オンキヨー・カムバック!テレビの音も新鮮に、リビングオーディオ対応プリメイン「TX-8470」レビュー
超ハイコスパ、まさに新鮮で感動的な音
10万円以下のプリメインアンプで、久しぶりに新鮮で、感動的な音を聴いた。この価格帯というと、だいたいこんなものと言う、一般知がある。そのオーディオ的常識に照らすと、99,000円(ティアック直販価格)の新プリメインアンプ「TX-8470」はたいへんなハイC/Pだ。

私は今年のCESで、オンキヨーの新ブランドと新製品の登場を取材し、その新鮮で目覚ましい音に感動し、インプレッションを本サイトで報告した。帰国後、PHILE WEB取材で聴いたTX-8470の音もまた、私はひじょうに新鮮な思いで聴いたのである。

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本機は、新ブランドの製品ではない。旧来(ロゴが新しくなる)の最後のものだが、その音の表現力、ヴィヴッドな進行力、そして明朗な質感からは、ラスベガスで聴いた新生オンキヨーサウンドへの先取り、もしくは序章的なメッセージと、聴いた。
詳しくは後述するが、リファレンスのUAレコードの情家みえ「エトレーヌ」を、どう再生したか。手許のメモを少し書くと、「質感がすがすがしく、端正で、クリアだ。冒頭のアコースティック・ベースのキレがくっきりとし、量感も十分。スピードが速く、伸び伸びとしてレンジの天井も高い。山本剛のピアノも装飾感がしゃれている。ヴォーカルは良質で明瞭、明確。情家みえらしい艶も心地好い」。
しかしそれにしても再度述べるが、このC/Pの高さはどうしたことだ。その秘密が、「直販」である。冒頭で「直販で」と軽く述べたが、本当に直接販売しかしないのである、このモデル。量販店、専門店を問わず、店には出荷せず、オンキヨー製品の国内販売を手掛けるティアックのサイトでしか買えない。

それは換言すると、小売店へのマージンが存在しないことを意味する。通常はメーカー→販売会社→小売店という商流で売られるのだが、ここに小売店がいないのなら、理論的にはその小売店への流通費用の分は、売価を下げることができる。しかも、その分を見込んで原価計算するなら、直接費はより多く使えるはずだ。これがウルトラハイC/Pのひとつの理由だ。貨幣価値ではその1.5倍以上の売価のプリメインアンプに匹敵すると思われる。
しかし、それはあくまでもコスト構造の話であり、重要なのが、リソースをどう音質に使うか、だ。まさに、そのポイントでオンキヨーの技術者は良い仕事をした。
創業者の理念に立ち返り開発を継続
オンキヨーブランド製品の立ち位置は複雑だ。もはや「オンキヨー」というAVメーカーは存在しない。ホームオーディオ製品については、現在はアメリカのPremium Audio Companyの傘下として、かつてのオンキヨーとパイオニアの技術者たちが東大阪のプレミアム・オーディオ・カンパニー・テクノロジー・センター(PACTC)株式会社で開発している。

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同社プロダクトデザイン部の渡邉彰久氏は、言った。
「まず、われわれの音の原点を確認することから、始めました。スピーカーメーカーを興した創業者の五代武は当時から、スピーカーの性能を十全に引き出す、優れた駆動力を持つアンプを望んでいました」
「オンキヨーは演奏者の意図をお客様に届けたいと常に考えています。そのためには開発側が音のエモーションを尊重し、リアルイメージ、ダイナミクス、ディテールを得るためのスピーカーを駆動、制御する力を持つハイカレント(高電流)アンプが絶対に必要とわれわれは訴えてきました」
「TX-8470もこの原点に則り、何としても、オンキヨーブランドを再興させたいとの精神で設計、音作りに取り組みました」
潔いスピリットではないか。ではどんな技術とこだわりが投入されたのか。
まずは伝統のハイカレントである。対称型G級アンプを搭載。低負帰還(NFB)設計により、全体域にわたる効率的な増幅を得て、歪み、ノイズを最小限に抑制することを目指した。カスタム電源トランス、東信工業と共同開発した大容量コンデンサー、銅製バスバー……によって安定した電流供給を行う。これらが音質をサポートする。


特にモダン・インターフェイスの充実度がきわめて高い。AirPlay2、Chromecast built-in、Roon Ready、Works with SONOS、Wi-Fi、Bluetoothに対応、サブスクとしてSpotify、Amazon Music、TuneIn、Deezerが受信できる。映像系では8K対応HDMI端子とHDMI ARCを搭載している。



前向きでチアフル、音楽の情緒性もしっかり伝える
では、いよいよTX-8470を聴こう。場所はPHILE WEBの新設になった試聴室。CDとBDを再生する。CDプレーヤーはティアック「CD-P750」(アナログ入力)、BDプレーヤーはマグネター「UDP-900」(HDMI入力)、スピーカーはB&W「703 S3 Signature」。

私は試聴は、UAレコード合同会社の情家みえ・第1弾アルバム「エトレーヌ」から第1曲の「チーク・トゥ・チーク」(UHQCD)からスタートするのが常だ。私がプロデュースした楽曲なので、そのすべての音を知悉している。だから装置のクオリティが、最初のピアノ、アコースティック・ベース、ドラムスの前奏を少し聴くだけで、たちどころに分かる。
その観点で聴くと、TX-8470は前向きでチアフル、そして機微に通じていると分かる。冒頭のコメントの続きを書くと、ヴォーカル音像がしっかりとしたエッジを持ち、進行力が勁い。
山本剛のソロピアノの闊達さと、エモーションの深さは、このクラスの2チャンネルアンプとしては、傑出している。アクセントとスタッカートの華やぎは、演奏者の意図をしっかりと反映している。フィナーレの山本のコードの変則リズム弾きがダイナミック。と、なかなか良い調子ではないか。
「エトレーヌ」では明と暗を聴く。明朗曲の次は、失恋のバラード、第5曲の「ユー・ドント・ノー・ミー」だ。
情家みえは女の子に振り向いてもらえない哀しみと諦観を、せつせつと、深い思いと共に歌い上げる。センターに正しく定位するヴォーカル音像のボディがたっぷりとして肉付けが良い。締まりがあり、同時にしなやかだ。
TX-8470はベースの安定感、音階移動の躍動、ニュアンスの深さ、メッセージの情緒性……を美味く表現している。山本の突然発するピアノソロの強烈なる哀しみの表現は絶品。切れ味も弾力的だ。

次にUAレコードが現在制作中の、情家みえの第2弾バラード集「ボヌール」から、冒頭の「ラバー・カンバック・トゥ・ミー」を聴く、1月にレコーディングした、出来たての2ミックスの音源(USBメモリ)。正式なミックスを経て、UHQCDにて7月発売予定だ。
UAレコードの録音はテイク編集なしのすべてが一発録り、訂正や人工的残響などは一切加えない。つまり後加工せずに、演奏時のエモーションをそのまま封印するのがモットーだ。
「ボヌール」は2017年の「エトレーヌ」から8年後の録音。情家みえの歌唱、後藤浩二のピアノ、そして名匠、塩澤利安の録音……とすべてが、格段にグレードアップしている。音の鮮度は「エトレーヌ」より遙かに高く、ヴォーカルやインストルメンタルの描写力が格段に向上し、マッシブな音のエネルギー感を堪能できる音源だ。
その「ラバー・カンバック・トゥ・ミー」は鮮烈で鮮明。ヴォーカル音像のエッジが明瞭にして、その内部のボディがたいへんクリア。ヴォーカルの爆発的な進行と共に、ベースの細かくて急速な音割りが迫力と質感を持つ。
後藤のピアノも闊達。まさに寄らば斬るぞ!の切れ味だ。TX-8470は「ボヌール」の魅力を、余すところなく聴かせてくれた。
オーケストラ作品は、俊敏で鋭角的な演奏を聴く。世界を震撼させているクルレンティス&ムジカ・エテルナの「モーツァルト:フィガロの結婚」序曲と第一幕だ。
溌剌とし、進行が強い。何より強靭な表現意欲と、このテンポ、この躍動感でなけれぱならないとの強い思いが、TX-8470から聴けた。凄まじい速さにもかかわらず、細部の彫塑は見事。
しかも単に高剛性なだけでなく、「歌い」も美しい。木管の歌のカンタービレが温かく、弦に濡れた質感がある。音色の清涼さも心地好い。内声部のハーモニーも豊か。第一幕が始まっての尺を測るフィガロのバリトンとスザンナのソプラノのデュエットによるステージ的な質感、臨場感が生々しい。クルレンツィスが本曲に込めた意欲と強い意志がひたひたと伝わってくる音だ。
ピアノ音源は名ピアニスト、イリーナ・メジューエワが、1925年製のビンテージのニューヨーク・スタインウェイを弾いた、ベートーヴェンのピアノソナタ「ワルトシュタイン」。
軽快さ、スピード感が本領のTX-8470は、メジューエワの微細なタッチへ即座に応えるニューヨーク・スタインウェイの俊敏レスポンスを見事に再生。圧倒的な音楽的ダイナミックレンジにて、エネルギーが大胆に発露され、音が疾走している。まさに明晰としか言いようのない、ベートーヴェンだ。
響きの美しさも格別。富山県魚津市新川文化ホールの暖かなソノリティがそのまま伝わってくる。間接音の滞空時間が長く、ニューヨーク・スタインウェイならではの音の飛びが速いゴージャスな音響を堪能。
映画でもキレ味の良いサウンドで音楽も効果音もクリア
ではHDMI入力で、BDソフトを聴こう。まずUHDBDの映画『グレイテスト・ショーマン』。画質、音質共にたいへん優れ、機器の性能チェックには欠かせないBDだ。
チャプター1の天地を揺るがす足踏みの重低音は、壮大なる雄渾さと言う点では、サブウーファーがない2チャンネルなのでそこまでは出ないが、キレがよく、もたれず質の高い“重足音”を聴かせてくれた。サーカスのSEにコーラス、ソロヴォーカルも加わり、音数は多いが、混濁せずにクリアに聴けた。

チャプター10の興行師のバーナムとスウェーデンの歌姫ジェニー・リンドが初めて出会うパーティシーン。喉を震わせ、ドスを効かせて、儲け話を持ちかける厚顔のバーナムに、上からの疑いの目線で皮肉っぽく応対するリンド。そんな人物の強い個性を背負った台詞の機微が、上手く再現されている。
チャプター11のコンサートシーン「ネヴァー・イナフ」。2チャンネルながら、バーナムのMCの響きが、会場に広く深く拡がる。曲の細かな部分の表情もクリヤーにして透明度が高く再現。歌声の艶々感、ホールトーンが会場に広く拡散し消えゆく美しさ……これらはまさにTX-8470とB&Wスピーカーの合わせ技だ。
効果音(SE)再現性は、現代の高音質映画の代表、UHDBD『グランツーリスモ』のチャプター8はオーストリアのレッドブル・リンクでのレースシーン。
ゲーマーレーサーのヤンがイヤホンで聴くエンヤの「オリノコ・フロー」の豊かなソノリティから始まる。エンジン・イグニション音、ローリングスタートの集積されたエンジン音、強烈な排気音、レース場の環境音、会場に轟く拡声、劇伴の低音の蠢き……という空気感と臨場感を伴ったSE再現性がたいへんリアルだ。
SEと音楽が手を携えて臨場感を高め、レース直前の迫り来る緊張感を描く。音が持つ意味合いや情報性がSEの山のなかでも明瞭に分かる。2チャンネルでも位相差のあるコーラスやSEの音成分がリアに回り、レース場の醍醐味をたっぷり味わえた。2チャンネルでも、音質的なメリットにより、眼前映像との一体感が醸成される。
音楽ソフトは今年のリッカルド・ムーティ指揮、ウィーン・フィルの『ニュー・イヤー・コンサート』(ソニー・クラシカル)。
ムーティにとって93年以来、2回目の「ヨハン・シュトラウス:「ジプシー男爵」序曲」だ。ウィーン風の気品とソロ楽器のカンタービレの豊かさは、今回のニューイヤーの白眉だ。
TX-8470は一音一音をしっかりと再現し、細かな部分まで解像。ジプシーらしいオーボエソロ旋律の溜や弦のピッチカートの弾きなど、しゃれたフレージングがウィーンらしい。チェロとの合奏も濃い。
音源の持つエモーションをストレートに伝える
ジャズヴォーカル、オーケストラのCD、アクション映画、ミュージカル映画、オーケストラ映像音楽……と多彩に聴いてきた。TX-8470は音源の持つエモーションを闊達に、虚飾なく、ストレートに聴かせてくれるプリメインアンプだと分かった。「10万円以下」の価格で、これほどの音と音楽に浸る歓びを味わせてくれるアンプは貴重だ。
TX-8470の音からは、オンキヨーを何としても「新生」させたいする、開発陣の思いとこだわりが聴けた。オンキヨーの復活を熱く期待したい。