PRオーディオ銘機賞2025でミドルクラス大賞を獲得
デノン旗艦プリメイン「PMA-3000NE」レビュー。ユーザーと共に歩む “理想の音” がここにある
デノン創立110周年記念モデル「PMA-A110」をベースに、新型パワーアンプ回路やミニマムシグナルパス、ワイヤリングおよび基板間の接続方式など、全面的に設計を刷新した「PMA-3000NE」が登場した。
デノン伝統のUHC-MOSシングルプッシュ増幅回路を受け継ぎながら、最新のアンプ設計技術によりアップデートされ、オーディオ銘機賞2025では見事にミドルクラス大賞を受賞した。その本機の実力を大橋伸太郎氏が解説する。
本機のベースは、110周年記念製品の一つとして2020年に発売された「PMA-A110」である。当時のラインナップの中心であった「PMA-2500NE」をベースに、上級機2015年の「PMA-SX11」や2019年の「PMA-SX1 Limited」の技術も融合してPMA-A110は誕生した。
3世代 4機種を回顧すると、めぼしい変化の一つがパワーアンプ回路の構成だ。PMA-2500NEは差動三段だがPMA-A110で差動二段になった。そして、今回のPMA-3000NEは究極の差動一段となった。
担当エンジニアが本機について「少しでも音質がよくなったといわれることを目指した」と語るのを聞いて謙虚さに驚いた。ひとことでいうと正常進化形で迷いがない。従来からの流れを断ち切ってエンドユーザーを困惑させるのでなく、理想の音を目指して共に歩んでいるのだ。同社のハイファイアンプの近年の様々な取り組みの積み上げ、試みの最前線としてPMA-3000NEがある。
PMA-3000NEの中心にあるものが新型UHC-MOS Single Push-Pull Circuitである。20年以上磨き続けているデノンのアンプ技術の顔だ。先述の通り、PMA-3000NEでは究極の差動一段に到達した。段数が少ないほど差動多段回路に比べ発振に対する安定性が高く、接続するスピーカーシステムを選ばないとデノンは説明する。段数を減らすと位相回転が発生する個所が減り位相補償の量も減らせる利点がある。
UHC-MOS Single Push-Pull Circuitと並ぶ技術の顔がミニマムシグナルパス。天板を開けてみるとよく分かるが、ケーブルをほとんど使っていない。バスバー(銅板)を使ってインピーダンスを下げている。プリアンプ部に可変ゲインアンプを適用。一般的なリスニングレベルで増幅率を下げ(最大マイナス16.5dB)入力抵抗の熱雑音を低レベルに抑えた。ここでも信号経路の短縮を行っている。プリ部は4層化でプリ部基板を集約独立した。
パワーアンプ部にも改良の手が入った。電圧増幅段の熱管理を徹底して回路の安定動作を図った。ミニマムシグナルパスはここでも貫かれ、PMA-A110の単層基板であったのに対して、2層基板にすることで基板上を渡るジャンパーワイヤーを減らし、基板の箔厚を2倍(一般的な箔厚は35μm)にすることで、140μmとした。
電源部では各セクションの配置を見直している。デジタル電源部とアナログ電源部を独立させ、プリ部の電源部はシャーシに直接マウント。音質を大きく左右するカスタムブロックコンデンサーを本機用に新規開発した。ショットキーバリアダイオード(整流デバイス)を並列化し低インピーダンス化した。各部基板の多層化とバスバーでパワーアンプ用電源からスピーカー出力まで接続しひとつのカタマリのような構造とした。
D/Aコンバーター部も全ての見直しをおこなった。DACチップにESSテクノロジーの32bit DAC ES9018K2M(2回路構成)をモノラルモードで使用、chあたり2個、合計4個使用する。出力電圧4倍で電源と回路を設計し直し、DAC基板は6層としショートシグナル化したほか、低ジッターのクロックバッファーを採用、純度の高いクロックをDACチップに供給する。
本機はサウンドマスター、山内慎一氏が試聴を繰り返して丹念に音を仕上げていった。今回のPMA-3000NEは枠の大きさ、器の大きさ、存在感を高めたい思いがあったという。
SACDプレーヤー「DCD-3000NE」と組み合わせた。シューベルトのピアノソナタはフォルテピアノの多彩な音色を引き出す。色付きや付帯音がない。低弦のうなり、光が転がるような高音域のピアニッシモ、高音から低音まで両手が鍵盤を駈け下りる生々しさ等々、さまざまな情報とニュアンスを引き出す。大きな入力があったときのエネルギーの減衰が自然で、共鳴効果が生々しい。
ボブ・ジェームス・トリオは、ピアノにピーンと張り詰めた透明感と芯がある。ローエンドはベースの胴鳴り、バスドラの量感が稠密。情報量、音色の多彩さ、清澄さがこのコンビの魅力といえよう。
DELAのミュージックサーバー「N1A」と組み合わせてUSB-DACでハイレゾファイルを聴いた。キャロル・キッドのヴォーカル(FLAC 192kHz/24bit)は、歌声に雑味が乗ったり生硬にならずくっきりと引き立ち、バックの演奏との対比が美しい。
アンナ・ネトレプコのオペラアリア(FLAC 96kHz/24bit)は、付帯音が付かず、カンタービレの強弱抑揚、ほの暗い声の音色をストレートに出す。音場空間が広く、声が頭打ちにならず制限なく伸びていく。山内氏のいう「枠の大きさ」である。
森山良子のフォーク(FLAC 192kHz/24bit)は、歌とアコギ伴奏によるシンプルな音楽ゆえ、ジッターの発生があるとゆれが目立ちやすいのだが、低ジッターのクロックバッファー採用を反映、安定してしっとりと落ち着いた音楽を聴かせる。
伊藤栄麻のゴルトベルク変奏曲(DSD 5.6MHz)は、ピアノの響きが精緻で確かな芯を感じさせ、背景の音場空間が澄み渡っている。これはクワッド構成DACのもたらしたもの。DSDは11.2MHzまで再生可能だ。
最後にレコードを聴いた。デノンのフォノイコライザーの音質には定評がある。筆者が愛用したプリアンプ「PRA-2000ZR」もレコードの音が素晴しかった。アナログ不毛時代に継続を絶やさなかったデノンの尊敬すべき伝統である。PMA-3000NEは、NF(Negative Feedback)型を搭載。フォノアンプはノイズにシビアであるため信号経路短縮をここでも最優先したのである。フォノ系電源回路の音質チューニングや回路内のオペアンプやコンデンサー、抵抗等試聴を重ねて音質を煮詰めたという。
デノンのMC型カートリッジ「DL-103」で再生すると、ブラームスのヴァイオリンコンチェルトで分解能の良さ、情報量の豊かさが発揮される。中央に屹立するヴァイオリンを瑞々しいオケがきめ細やかに立体的に包み込む。ブルックナーの交響曲は音場に深い奥行きを感じさせS/Nも高い。金管楽器群の渋い光沢感、ふくらみ、澱を洗い流したような素朴で清々しい響きがある。弱音の美しさにミニマムシグナルパスのノイズ対策が奏功していることが分かる。金管群の高まる部分に歪み、濁りが少なく美しい弱音とコントラストを生み出す。
ここでカートリッジをフェーズメーション「PP-2000」に交換してみよう。さすがのS/N、帯域、解像力だ。素直でクセがなく付帯音、歪み成分がなく響きが豊かで、シーナ・エイのビッグバンドジャズはベースの低音が濃い影のように寄り添う。ヴォーカルに付帯するエコー成分やダブルトラックのハーモニー効果の広がりが美しい。カートリッジの性能を打てば響くように実直に反映する優れたフォノイコだ。
資材が高騰し求められる機能が複雑化する現状にあって家庭のオーディオとしてむやみに高額化することを避け、ひたすら音質の良いアンプにする。リーディングメーカーの「ふんばり」がここにある。オーソドクシーを迷うことなく極めたアンプPMA-3000NE。長くこのジャンルの主役を務めることだろう。
●定格出力:80W+80W(8Ω、20Hz - 20kHz、THD 0.07%)、160W+160W(4Ω、1kHz、THD 0.7%) ●全高調波歪み率:0.01%(定格出力、-3dB時、負荷8Ω、1kHz) ●SN比(Aネットワーク):89dB(PHONO/MM、入力端子短絡、入力信号5mV)、74dB(PHONO/MC、入力端子短絡、入力信号0.5mV)、107dB(CD、NETWORK/AUX、RECORDER、入力端子短絡) ●周波数特性:5Hz - 100kHz(0 - -3dB) ●入力感度/入力インピーダンス:2.5mV/47kΩ(PHONO/MM)、200μV/100Ω(PHONO/MC)、150mV/15kΩ(CD、NETWORK/AUX、RECORDER)、1.0V/15kΩ(EXT.PRE) ●RIAA偏差(PHONO):±0.5dB(20Hz - 20kHz) ●最大入力:130mV/1kHz(PHONO/MM)、10mV/1kHz(PHONO/MC) ●入力端子:RCA×3、PHONO×1、EXT.PRE×1、USB-B×1、同軸デジタル×1、光デジタル×3 ●出力端子:RCA(RECORDER)×1、ヘッドホン×1 ●その他入出力:IRコントロール×1 ●サイズ:434W×182H×443Dmm ●質量:24.6kg ●消費電力:400W(待機時消費電力0.2W)
(提供: ディーアンドエムホールディングス株式会社)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.195』からの転載です
デノン伝統のUHC-MOSシングルプッシュ増幅回路を受け継ぎながら、最新のアンプ設計技術によりアップデートされ、オーディオ銘機賞2025では見事にミドルクラス大賞を受賞した。その本機の実力を大橋伸太郎氏が解説する。
■パワーアンプ回路は進化し究極の差動一段を実現
本機のベースは、110周年記念製品の一つとして2020年に発売された「PMA-A110」である。当時のラインナップの中心であった「PMA-2500NE」をベースに、上級機2015年の「PMA-SX11」や2019年の「PMA-SX1 Limited」の技術も融合してPMA-A110は誕生した。
3世代 4機種を回顧すると、めぼしい変化の一つがパワーアンプ回路の構成だ。PMA-2500NEは差動三段だがPMA-A110で差動二段になった。そして、今回のPMA-3000NEは究極の差動一段となった。
担当エンジニアが本機について「少しでも音質がよくなったといわれることを目指した」と語るのを聞いて謙虚さに驚いた。ひとことでいうと正常進化形で迷いがない。従来からの流れを断ち切ってエンドユーザーを困惑させるのでなく、理想の音を目指して共に歩んでいるのだ。同社のハイファイアンプの近年の様々な取り組みの積み上げ、試みの最前線としてPMA-3000NEがある。
PMA-3000NEの中心にあるものが新型UHC-MOS Single Push-Pull Circuitである。20年以上磨き続けているデノンのアンプ技術の顔だ。先述の通り、PMA-3000NEでは究極の差動一段に到達した。段数が少ないほど差動多段回路に比べ発振に対する安定性が高く、接続するスピーカーシステムを選ばないとデノンは説明する。段数を減らすと位相回転が発生する個所が減り位相補償の量も減らせる利点がある。
UHC-MOS Single Push-Pull Circuitと並ぶ技術の顔がミニマムシグナルパス。天板を開けてみるとよく分かるが、ケーブルをほとんど使っていない。バスバー(銅板)を使ってインピーダンスを下げている。プリアンプ部に可変ゲインアンプを適用。一般的なリスニングレベルで増幅率を下げ(最大マイナス16.5dB)入力抵抗の熱雑音を低レベルに抑えた。ここでも信号経路の短縮を行っている。プリ部は4層化でプリ部基板を集約独立した。
パワーアンプ部にも改良の手が入った。電圧増幅段の熱管理を徹底して回路の安定動作を図った。ミニマムシグナルパスはここでも貫かれ、PMA-A110の単層基板であったのに対して、2層基板にすることで基板上を渡るジャンパーワイヤーを減らし、基板の箔厚を2倍(一般的な箔厚は35μm)にすることで、140μmとした。
電源部では各セクションの配置を見直している。デジタル電源部とアナログ電源部を独立させ、プリ部の電源部はシャーシに直接マウント。音質を大きく左右するカスタムブロックコンデンサーを本機用に新規開発した。ショットキーバリアダイオード(整流デバイス)を並列化し低インピーダンス化した。各部基板の多層化とバスバーでパワーアンプ用電源からスピーカー出力まで接続しひとつのカタマリのような構造とした。
D/Aコンバーター部も全ての見直しをおこなった。DACチップにESSテクノロジーの32bit DAC ES9018K2M(2回路構成)をモノラルモードで使用、chあたり2個、合計4個使用する。出力電圧4倍で電源と回路を設計し直し、DAC基板は6層としショートシグナル化したほか、低ジッターのクロックバッファーを採用、純度の高いクロックをDACチップに供給する。
本機はサウンドマスター、山内慎一氏が試聴を繰り返して丹念に音を仕上げていった。今回のPMA-3000NEは枠の大きさ、器の大きさ、存在感を高めたい思いがあったという。
■「広い音場空間のデジタル再生」「分解能の優れたアナログ再生」
SACDプレーヤー「DCD-3000NE」と組み合わせた。シューベルトのピアノソナタはフォルテピアノの多彩な音色を引き出す。色付きや付帯音がない。低弦のうなり、光が転がるような高音域のピアニッシモ、高音から低音まで両手が鍵盤を駈け下りる生々しさ等々、さまざまな情報とニュアンスを引き出す。大きな入力があったときのエネルギーの減衰が自然で、共鳴効果が生々しい。
ボブ・ジェームス・トリオは、ピアノにピーンと張り詰めた透明感と芯がある。ローエンドはベースの胴鳴り、バスドラの量感が稠密。情報量、音色の多彩さ、清澄さがこのコンビの魅力といえよう。
DELAのミュージックサーバー「N1A」と組み合わせてUSB-DACでハイレゾファイルを聴いた。キャロル・キッドのヴォーカル(FLAC 192kHz/24bit)は、歌声に雑味が乗ったり生硬にならずくっきりと引き立ち、バックの演奏との対比が美しい。
アンナ・ネトレプコのオペラアリア(FLAC 96kHz/24bit)は、付帯音が付かず、カンタービレの強弱抑揚、ほの暗い声の音色をストレートに出す。音場空間が広く、声が頭打ちにならず制限なく伸びていく。山内氏のいう「枠の大きさ」である。
森山良子のフォーク(FLAC 192kHz/24bit)は、歌とアコギ伴奏によるシンプルな音楽ゆえ、ジッターの発生があるとゆれが目立ちやすいのだが、低ジッターのクロックバッファー採用を反映、安定してしっとりと落ち着いた音楽を聴かせる。
伊藤栄麻のゴルトベルク変奏曲(DSD 5.6MHz)は、ピアノの響きが精緻で確かな芯を感じさせ、背景の音場空間が澄み渡っている。これはクワッド構成DACのもたらしたもの。DSDは11.2MHzまで再生可能だ。
最後にレコードを聴いた。デノンのフォノイコライザーの音質には定評がある。筆者が愛用したプリアンプ「PRA-2000ZR」もレコードの音が素晴しかった。アナログ不毛時代に継続を絶やさなかったデノンの尊敬すべき伝統である。PMA-3000NEは、NF(Negative Feedback)型を搭載。フォノアンプはノイズにシビアであるため信号経路短縮をここでも最優先したのである。フォノ系電源回路の音質チューニングや回路内のオペアンプやコンデンサー、抵抗等試聴を重ねて音質を煮詰めたという。
デノンのMC型カートリッジ「DL-103」で再生すると、ブラームスのヴァイオリンコンチェルトで分解能の良さ、情報量の豊かさが発揮される。中央に屹立するヴァイオリンを瑞々しいオケがきめ細やかに立体的に包み込む。ブルックナーの交響曲は音場に深い奥行きを感じさせS/Nも高い。金管楽器群の渋い光沢感、ふくらみ、澱を洗い流したような素朴で清々しい響きがある。弱音の美しさにミニマムシグナルパスのノイズ対策が奏功していることが分かる。金管群の高まる部分に歪み、濁りが少なく美しい弱音とコントラストを生み出す。
ここでカートリッジをフェーズメーション「PP-2000」に交換してみよう。さすがのS/N、帯域、解像力だ。素直でクセがなく付帯音、歪み成分がなく響きが豊かで、シーナ・エイのビッグバンドジャズはベースの低音が濃い影のように寄り添う。ヴォーカルに付帯するエコー成分やダブルトラックのハーモニー効果の広がりが美しい。カートリッジの性能を打てば響くように実直に反映する優れたフォノイコだ。
資材が高騰し求められる機能が複雑化する現状にあって家庭のオーディオとしてむやみに高額化することを避け、ひたすら音質の良いアンプにする。リーディングメーカーの「ふんばり」がここにある。オーソドクシーを迷うことなく極めたアンプPMA-3000NE。長くこのジャンルの主役を務めることだろう。
SPEC
●定格出力:80W+80W(8Ω、20Hz - 20kHz、THD 0.07%)、160W+160W(4Ω、1kHz、THD 0.7%) ●全高調波歪み率:0.01%(定格出力、-3dB時、負荷8Ω、1kHz) ●SN比(Aネットワーク):89dB(PHONO/MM、入力端子短絡、入力信号5mV)、74dB(PHONO/MC、入力端子短絡、入力信号0.5mV)、107dB(CD、NETWORK/AUX、RECORDER、入力端子短絡) ●周波数特性:5Hz - 100kHz(0 - -3dB) ●入力感度/入力インピーダンス:2.5mV/47kΩ(PHONO/MM)、200μV/100Ω(PHONO/MC)、150mV/15kΩ(CD、NETWORK/AUX、RECORDER)、1.0V/15kΩ(EXT.PRE) ●RIAA偏差(PHONO):±0.5dB(20Hz - 20kHz) ●最大入力:130mV/1kHz(PHONO/MM)、10mV/1kHz(PHONO/MC) ●入力端子:RCA×3、PHONO×1、EXT.PRE×1、USB-B×1、同軸デジタル×1、光デジタル×3 ●出力端子:RCA(RECORDER)×1、ヘッドホン×1 ●その他入出力:IRコントロール×1 ●サイズ:434W×182H×443Dmm ●質量:24.6kg ●消費電力:400W(待機時消費電力0.2W)
(提供: ディーアンドエムホールディングス株式会社)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.195』からの転載です