【追悼】ジョブズ氏がAV機器に革命を起こした「この10年」を振り返る
■2001年に登場した初代機から進化を重ねたiPod
ジョブズ氏のオーディオビジュアルでの功績は、2001年から2011年までの、この10年間のiPodの動きを見ればよくわかる。アップルがオーディオビジュアル機器に参入したのは、iPodを発売した2001年のことだった。
・アップル、5GB HDDを搭載したポータブルオーディオプレーヤー (2001年10月24日)
iPodが登場した当時のキャッチフレーズは「1000 songs in your pocket」。当時はいわゆる「MP3プレーヤー」が人気を博していた時代で、小規模メーカーから大メーカーまでが様々な製品を発売していたが、アップルはそこに5GBという、当時としては画期的な大容量HDDを持った製品を投入。最長1,000曲の音楽を保存でき、音楽同期を頻繁に行う必要が少ない利便性をアピールした。
当初はMac専用だったiPodだが、翌年の2002年にはWindowsにも対応。しかも容量違いの3機種を一挙発表し、5GBだけでなく10GB、20GBのモデルも発売した。
・アップル、20GBモデルなど「iPod」3機種を発表〜Windowsにも対応〜 (2002年07月18日)
その後、毎年秋頃にiPodの新モデルが発表されることが恒例となったが、そのたびに容量を拡大し、同時に価格を引き下げる戦略を徹底。消費者に大きなインパクトを与え続けた。
もちろん、ジョブズ氏の美意識が細部にまで反映された操作性やデザインも、iPodの人気を後押しした。デザインは本体だけでなく、箱やマニュアルにまで徹底的にこだわり抜いた。近年では、そのデザインはアップルストアという、販売の現場にまで及んでいる。
購入する時から箱を持ち帰って開梱する瞬間、また機器を使い始め、使い続ける一連のサイクルを、ジョブズ氏の美意識が隅々まで行き届いた「エクスペリエンス」として提供する手法は多くのフォロワーを生み、今では多くのメーカーがこのスタイルを模倣している。
1.8インチのHDDを内蔵したiPodの販売は好調に推移したが、さらにハード面でiPod躍進を支えたのは、小型HDDを内蔵した「iPod mini」や、2005年に登場したフラッシュメモリー搭載の「iPod nano」の成功だった。
よほど多くのライブラリを持っていたり、ビットレートを上げない限りは、数十GBのHDDは必要ない。容量が小さい代わりに本体も小さい製品を手頃な価格で提供したことで、イノベーター/アーリーアダプター層から、よりマスな層へとiPodが浸透していった。
ジョブズ氏もiPod nanoについて発表会で「この小ささを実現するために、たくさんの人が、何ヶ月も努力した」と述べ、「初代のiPod以来最大の革命と言える新製品。iPod nanoは世界一人気のあるポータブルオーディオプレーヤーになるだろう」と出来映えに自信を見せた。蓋を開けてみたら、実際にその言葉の通りになった。
・アップル、“鉛筆より薄い”4GB/2GBのメモリーDAP「iPod nano」を発売 (2005年09月08日)
・「初代機以来の革命」−アップルCEOのジョブズ氏が「iPod nano」をアピール (2005年09月08日)
その後ジョブズ氏は2008年に一時病気療養に入った。復帰して、再び公の場に姿を現したのは2009年のiPod発表イベントだった。かなり痩せていたが力強いプレゼンテーションは変わらず、iPod nanoにビデオカメラ機能を加えたことをアピールした。
・復帰したジョブズ氏、熱弁は変わらず − 「8GBのビデオカメラをタダにする」 (2009年09月10日)
iPodはマルチタッチディスプレイを備え、iPhoneと同じOSで動作する「iPod touch」へと進化。2007年に発売されたtouchは、iPhoneの進化とともに毎年のように進化を繰り返し、いまではiPodシリーズのうち、最も販売台数が大きいモデルとなっている。
ジョブズ氏は初代iPod touchの発表会の際、iPodにネットワーク機能を追加するというアイデアは前からあったものの、その実現に当たって「これまで何度もチャレンジして失敗してきた」と打ち明けた。Wi-Fiやブラウザ「Safari」を用いることで、その積年の願いがかなったということになる。
・アップル、iPod全シリーズを刷新 − タッチパッドや無線LAN搭載の「iPod touch」登場 (2007年09月06日)
・「iPod touch」にタッチしてきました − “電話機能なしiPhone”の完成度は? (2007年09月06日)