元日本コロムビアの本間孝男氏が解説
なぜヨーロッパではBlu-ray Audioが好調なのか? 元洋楽ディレクターが分析する世界のハイレゾ事情
■欧州ユニバーサルがBlu-ray Audioを推進する理由
Blu-ray Audio事業を推進する欧州ユニバーサル幹部は、Blu-ray Audioをニッチなメディアと認めているが、少なくともアナログディスクを超える売上を期待している。ちなみに人気が復活しているというアナログディスクだが、世界のフィジカルメディアの生産高における割合は1.6%と、2%にも届いていない。
筆者は、同社がBlu-ray Audio推進の判断を下していると思われる理由を、ハード的側面とフィジカル(物理)的側面から、以下のように推測してみた。
<ハード的側面>
1)ブルーレイのBDMV(BDビデオ)規格は音声フォーマットのみでも利用可能。
2)BDプレーヤー(BDレコーダー及びPS3とPS4含む)の普及率はまもなく欧州でも4割を超える。
3)最新のHD音声に対応(リニアPCM最大192kHz/24bitやDTS-HD Master Audioなど)。
4)1層:25GB、2層:50GBと大容量で、数種類の音声で5〜7時間収録出来る。
5)現行の12cm円盤メディアの殆どがBDプレーヤー(BDレコーダー)で再生可能。高い互換性は、CDプレーヤーの生産終了が間近という危機感を和らげる。
<フィジカル(物理)メディアとしての側面>
1)収入単価が他のものに比べ大きいフィジカル(物理)の売上死守。目標は全体の売上の40〜50%あたり。SACDとDVD-Audioの命脈が断たれた今、CDにかわる(少なくとも共存できる)フィジカル(物理)メディアはBlu-ray Audioのみ。
2)欧州では中高年層(リタイヤ組)には5インチ(12cm)ディスクの供給がマスト。彼等はダウンロードには決して行かないと見ている。街角のキオスクでも購入可能で、盤を入れれば再生が始まるという簡便さは中高年ユーザーにとって必須の要件だ。
3)ハイレゾ・リマスターされた音源は、CDの規格に無理にダウンコンバートせず、配信やそれを収録できる盤で配布するという流れが顕著だ。新譜デジタルマスターの192kHz/24bitでもBDにストレートに収録できる。旧譜についても、名盤を中心にアナログから最新技術で再度デジタル化する作業が多数進行している。
音楽ストリーミングの急成長には、SpotifyやYouTubeなど楽曲がPCだけでなくスマホやタブレット、スマートテレビなどでも聴けるマルチプラットフォームでの利用が高まっていることも大きな要因だ。BDは家庭でも家族が集まる場所での視聴には有効。欧州で人気の高いHome Theater in Box(ホームシアターシステム)やAVシステムと融和性の高いBlu-ray Audioには、配信との棲み分けの必要はないかもしれない。
■Blu-ray Audioの行方
欧州ユニバーサルはBlu-ray Audio(HFPA)の生産数は“75万枚”と述べているが、消化率がどのくらいかは明らかにしていない。長続きさせるのだったら、立ち上がりの加速は重要。ユニバーサルにはビートルズという切り札があるが、伝家の宝刀は一回しか抜けない。それに、ビートルズはまだ前回のリマスターでアナログBoxを発売するなどマーケティング続行中であり、早急には無理なようだ。ちなみに、デジタルマスターは192kHz/24bitで作られたとも噂されている。
個人的には、様子見でジョージ・マーティンが2006年に制作した『Love』のDVD-AudioをBlu-ray Audioで再発して欲しい。できればステレオ互換の5.1ch/96kHz/24bit、CDでは(収集録時間の関係で)カットされた「レボリューション」と「バック・イン・ザ・U.S.S.R.」の2曲を付けて。当時のEMIは、爆発的にヒットしたこのDVD-Audio + CDセットの追加生産に応じなかった。DVD-Audioの命脈を絶ったのはEMIという陰口もあるくらいだ。
ハイレゾによる名盤リイシューは、40代後半からがユーザーのボリュームゾーンであろう。このユーザーへの切り札は前述のレッド・ツェッペリンとピンク・フロイドで、どちらもワーナーだ。果たしてどのタイミングで動くのか。まさかBlu-ray Audioを見殺しにはしないと思うが・・・。
■配信とBlu-ray Audioの棲み分けは可能か
最後に、配信とBlu-ray Audioの棲み分けは、比較的簡単だと考えている。配信とBDで同一タイトルが供給されたとしても、ホームシアターを構築しているAV系のユーザーにとってBDはより身近なメディアであり、パッケージソフトにしか興味ないオーディオファンも一定数いると思われる。年配のユーザーにとって、パソコンを一切介することなく、通常のCDプレーヤーと同等にハイレゾ再生ができる魅力も大きいだろう。Blu-ray Audioの動向は、ハイレゾ配信と共に、引き続き見守っていきたい。
本間孝男
Takao Homma
【Profile】1971年、日本コロムビアに入社。40年以上にわたり音楽業界に関わる。76年から洋楽ディレクターとしてのキャリアをスタート。翌年の77年にはセックス・ピストルズを担当し、歴史的名盤『勝手にしやがれ!』の邦題を名づける。また、80年代はコロムビアの洋楽ポピュラーの部門をひとりで担い、ニュー・オーダーやピクシーズなど数々の伝説的アーティストを担当した。定年退職を迎えて以降は、ライターとして活動している。
Blu-ray Audio事業を推進する欧州ユニバーサル幹部は、Blu-ray Audioをニッチなメディアと認めているが、少なくともアナログディスクを超える売上を期待している。ちなみに人気が復活しているというアナログディスクだが、世界のフィジカルメディアの生産高における割合は1.6%と、2%にも届いていない。
筆者は、同社がBlu-ray Audio推進の判断を下していると思われる理由を、ハード的側面とフィジカル(物理)的側面から、以下のように推測してみた。
<ハード的側面>
1)ブルーレイのBDMV(BDビデオ)規格は音声フォーマットのみでも利用可能。
2)BDプレーヤー(BDレコーダー及びPS3とPS4含む)の普及率はまもなく欧州でも4割を超える。
3)最新のHD音声に対応(リニアPCM最大192kHz/24bitやDTS-HD Master Audioなど)。
4)1層:25GB、2層:50GBと大容量で、数種類の音声で5〜7時間収録出来る。
5)現行の12cm円盤メディアの殆どがBDプレーヤー(BDレコーダー)で再生可能。高い互換性は、CDプレーヤーの生産終了が間近という危機感を和らげる。
<フィジカル(物理)メディアとしての側面>
1)収入単価が他のものに比べ大きいフィジカル(物理)の売上死守。目標は全体の売上の40〜50%あたり。SACDとDVD-Audioの命脈が断たれた今、CDにかわる(少なくとも共存できる)フィジカル(物理)メディアはBlu-ray Audioのみ。
2)欧州では中高年層(リタイヤ組)には5インチ(12cm)ディスクの供給がマスト。彼等はダウンロードには決して行かないと見ている。街角のキオスクでも購入可能で、盤を入れれば再生が始まるという簡便さは中高年ユーザーにとって必須の要件だ。
3)ハイレゾ・リマスターされた音源は、CDの規格に無理にダウンコンバートせず、配信やそれを収録できる盤で配布するという流れが顕著だ。新譜デジタルマスターの192kHz/24bitでもBDにストレートに収録できる。旧譜についても、名盤を中心にアナログから最新技術で再度デジタル化する作業が多数進行している。
音楽ストリーミングの急成長には、SpotifyやYouTubeなど楽曲がPCだけでなくスマホやタブレット、スマートテレビなどでも聴けるマルチプラットフォームでの利用が高まっていることも大きな要因だ。BDは家庭でも家族が集まる場所での視聴には有効。欧州で人気の高いHome Theater in Box(ホームシアターシステム)やAVシステムと融和性の高いBlu-ray Audioには、配信との棲み分けの必要はないかもしれない。
■Blu-ray Audioの行方
欧州ユニバーサルはBlu-ray Audio(HFPA)の生産数は“75万枚”と述べているが、消化率がどのくらいかは明らかにしていない。長続きさせるのだったら、立ち上がりの加速は重要。ユニバーサルにはビートルズという切り札があるが、伝家の宝刀は一回しか抜けない。それに、ビートルズはまだ前回のリマスターでアナログBoxを発売するなどマーケティング続行中であり、早急には無理なようだ。ちなみに、デジタルマスターは192kHz/24bitで作られたとも噂されている。
個人的には、様子見でジョージ・マーティンが2006年に制作した『Love』のDVD-AudioをBlu-ray Audioで再発して欲しい。できればステレオ互換の5.1ch/96kHz/24bit、CDでは(収集録時間の関係で)カットされた「レボリューション」と「バック・イン・ザ・U.S.S.R.」の2曲を付けて。当時のEMIは、爆発的にヒットしたこのDVD-Audio + CDセットの追加生産に応じなかった。DVD-Audioの命脈を絶ったのはEMIという陰口もあるくらいだ。
ハイレゾによる名盤リイシューは、40代後半からがユーザーのボリュームゾーンであろう。このユーザーへの切り札は前述のレッド・ツェッペリンとピンク・フロイドで、どちらもワーナーだ。果たしてどのタイミングで動くのか。まさかBlu-ray Audioを見殺しにはしないと思うが・・・。
■配信とBlu-ray Audioの棲み分けは可能か
最後に、配信とBlu-ray Audioの棲み分けは、比較的簡単だと考えている。配信とBDで同一タイトルが供給されたとしても、ホームシアターを構築しているAV系のユーザーにとってBDはより身近なメディアであり、パッケージソフトにしか興味ないオーディオファンも一定数いると思われる。年配のユーザーにとって、パソコンを一切介することなく、通常のCDプレーヤーと同等にハイレゾ再生ができる魅力も大きいだろう。Blu-ray Audioの動向は、ハイレゾ配信と共に、引き続き見守っていきたい。
本間孝男
Takao Homma
【Profile】1971年、日本コロムビアに入社。40年以上にわたり音楽業界に関わる。76年から洋楽ディレクターとしてのキャリアをスタート。翌年の77年にはセックス・ピストルズを担当し、歴史的名盤『勝手にしやがれ!』の邦題を名づける。また、80年代はコロムビアの洋楽ポピュラーの部門をひとりで担い、ニュー・オーダーやピクシーズなど数々の伝説的アーティストを担当した。定年退職を迎えて以降は、ライターとして活動している。