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PR業界に衝撃を与えた「10シリーズ」を聴く

“マランツ史上最も高音質” を目指した超弩級モンスター。「MODEL 10」「SACD 10」徹底レビュー

公開日 2024/12/28 06:30 山之内 正
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■圧倒的に高効率なアンプの存在が現代のオーディオに不可欠である(石田善之)




既に金賞受賞製品の項でも触れているが「挑戦なくして前進なし」に関して、もう少し詳しく触れてみたい。アンプのクラスDに絞り込んでハイエンド製品を作り上げたことは、オーディオの業界全体としても決して小さなことではないと思う。AクラスやABクラス、例えば今回、同じく金賞を受賞したアキュフェーズの「E-800S」も、弟機の「E-700」もAクラスだ。おそらく今後もこのクラス論争は続くものと想像されるが、今、マランツが踏み切ったことに注目したい。

圧倒的に高効率なアンプの存在が現代のオーディオに不可欠な技術であり、オーディオアンプ以外でもほとんどがこの方向にある。少々外れるが、例えば照明の世界では白熱球の電球から始まり、蛍光灯を経て今やLEDである。

我々の日常生活は大いにその恩恵に浴しているわけだが、この高効率化をそのままオーディオの世界のメインに持ってくるには結構な勇気が必要だったことだろう。つまり音質的に十分であるか否か、ということだ。今やマランツはAクラスやABクラスの世界に挑戦状をたたきつけたことになろう。

ここ数年来のマランツにはハイエンドのプリメインアンプとしてPM-10が君臨していたが、2024年6月発売の小型軽量高効率ワイヤレス・ストリーミング・アンプ、MODEL M1(154,000円/税込)でクラスDを見事に使いこなした。このMODEL M1の存在も大きい。

今回のMODEL 10は重量が33.7kgで、これまでのアナログ・アンプと同等もしくはより重い。Dクラスでありながらもそのコンストラクションや高音質パーツなどの採用でこの重量になるわけだが、これまでの伝統的なアンプの良さ、つまり重いことが高音質に作用しているというユーザー心にも応えているわけだ。

これまでのマランツのフラグシップ・アンプはセパレートだったが、ここでMC/MM入力を持つ一体型のプリメインになった。1社 2ブランドのディーアンドエムホールディングスの、デノンとのより明瞭な差別化にもつながったといってよいだろう。

■期待していた「10」のナンバーは予想を超える内容を背負っていた(石原 俊)




筆者のようなオールドファンはマランツで「10」という数字を目にすると、創業時代後期のFMチューナー「10B」を思い浮かべてしまう。しかしながら、いずれこの型番をもつプリメイン機が出てくるであろうことは「MODEL 30」が登場した時からぼんやりと予想はしていた。そのグレードもある程度予想がついていた。

「10」というナンバーを貰うからには伝説の真空管式パワーアンプ「#9」の衣鉢を継ぐものに違いないと期待していたのである。はたせるかな、MODEL 10は予想を超えるような内容を背負って登場した。まずは500W(4Ω)×2という最大出力が凄い。これはそんじょそこらの単体パワーアンプを上回る数字であり、増幅方式が数字的に優位なクラスDであることを勘案してもひとつの「事件」である。

フォノイコライザーを含む多彩な機能をもつプリアンプ部を擁していることも見逃せない。「#7」という、これまたオーディオ史上に燦然と輝く真空管式プリアンプを先達にもつからこそ、現代のプリメイン機では疎かにされがちなプリ部に力が入るのはエンジニアの人情であり、メーカーの良心だとも思う。かたちのうえではプリメインアンプだが、本機を2台使用してバイワイヤリング対応のスピーカーをフルスペックで駆動する「コンプリート・バイワイヤリング」というモードも用意するなど、拡張性も高い。

短時間ながらもメーカーの試聴室で聴く機会に恵まれたのだが、本機1台でもB&W 801D4の380mmウーファーを十全にグリップし、メーカーの試聴室ならではの超大音量でも破綻の兆しすら感じられなかった。コンプリート・バイアンプ・モードでは鳴らしにくいこのスピーカーをキリキリ舞いさせたのが印象的だった。ほぼ同時に発売された同じ「10」番をもつSACDプレーヤーとネットワークプレーヤーの実力は推して知るべしである。MODEL 10がオーディオ銘機賞・金賞を受賞したことは、審査委員の端くれとしても、少年時代からマランツというブランドに憧れてきたいちオールドファンとしても喜ばしい限りである。

■やるべきことがやり尽くされたマランツの全てがここにある(井上千岳)




マランツ70年の集大成という位置付けであると同時に、次の時代に向けての新たなフラグシップという役割も担っている。現在のマランツの全てがここに集約されている。そう考えると、あらゆる部分がこれ以上ないほど丹念に作られている理由が分かる。わずかな隙も許されないのである。

まず目につくのが筐体だ。両機とも30kgに及ぶ重量級。それは重さで振動を抑えるといった皮相なものではなく、パーツや回路を万全な状態で動作させるためのベースとしてとらえられているに違いない。だから生半可な剛体設計では足りないのである。

また回路構成にしてもパーツにしても、ひとつひとつの選び方や使い方が大変慎重に行われているのを感じる。筐体を始めとして、基礎から頂上まで一分の弱点もなく組み立てられた壮麗な建築のようなイメージである。

音質にもそれが反映されている。どこにも弱みがない。S/Nや歪み、解像度など基本的な性能はもちろんだが、音を濁らせるわずかな要素、駆動力を阻害するほんの少しの介在物といったものがことごとく排除されているのを感じる。弱みがないというのはそこだ。全てが周到・万全なのである。

出てくる音は明快で力強い。ただし当たりは柔和で弾力に富み、また繊細なニュアンスにも富んでいる。パワーは強力だが、歪みや棘は皆無と言っていい。一見相反する特徴のどちらも犠牲にすることなく、高い次元で融和している。だから弱みがないのである。やるべきことがことごとくやり尽くされた印象である。いまのマランツの全てがここにある。多分誰もがそう思うに違いない。

■MODEL 10を2台使いした際の音世界に驚きを禁じ得なかった(生形三郎)




マランツから突如登場したハイエンド一体型プリメインアンプとSACDプレーヤーには、大いに驚かされた。同社近年の技術やノウハウの集積をワンボディに収めた、まさに集大成的な内容である。

両者を組み合わせたサウンドからは、マランツならではの優美さや滑らかさによるラグジュアリーさとともに、存分な物量を投下した圧倒的な充実度の高さを堪能することができる。その上質かつ清澄な音楽表現は、ペアリングしたB&Wの801D4をもってして、まだまだスピーカー再生の可能性の先があることを教示するような再生力、駆動力である。

驚きを禁じ得なかったのは、MODEL 10を2台使いした際に現出する音世界である。独創的な発想によってプリ部が左右チャンネルで完全にセパレートされることによる、ステレオ再現力の驚異的な拡張は、まさに別次元の世界観であると体感した。広大かつ鮮明に展開する音楽空間は、微塵の綻びもない、緻密かつ麗美な音の曼荼羅を展開させる。加えて、極めて安定度の高い低域駆動力が発揮され、キレの良いクラスDアンプの爽快な質感に、綿密さと盤石さ、そして濃度の高さをもたらす。それらが体現する音響は、一体型プリメインだからこその、そして、一体型プレーヤーだからこその一糸乱れぬ統一感と、贅を尽くした規模構成ならではのオーディオ的充足感とが両立した、ワンボディ型の究極形であると感じた。インテグレーテッドなコンポーネントのさらなる可能性を切り開いたマランツに、最大の賛辞を送りたい。

■既成概念を飛び越えた桁違いのオーディオ機器(大橋伸太郎)




2024年は各社からプリメインアンプの力作が発表されたが、飛び抜けた大作がマランツMODEL 10である。同社がハイファイ、AVプリの両方で取り組んできたクラスDデジタル研究開発の現時点での総決算というべき製品。デンマークPURIFI社と共同開発したデュアルモノ・シンメトリカルクラスDパワーアンプを搭載。高効率クラスDパワーアンプの採用で、一筐体の中にHDAM+HDAM-SA3電圧帰還型アンプ回路、フルバランス構成のセパレートアンプグレードのプリアンプを収容することができたのである。本機の新機軸にF.C.B.S.機能がある。複数の本機を連動させてバイアンプやマルチアンプ、サラウンドシステムを発展的に構築することができる。

SACDのスタートにはマランツの貢献が欠かせなかった。SACD 10は現時点での同社SACDの総決算である。オリジナルのディスクリートDAC、Marantz Musical Masteringとオリジナル・メカSACDM-3を中心に、超低位相雑音クリスタルクロック、最新型HDAM+HDAM-SA3のフルバランス差動構成オーディオ回路、アナログ/デジタル完全独立電源回路で周辺を固めた妥協を排した設計である。

MODEL 10とSACD 10の組み合わせで聴いた。MODEL 10 1台での再生は、従来のプリメインアンプの枠をこえた500W+500W/4Ωのハイパワーと低歪みを発揮、圧巻のS/Nとトランジェントの良さ、レスポンスの高さに溜飲が下がる。さて2台目のMODEL 10を接続、L/R完全独立駆動でバイアンプ接続としたときに現れた一点の曇りもない透徹した音場は、これまで体験したことのなかった未知のもので肌に粟立つものを感じさせた。

プリメインかセパレートか、アナログなのかデジタルかといった既成概念を飛び越えた桁違いのオーディオ機器である。2025年オーディオ銘機賞金賞受賞は当然の結果といえよう。

■CDのオリジネーターでありSACD 10に誇りが感じられる(小林 貢)




マランツは1953年ソウル・マランツによってニューヨークに設立されたアンプ・ブランドであった。今回、登場したMODEL 10はマランツ史上最高の性能、最高のパワーを追求した一体型アンプ。新世代マランツ・デザインを実現したというが本機を眺めると往年の銘機「MODEL 9」の面影が感じられる。

筐体は本機専用設計で、構成パーツは1点ずつ丁寧に削り出したアルミ無垢材でハイエンドに相応しい外観となった。プリ部はセパレートアンプ・グレード。一般的にパワー部は大きなスペースが必要だが、本機はクラスDアンプなのでプリ部のために十分な空間が確保でき、贅を尽くした仕様が実現できた。

パワー部はデンマークPURIFIと共同開発したマランツ独自のクラスDスイッチング・アンプとなっている。他の構成パーツはPURIFI回路をベースに厳選し基盤は自社設計だ。同社はCD、SACDのオリジネーターでありSACD 10の技術や設計に誇りが感じられる。SACDドライブを自社開発し世界中のハイエンド・メーカーに供給している。またオリジナルDACを所有しているのも他社にはない大きなアドバンテージと言える。MODEL 10と同じ高級感のある筐体は所有する喜びや満足感を与えてくれる。

両機を組み合わせて試聴したが、十分なfレンジと高いS/Nを確保し、豊富な情報量を実現した精緻な再生音を実現している。MODEL 10はハイパワーではあるが、それを強調せず品位の高さが感じられる。クラシック系楽曲の小音量部などでは音楽の背景の静寂感が高まる。セパレート型を止めて一体型でシンプルなシステム構成を図り、セパレート型に負けない再生音を手に入れたいというファンにとって気になる製品になるだろう。

■同社の技術を飛躍的に進化させ理想とする音質を実現している(角田郁雄)




どこまでも洗練されたデザインと卓越した技術。マランツは、新たなフラグシップMODEL 10とSACD 10を登場させ、金賞を受賞した。私が注目したのは、同社の技術を飛躍的に進化させ、理想とする音質を実現したことだ。MODEL 10では、PURIFIとの共同開発によるハイグレードなクラスD・モノラルアンプを2式搭載し、BTL接続により500Wの高出力も達成した。全段フルバランス構成で、同社が長年ブラッシュアップしているディスクリート構成の高スルーレイト・高速アンプ・モジュール、HDAMとHDAM-SA3をプリアンプに搭載。さらにプリアンプと左右のパワーアンプ、それぞれに専用の強力な電源回路を搭載した。内部は、実に精密感に溢れ美しい。オーディオマインドが掻き立てられるほど魅力的で、最短距離の増幅も行われている。さらに、2台による完璧なバイアンプ・ドライブをも可能にした。

対して、SACD 10においては、同社独自の重厚なメカベース採用の高精度メカ・エンジンと最新のMarantz Musical Mastering DACを搭載した。出力段(ローパス・フィルター)には、規模の大きな前述のHDAMアンプを搭載。MODEL 10と同じ考えで、高精度D/A変換しアナログ信号を高速伝送する回路構成を実現した。

両モデルを組み合わせた音は、再生する音源に内包する情報をくまなく再生し、広く深い空間に、奏者をリアルに再現する高解像度特性が大きな魅力。搭載技術が反映され、録音場所の空気感や奏者の実在感も鮮明。極めて俊敏な立ち上がりを示すが、柔らかさや繊細な表現を引き立てつつ、強音から弱音に音が減衰する様子には、自然な音の階調を感じさせる。弱音に深みがある。またフォルテッシモでは、スピーカーを完全にグリップしている感覚を覚え、ダイナミックレンジの広さも実感できる。MODEL 10の2台では、空間が拡大し壮大な音楽が堪能できる。こうした技術と音質を備え、私は高く評価した。

■一聴して仰天したサウンドで革命的な次元のデジタルアンプ(福田雅光)




マランツもついに200万円クラスの超ハイエンド・オーディオの世界に参入した。なかなか手の届かないクラスであるが、某日ディーアンドエムホールディングス本社にてその全容を知ることになる。アンプは、スイッチング方式と呼ばれるデジタルアンプである。デジタルの可能性は理解しているのでマランツの方針には賛成だが、高級機ではどのような方法を使うのだろうか。

一聴して仰天した。レンジは広帯域に広がり、高純度でアナログ高級アンプでも難題の極めて洗練されたサウンドである。解像度は高く極めて精密な再現力である。トランジェントに優れた高域特性は限りなく伸び、ロスが感じられない。同時に低域特性も強化されている。圧倒的なダンピングで引き締まり、すごい瞬発力が得られている。音像フォーカスも明確だ。

プログラムの情報をすべて描き出すような性能を感じた。これはデジタルアンプの革命的な次元に到達している。そんな認識を持った製品である。

SACDプレーヤーは、デジタルアンプに接続して試聴したものであるから、アンプの性能を引き出すことに大きく貢献している。そのサウンドを聴けば、高度に洗練されていることが理解できる。ディスクリート1bit方式のDAコンバーターを採用した集大成の設計である。いずれも筐体シャーシ構造には莫大なコストを投入している。その物量の安定性能が音質に関係していると思うが、逆に将来コストダウンの可能性も秘めている。


【MODEL 10 スペック】


●適合インピーダンス:4 - 16Ω ●周波数レスポンス:5Hz - 60kHz +0dB/-3dB ●全高調波歪み率:0.005% ●ダンピングファクター:500 ●入力感度:350mV/41kΩ(アンバランス・CD/LINE/RECORDER)、700mV/36kΩ(バランス・CD/LINE/RECORDER)、3.6mV/36kΩ(Phono MM入力)、400(Phono MC入力/Low)、1.58V/41kΩ(パワーアンプ入力 RCA・Gain:29dB)、3.16V/15kΩ(パワーアンプ入力 XLR・Gain:24dB) ●RIAA偏差:20Hz - 20kHz ±0.5dB(MM/MC) ●Phono最大入力:80mV(MM)、8mV(MC) ●S/N:122dB(CD、バランス)、88dB(PHONO MM)、76dB(PHONO MC) ●ヘッドホン出力レベル:130mW/32Ω ●消費電力:270W(スタンバイ時0.1W) ●入力端子:RCA×3、PHONO(MM/MC)×1、XLR×2、パワーアンプダイレクト(RCA)×1、パワーアンプダイレクト(XLR)×1、フラッシャ―×1 ●出力端子:プリアウト(RCA)×1、プリアウト(XLR)×1、RECアウト×1、ヘッドホン×1 ●その他の端子:リモートコントロール、F.C.B.S. ●外形寸法:440W×192H×473Dmm(端子、ノブを含む) ●質量:33.7kg

RCA端子、スピーカーターミナル(SPKT-100+)は純銅削り出しのピンジャックを採用。一般的な端子に用いられる真鍮に比べて硬度が低く、機械加工の難しい純銅のブロックから熟練工が一つ一つ手作業で切削加工して生産される特注品となる。表面処理はリスニングテストの結果、厚みのある1層のニッケルメッキを採用

【SACD 10 スペック】


●周波数特性:2Hz - 50kHz (-3dB/SACD)、2Hz - 20kHz(±1.0 dB/CD) ●高調波歪み率:0.0004%(SACD)、0.0015%(CD) ●S/N:118dB(SACD)、116dB(CD) ●ダイナミックレンジ:112dB(SACD)、98dB(CD) ●出力レベル:2.0Vrms(アンバランス)、4.0Vrms(バランス) ●ヘッドホン出力レベル:130mW/32Ω ●消費電力:55W(待機時消費電力0.3W以下) ●入力端子:光デジタル×2、同軸デジタル×1、USB-B(USB DAC)×1、USB-A、フラッシャー×1 ●出力端子:RCA(固定)×1、XLR(固定)×1、光デジタル×1、同軸デジタル×1、ヘッドホン×1 ●その他の端子:リモートコントロール、F.C.B.S. ●外形寸法:440W×192H×442Dmm(端子、ノブを含む) ●質量:33.0kg

アンバランス出力端子には、熟練工が一つ一つ手作業で切削加工して生産される特注の純銅削り出しのピンジャックを採用。表面処理はリスニングテストの結果、厚みのある1層のニッケルメッキを採用。同軸デジタル入力/出力端子には、真鍮削り出しの金メッキ端子が採用されている


(提供:ディーアンドエムホールディングス株式会社)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.195』からの転載です

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