「BOSEパーソナルプラスサウンドシステム」の実力をチェック
コンパクトカーがコンサートホールに様変わり。BOSE×日産AURAが実現するプレミアムなサウンド体験
■コンパクトカーで実現する良質なカーオーディオの時間
高級車や大型車で堪能できるプレミアムなサウンドをコンパクトカーでも体験したい。その願いを叶えるのが、日産自動車「AURA」が日本車で初採用した「BOSEパーソナルプラスサウンドシステム」だ。確実なサウンド効果と共にホームオーディオにも転用できそうなアイデアも垣間見える本作を紹介する。
日産自動車のAURAは、「NOTE」に上質な室内を奢ったプレミアムコンパクトカーだ。コンパクトカーとしては珍しいアコースティックガラス(貼り合わせガラス)とシリーズハイブリッドユニットe-POWERにより静粛性の高さも見逃せないポイントで、オーディオとの親和性がとても高いクルマといえる。
本稿のメインテーマであるBOSEパーソナルプラスサウンドシステムは「ステアリングスイッチ(アドバンスドドライブアシストディスプレイ設定、オーディオ、ハンズフリーフォン、プロパイロット)+統合型インターフェースディスプレイ+USB電源ソケット(タイプC 2個〈フロント、リヤ〉、タイプA 1個〈フロント〉)+ワイヤレス充電器+NissanConnectナビゲーションシステム(地デジ内蔵)+車載通信ユニット(TCU[Telematics Control Unit])+BOSEパーソナルプラスサウンドシステム(8スピーカー〈フロント、前席デュアルヘッドレスト、ツイーター〉、パーソナルスペースコントロール)+ETC2.0ユニット(ビルトインタイプ)+プロパイロット(ナビリンク機能付)+プロパイロット緊急停止支援システム(SOSコール機能付)+SOSコール」(42万1300円)という、とても長い名前のメーカーオプションを選ぶことで取り付けられるもの。
「42万1300円もするのか?」と驚くが、ナビのほか日産自動車の看板技術である「プロパイロット」(ハンドル支援付き前走車追従クルーズコントロール)も付いてくるので、あながち高いとは言えない。なお、このオプションは納車後にディーラーで取り付けることはできないので注意が必要だ。
■ヘッドレストに搭載したスピーカーでサラウンド効果を実現
BOSEパーソナルプラスサウンドシステムは、8スピーカーと専用アンプで構成。フロントのAピラー、ドアミラー近傍に25mm径トゥイーターを配置。振動板の素材は明かされていないが、磁気回路にはネオジウムマグネットが用いられているようだ。
165mmのウーファー(BOSEはSUPER 65ワイドレンジスピーカーと呼ぶ)はフロントドアに設置。こちらも振動板素材は不明だが、よく見るとエッジの形状がタンジェンシャル形状(らせん状)なのがわかる。これにより可聴帯域の歪みを抑制しているとのこと。磁気回路はデュアルマグネット構造を採用する。
ちなみに後席のドア内張りに開口部はあるもののスピーカーはない。つまりスピーカーは前列だけに設置されているということになる。残りの4つのスピーカーはどこにあるのか?
答えは運転席と助手席のヘッドレストの中。対向配置した60mmのスコーカーユニットをヘッドレストに内包させ、ヘッドレストの側面から音が出るという仕組みだ。BOSEはこれを「UltraNearfieldヘッドレストスピーカー」と呼んでいる。確かに耳元で鳴るのだから、“ウルトラニアフィールド” に相違ない。
このヘッドレストから音を出すという方法は、特に目新しいものではない。というのも、オープンカーではよく見かける手法だからだ。ルーフを開けたオープンカーは音楽が聴き取りづらいため、音源そのものを近づけているのだ。
だがBOSEのパーソナルプラスサウンドシステムは、ヘッドレストに内包したスピーカーをサラウンド効果のために使うという点で異なる。ホームシアターシステムのリアスピーカーを耳元で鳴らしている状況に似ているといえるだろう。結果、運転席・助手席それぞれの周囲に音の広がりを作り出し、360°音に包まれているような体験が得られると謳う。「パーソナルプラスサウンド」というストレートなネーミングに合点がいく。
■サウンド設定画面で視覚的にも効果を確認できる
サウンド設定画面を呼び出すと、BASS/TREBLEの2バンドイコライザーのほか、PersonalSpace Controlというメニューのみ。よくあるLIVEとかSTUDIOといったエフェクトデザインに関する設定はない。
PersonalSpace Controlのメニューを開くと、設定できるのは「T」から「W」のスライダーのみ。Wにするほど、扇が開くようなアニメーションが映し出され、視覚的に効果がわかるようになっている。
ちなみに設定画面のほか、通常のナビ画面状態などからでも変更可能。だが2秒程度で変更部分が消えてしまうなど、操作はかなりやりづらかった。
操作面でいえば、今回試聴はUSBメモリに入れたハイレゾのFLACファイルを用いたところ、選曲画面等でアートワークが出なかった。この面も含め、ユーザーインターフェースの改善を望みたいところだ。
■聴き心地のよいBOSEサウンドがさらに実体的に
まずはPersonalSpace Controlで最もスライダーを「T」に振った状態、つまりUltraNearfieldヘッドレストスピーカーから音を出さない状態から試聴を始めた。中低域を基調とした暖色系の音色が車内を包み込む。耳あたりがよく、聴き心地のよさは、まごうことなきBOSEサウンドだ。同ブランド搭載車は、自動車メーカーや車種を問わず音色が統一されているところ。このクオリティコントロールには、いつも驚かされる。低域がスッキリしているのは、ウーファーサイズとサブウーファーを搭載していないからだろう。
トゥイーターがAピラー側にあるためか、思いのほか音場は広いのも美点だ。いっぽうセンタースピーカーがないためか、音像はやや薄めの印象も受ける。音質傾向が分かったところでUltraNearfieldヘッドレストスピーカーから音を出してみることにした。耳を近づけると、ややリバーブがかかった中高域が聴こえる。
スライダーを最も「W」側に設定すると、UltraNearfieldヘッドレストスピーカーからの音が支配的で、車両が搭載する2ウェイスピーカーは鳴りを潜める。確かに包み込まれるような感覚は得られるものの、低域は薄く、リバーブ成分の強い、フォーカスの甘いサウンドを好ましいとは思えない。
だが、絞っていくと適度なサラウンド感が得られるようになる。特にホールトーンを含む録音、例えばオーケストラなどで好ましい効果を発揮するようだ。PersonalSpace Controlのスライダーを中央からやや左寄りにした状態で、カルロス・クライバーがタクトを振った名演「ヴェルディの歌劇:椿姫」は、まるでオーケストラピットの中に入ったかのよう。躍動的な演奏と相まって、実に興味深いプレイバックである。気をよくして色々と試したが、楽曲によっては違和感が残るのも事実。特にオンマイク録音で録音されたものは、もう少し演奏者との距離を開けて聴きたいという気持ちが残る。
そこでPersonalSpace Controlのスライダーをさらに絞っていった。結論から言えば、Tから1目盛りか2目盛りといった、ほんの僅かに効かせた状態が最も良好。というのも、不思議なことに、全く効かせない時よりもダッシュボード上に実像感を覚えるではないか!? 再び椿姫にすると、中央からやや右よりに聴こえるバリトンバス、中央よりやや左寄りに位置するメゾ・ソプラノの位置関係が明瞭になるだけでなく、コーラスの奥行きが増す。
優れたオーディオは時間と空間を超越するが、BOSEパーソナルプラスサウンドシステムはまさにそれ。プロパイロット動作中、AURAがフィレンツェのコムナーレ劇場まで自走したのか? と思ったほどであった。
ヘッドレストから僅かに音を出して実体感を得るという手法は、ホームオーディオにも転用できるのではないだろうか? 試聴しながら、そのような思いにかられた。自宅でも機会があれば挑戦してみたい。
このような自由な発想がカーオーディオの面白さであり、可能性を感じさせる。狭い室内空間で十分な音場を確保する本システムが、より多くの自動車に搭載されることを願わずにはいられない。