これぞ新世代FIIOの幕開け。いま聴くべきヘッドホンアンプ、Kシリーズ最新作「K17」徹底レビュー!
FIIOから、大ヒットしたヘッドホンアンプ「K9シリーズ」の最新シリーズが登場した。その名も「K17」。「K19」に続いて2桁番台が冠されたことに加え、サイズ感は「K9 AKM」「K9 Pro ESS」からさほど変わらないものの、最新のFIIOのオーディオ技術が投入された最新鋭機。ノブやつまみなどにも“レトロデザイン”があしらわれながらも、最新サウンドを纏って登場した「K17」の魅力を、旧機種と比較も交えて徹底検証!

これまでのKシリーズとは一線を画す機能と音質
FIIOのK17は、FIIOのデスクトップ向け“Kシリーズ”の最新モデルであり、昨年11月に開催された「秋のヘッドフォン祭 2024」で世界初公開されたDAC内蔵ヘッドホンアンプだ。

K17はKシリーズでは「K9 AKM」の上位モデルとなり、K19との間に位置している。直接的には販売完了した「K9 Pro ESS」の後継ともなる。しかしながら最新モデルとしてその内容はこれまでのKシリーズとは一線を画している。本稿ではその音と機能の進化、そしてK9シリーズとの比較も交えながらその実力を探っていく。

レトロデザインが再ブーム?
まず特徴として、K17は外観デザインが大きく従来の製品とは異なっている。K17ではK19のモダンなデザインから一転して、レトロなオーディオ機材を想起させるようなシックなデザインが採用されている。
操作はダイヤルやノブなど機械的な操作系で、前面の液晶ディスプレイはレトロなモノクロ表示に黄色の背景を採用しており、テーマ変更によるカスタマイズも可能だ。なおこの大型ディスプレイはタッチ対応であり、豊富な機能に合わせてさまざまな操作と表示が可能となっている。

音の中核となるDACには、旭化成エレクトロニクス(AKM)のフラグシップDACチップであるAK4191EQとAK4499EXを採用。これはデジタル処理を担うAK4191EQとアナログ変換を担うAK4499EXを分離した設計により、高い性能を狙ったDACチップだ。この組み合わせ自体はK9 AKMでも同じだが、K17ではAK4499EXチップを2基搭載、左右チャンネルごとに独立させた設計としている。


アンプの出力段をディスクリートで構成
そしてアンプとしての要となる出力段はK19も含めたこれまでのKシリーズとは大きく異なっている。ここがまずK17を語る上でのポイントとなる。
これまでのKシリーズはより上位グレードのK19も含めてヘッドホンアンプICのTHX-AAAを採用していた。それに対してK17ではオン・セミコンダクターのトランジスタであるMJE243とMJE253を組み合わせたディスクリート設計の出力段を搭載している。オン・セミコンダクターのホームページを参照するとMJE243は極性がNPN型、MJE253はPNP型であり、これらによりプッシュプルのAB級の設計をしていることが推測できる。これは高出力を狙った設計である。実際に4W+4W(32Ω、バランス出力)という高出力を実現している。

もちろんTHX AAAも優れたICであり単に出力という点では劣らないかもしれない。しかしディスクリート設計のメリットはICという決められた枠を超えた自由な設計ができるということだ。
またK17ではK9シリーズでは4基だった大型コンデンサーが5基に増設されるなど電源系も強化されている。

ネットワークやゲーミングにも対応。独自イコライザーも
またK9シリーズに対しては入出力がより多様化されている。光デジタル入力、同軸デジタル入力はもちろん装備され、USB入力は前面にも端子が搭載されてスマホとの接続を用意にしている。またK9シリーズ同様にUAC1.0モードが搭載され、ゲーム機との接続を容易にしている。ゲーミングの世界は大きく変容していて、近づく敵の微かな足音の方向を知るためにハイエンドヘッドホンを買うプロゲーマーやマニアは少なくない。

またワイヤレスではK9シリーズはBluetoothのみだが、K17ではWi-Fiにも対応している。これによりK17はネットワーク対応機能を有し、AirPlayにも対応。またネットワークは有線での接続にも対応している。
このほかにもプリアンプとしても使用できる機能も搭載、デジタル・アナログ分離の設計や高精度クロックの搭載、各種保護システムなどなどオーディオ機器としての基本性能はだいぶ充実している。
そしてK9シリーズになかった大きな特徴は31バンドの「ロスレス」イコライザーが搭載されていることだ。これはハードウエアで実現されていて、M21586QというDSPにより64ビットの倍精度小数点計算ができるという優れたICだ。
多くのDSPは32ビットで固定小数点計算を行うものなので、32ビットの単精度浮動小数点をさえ超えた64ビットの倍精度浮動小数点計算ができるDSPチップは珍しい。「ロスレス」という言葉はこの高い精度によるものだろう。K19も同様の機能を有しているが、採用されているDSPのタイプが異なっている。

なお31バンドのパラメトリック・イコライザー(PEQ)機能は詳細な調整を本体ディスプレイだけで行うのは困難なため、K17背面のRS232端子からUSB-C経由でPCに接続して専用ソフトウェアを使用して操作する。これについては後述する。
細かな音像を浮き上がらせる高い解像力
次に実際に借用したデモ機を使って音と機能を確かめてみた。音源としてM2 Macbook Airを使用した。
実際に机の上に置いてみると思ったよりもコンパクトな筐体で 、従来のK9シリーズよりも少し大きい程度だ。ただし外観はまるで異なり、レトロなオーディオ機器という雰囲気を醸し出している。FIIOはモダンなデザインが多かったが、これは大きな変化だろう。タッチ液晶は反応が早く、慣れてくると小さい割には意外と使いやすい。K17の豊富な機能を使うための核となる部分でもある。またボリュームダイヤルやスイッチノブ類はつまみやすく、使いやすい。

試聴はまずゼンハイザー「HD 800S」にXLRバランス端子のケーブルを接続、ゲイン位置をH(ハイ)にして聴いた。これの状態で、60-70%程度で音量が取れる。ゲイン位置はさらに上にSH(スーパーハイ)とUH(ウルトラハイ)があるので、さらに低能率のヘッドホンでも十分に対応できるだろう。ボリュームはダイヤルで微調整も可能だが、液晶を指でスワイプして大きく変えることもできる。
音色はかなり濃厚で、深い奥行きが感じられた。AKMのフラグシップDACらしいノイズレスな黒い背景と細かな音像を浮き上がらせるような高い解像力が堪能できる。特に雫がぽたりと垂れるような環境音では、思わず声を上げてしまうほどリアルだ。吸い込まれるような深い音空間はノイズが少なく高いSN比を感じさせる。
楽器音の歯切れの良さも素晴らしく、スピード感がある。K17は300Ωの高いインピーダンスをものともしないように軽々と駆動しているが、このアンプはパワーだけではなく躍動感がかなり高いのが特徴だ。
帯域再現性も広く、HD800 Sの高い周波数特性を低い方から高い方まで使い切っているかのようだ。低音に力があるのでHD800 Sでいつも感じるような低音の物足りなさは少ない。
K9 AKMおよびK9 Pro ESSとも同じヘッドホンで比べてみたが、従来のFIIOの音に比べてK17はかなり濃厚で重い音だと感じた。単に解像力や情報量が高くなったということだけではなく、設計者がまるで異なっているかのように音色も異なっているようにも感じられる。またK17はK9シリーズよりも音の奥行き表現が優れていて深みがある。そのためにより立体的が豊かに感じられる。
K9シリーズからアップグレードすると、この音空間の深さと濃厚な音表現に圧倒され、より本格的なオーディオ機器を買ったと得心できるだろう。実際に同じ曲で聴き比べてみたがK9 AKMとK9 PRO ESSの差よりも、それらとK17の差の方が大きい。ただしこれは曲によっても異なり、この音再現の差は良録音のジャズヴォーカルなどではかなり大きな差となり、アニソンやJ-POPではやや少なめとなる。
最新の高性能ヘッドホンの美点もしっかり引き出す
次にAustrian Audioのフラグシップである「The Composer」でもXLRバランスケーブルを用いて試聴してみた。ゲイン位置はL(ロー)で十分に音量が確保できる。

The Composerは設計がHD800 Sよりだいぶ新しく、より高性能だ。K17を使うとそのことが実感できる。帯域特性はよりワイドレンジであり、高域は一層伸びやかで、低音はより腹に響くように重い。AKGの遺伝子を感じさせるような中音域の女性ヴォーカルの瑞々しさも美しくリアルに感じられる。このようにユーザーが使うヘッドホンがより高性能になっても、それに従うように高い音質を再生できるのがK17だ。
また試しに手持ちのマルチBAドライバーイヤホンであるqdcの「WHITE TIGER」も使用してみた。背景ノイズはほとんど感じられず、ゲイン位置はLで40%程度となる。
こうしたハイパワーアンプでは高感度イヤホンを使った時にゲインが大きすぎて、ほとんどボリュームを上げる余地が取れないことが多いが、K17の場合にはボリュームのダイヤルを使った場合にかなり細かく音量が調整できる。そのため高感度イヤホンでも意外と使いやすい。
基本的にはヘッドホン向けのアンプではあるが、マルチBAドライバーのイヤホンでもその高音質を楽しむことができるだろう。
高い解像感はそのままに自由に音質を調整できる
そしてK17の大きな特徴である「ロスレス」イコライザー機能も試してみた。このイコライザー機能では31バンドもの調整が可能なために、とても本体の液晶では表示できない。そこでUSB-CケーブルをK17の背面にあるRS232端子からPCまたはスマートフォンに接続して表示させる必要がある。
つまりこのイコライザー機能を使うためには通信用のUSBケーブルが音楽データ伝送の他に必要となり、合計でUSBケーブルが2本必要となる。本体単独では「ジャズ」や「ロック」などの固定イコライザー機能が使用できる。

PC側にインストールするイコライザーアプリは今回使用したMacの場合にはMacのアプリストアをアクセスして無料でダウンロードできる。またスマートフォンではFIIO Controlアプリが使用できるようだ。画面上での音の調整はマウスを用いてグラフ上で直感的にも動かせ、さらに上部に設けられたスライダーでも微調整ができる。

試してみるとたしかにスムーズに音が変わり、それに伴う音質的な劣化は聴覚的にはほとんど感じられない。K17の持ち味である本来の濃厚で高い解像力を損なわないで、音を好みに応じて変えられると感じた。さすがに全ての機能は試せないが、一般ユーザー向けにこれほど多機能なイコライザー機能はあまり例がないだろう。もしかするとプロ市場も意識しているのかもしれない。
ワイヤレス機能も試してみた。まずBluetooth機能をオンにすると液晶が点滅することでペアリングモードに入ることがわかる。そしてK17を手元のスマートフォンとペアリングさせると、スマホからK17に簡単に音楽をストリーミングできる。この際には接続しているコーデックも表示される。AACでiPhoneと接続してみたが、音質はUSB接続と比べると多少落ちるとはいえかなりレベルが高い。低音は十分に引き締まり、声の再現も良い。手軽に使える機材としては十分だと感じた。

次にWi-Fi機能をオンにすると小さなキーボードが液晶画面に表示されて、そこでWi-Fi IDやパスワードを入力することができる。AirPlayを選択して同じiPhoneと接続してみたが、Bluetooth接続よりもさらに一段高い音質が楽しめた。かなり解像感が高く、Bluetooth接続の際の音の雑味は少なくなる。この音質ならばワイヤレス接続でもかなり満足できるだろう。
FIIO K17はこのように音質、機能ともにK9シリーズからは大きく進化していることがわかった。レトロなデザインも魅力的であるし、使っていても使い勝手が良い。K17はデザイン、音の両面でFIIO新世代の幕開けを告げる機材と言って良いだろう。
(提供:エミライ)