プラントの声はきっちりセンターで結び、いわゆる口が小さく感じられる。ジミー・ペイジのギターはサイドからしっかりヴォーカルを支えているのがわかる。「ブラックドック」ではさすがに低音が物足りないところもあるが、「天国への階段」は感動的だ。
YU2はニアフィールドモニターともいうべきもので、とても定位がピンポイントだ。その反面でスイートスポットから外れると音が変わってしまう。そのためにスタンドは必須だろう。
次も名盤イエス『こわれもの』をMobile Fidelity社によってリマスタリングされたCDで再生してみた。これも再現性が良くクリアで鮮明に再生できた。「ラウンドアバウト」ではスティーブ・ハウのギターが複雑な音楽をよく表現しているのがわかる。
有線イヤホンや完全ワイヤレスでもCDが楽しめる
イヤホンではDITA Audioのハイブリッド型イヤホン「Project M」を使用した。
CDはストリーミングでは配信されていない欧州のマイナーレーベル「Prikosnovenie」のコンピレーションアルバムを再生した。フォークを基調とした欧州の匂いのする音楽が美しい音色で再生できた。EC Smartのサウンドはキツさを抑えたアナログを思わせるような音で、滑らかな音のProject Mと相性が良い。単に聴きやすいだけではなく、弦の擦れる細かな音も鮮明に描き出す十分な音質再現力も備えている。
実のところ筆者は手狭のためにかなりの数のCDをすでに処分したのだが、こうしたCDでしか聴けないような盤は手元に残してある。リッピングする手もあるが、「Prikosnovenie」は妖精のレーベルとして知られるようにジャケット絵が美しく、こうした形で聴くことができるのは楽しい。
EC Smartは完全ワイヤレスイヤホンやBluetoothスピーカーとも簡単に繋がる。接続のためにはまずイヤホン側をペアリングモードにする。次に本機のBTボタンを押す。すると自動的に接続する(画面はBT文字の点滅から点灯に変わる)。CD全盛時代はBluetoothイヤホンやヘッドホンの性能も今ひとつだったため、いまCDを完全ワイヤレスイヤホンで聴くのは新鮮な体験だ。
物理メディアの楽しさを現代の利便性とともに味わえる
棚に並ぶアルバムのジャケットをみながらどれを聴こうかと選択し、ジャケットから取り出してパチンとセットする。音楽を聴き終えたらまた棚に戻して、次はどれを聴こうかとしばし悩む。こうした手間のかかる面倒さが今ではかえって新鮮だと感じるのは、ストリーミングの便利さに慣れすぎたからだろうか。
中国市場は、我々がレトロだと感じるCDコンポやカセット全盛期にはまだ経済力が低く、いま経済が急進したことでこうした機材を作ることができるようになった。それが “懐かしくて新しい” 機材が出てくる理由の一つだろう。
しかしながら、日本の我々にとってもただ懐かしいというだけではなく、物理メディアの楽しさを再認識してワイヤレスなどの新しい使い方で楽しむことができる。若い人にはCDを扱うこと自体がフィルムカメラのようにとても新鮮な体験となるだろう。EC Smartは価格も安いのでちょっと試してみたいという時にも良い。
EC Smartの試聴を通して、今後ともこうした中国らしい視点の機材に期待したいと思った。もしかすると、CDを大量に処分してしまったのは早計だったかもしれないとも少し思いながら。