ビートルズハイレゾ化への伏線か?
命日を前に考える “ジョン・レノン全作品ハイレゾ化” の意味。元洋楽ディレクターが分析
【試聴2】
『ロックン・ロール(Rock'n'Roll)』(1975年)
FLAC 96kHz/24bit
1950-1960年代にヒットしたロックのスタンダード・ナンバーのカバーアルバム。ベン・E・キング作『スタンド・バイ・ミー(Stand By Me)』がヒットした。そもそも本作は、ビートルズの「Come Together」がチャック・ベリーの「You Can’t Catch Me」に酷似しているという盗作騒動が生じ、その和解条件としてジョンが「You Can’t Catch Me」を含む3曲をレコーディングし、印税がチャック・ベリーに入るようにする、という提案が発端となっている。
1973年10月にフィル・スペクターをプロデューサーに迎えてスタジオに入ったものの、奇行で知られるスペクターが録音途中のテープを持ち出して失踪するという事件が勃発。テープを取り戻したジョンは、約1年後の1974年10月に、わずか5日間のセッションでテープを仕上げた。作品の性格上モノラル構成に極めて近いためハイレゾのメリットは聴き取りにくいかも知れないが、DACなど再生環境のグレードを上げると、突然新たな音の世界が広がる。
【試聴3】
『ジョンの魂(John Lennon/Plastic Ono Band)』(1970年)
FLAC 96kHz/24bit
ビートルズ解散後初のソロ・アルバム。レコーディングは1970年9月26日から10月23日まで、アビー・ロード・スタジオで行われた。ジョンとヨーコの他に、リンゴ・スター(ドラムス)、クラウス・フォアマン(ベース)が参加。「ゴッド」でビリー・プレストンが、「ラヴ」でフィル・スペクターがピアノを演奏している。プロデュースは共同名義でフィル・スペクター。ビートル時代とあまりにも違うヴォーカルにショックを受けたが、ハイレゾ化で声が一段とクリアになり、リンゴのドラムの生々しい響きに驚く。
【試聴4】
『ダブル・ファンタジー/ストリップド・ダウン(Double Fantasy/Stripped Down)』(1980年)
FLAC 96kHz/24bit
ニューヨークのレコード・プラントで録音された。発売から間もない12月8日にジョンが凶弾に倒れ、彼の遺作に。2010年に共同プロデューサーを務めたジャック・ダグラスとオノ・ヨーコが制作した新リミックス『ダブル・ファンタジー - ストリップド・ダウン』がオリジナル音源とカップリングされている。オリジナル音源のリマスターの冒頭「スターティング・オーヴァー」がハイレゾ版のききどころだ。
■残るはビートルズ。ハイレゾに近い音源はすでに配信されている
ジョン・レノンの全作品がハイレゾで楽しめるとは、なんて素晴らしいことだろう。一方で、ビートルズは未だハイレゾ化が実現しておらず、期待が高まっている。例外は、2009年にリマスター盤CD Boxセットとともに発売され、骨董的な価値も出ている3万個限定のリンゴ型USBメモリー『The Beatles [USB]』(FLAC 44.1kHz/24bit)。さらに2006年、ジョージ・マーテインと息子のジャイルスがシルク・ドゥ・ソレイユのミュージカル”ラヴ”のため制作したリミックス・アルバム『ラブ(Love)』(DVD-Audio 96kHz/24bit)の2つだ。
しかし、ビートルズ楽曲の独占販売権を持つ米アップルはiTunesにおいて、AAC 256kbpsながら、実はこれまでのどの媒体よりもハイレゾに近い形で音源を配信している(このあたりの詳細は次回に紹介したい)。ジョン・レノンのハイレゾ化も、こうした流れと組み合わせると、ビートルズハイレゾ実現へのひとつの道筋が見えてくるように思える。
2014年はビートルズが日本とアメリカでレコード・デビューして50周年。今年はこれを記念して様々なリリースが続いた。一方、近年ビートルズを取り巻く環境が急激に変化している。次回はEMI解体など、ビートルズ音源が大きく影響を受けたレコード業界の状況、そして2009年のマスタリングが意味することなどについて言及したい。
本間孝男
Takao Homma
【Profile】1971年、日本コロムビアに入社。40年以上にわたり音楽業界に関わる。76年から洋楽ディレクターとしてのキャリアをスタート。翌年の77年にはセックス・ピストルズを担当し、歴史的名盤『勝手にしやがれ!』の邦題を名づける。また、80年代はコロムビアの洋楽ポピュラーの部門をひとりで担い、ニュー・オーダーやPiL、ピクシーズなど数々の伝説的アーティストを担当した。定年退職を迎えて以降は、ライターとして活動している。
『ロックン・ロール(Rock'n'Roll)』(1975年)
FLAC 96kHz/24bit
1950-1960年代にヒットしたロックのスタンダード・ナンバーのカバーアルバム。ベン・E・キング作『スタンド・バイ・ミー(Stand By Me)』がヒットした。そもそも本作は、ビートルズの「Come Together」がチャック・ベリーの「You Can’t Catch Me」に酷似しているという盗作騒動が生じ、その和解条件としてジョンが「You Can’t Catch Me」を含む3曲をレコーディングし、印税がチャック・ベリーに入るようにする、という提案が発端となっている。
1973年10月にフィル・スペクターをプロデューサーに迎えてスタジオに入ったものの、奇行で知られるスペクターが録音途中のテープを持ち出して失踪するという事件が勃発。テープを取り戻したジョンは、約1年後の1974年10月に、わずか5日間のセッションでテープを仕上げた。作品の性格上モノラル構成に極めて近いためハイレゾのメリットは聴き取りにくいかも知れないが、DACなど再生環境のグレードを上げると、突然新たな音の世界が広がる。
【試聴3】
『ジョンの魂(John Lennon/Plastic Ono Band)』(1970年)
FLAC 96kHz/24bit
ビートルズ解散後初のソロ・アルバム。レコーディングは1970年9月26日から10月23日まで、アビー・ロード・スタジオで行われた。ジョンとヨーコの他に、リンゴ・スター(ドラムス)、クラウス・フォアマン(ベース)が参加。「ゴッド」でビリー・プレストンが、「ラヴ」でフィル・スペクターがピアノを演奏している。プロデュースは共同名義でフィル・スペクター。ビートル時代とあまりにも違うヴォーカルにショックを受けたが、ハイレゾ化で声が一段とクリアになり、リンゴのドラムの生々しい響きに驚く。
【試聴4】
『ダブル・ファンタジー/ストリップド・ダウン(Double Fantasy/Stripped Down)』(1980年)
FLAC 96kHz/24bit
ニューヨークのレコード・プラントで録音された。発売から間もない12月8日にジョンが凶弾に倒れ、彼の遺作に。2010年に共同プロデューサーを務めたジャック・ダグラスとオノ・ヨーコが制作した新リミックス『ダブル・ファンタジー - ストリップド・ダウン』がオリジナル音源とカップリングされている。オリジナル音源のリマスターの冒頭「スターティング・オーヴァー」がハイレゾ版のききどころだ。
■残るはビートルズ。ハイレゾに近い音源はすでに配信されている
ジョン・レノンの全作品がハイレゾで楽しめるとは、なんて素晴らしいことだろう。一方で、ビートルズは未だハイレゾ化が実現しておらず、期待が高まっている。例外は、2009年にリマスター盤CD Boxセットとともに発売され、骨董的な価値も出ている3万個限定のリンゴ型USBメモリー『The Beatles [USB]』(FLAC 44.1kHz/24bit)。さらに2006年、ジョージ・マーテインと息子のジャイルスがシルク・ドゥ・ソレイユのミュージカル”ラヴ”のため制作したリミックス・アルバム『ラブ(Love)』(DVD-Audio 96kHz/24bit)の2つだ。
しかし、ビートルズ楽曲の独占販売権を持つ米アップルはiTunesにおいて、AAC 256kbpsながら、実はこれまでのどの媒体よりもハイレゾに近い形で音源を配信している(このあたりの詳細は次回に紹介したい)。ジョン・レノンのハイレゾ化も、こうした流れと組み合わせると、ビートルズハイレゾ実現へのひとつの道筋が見えてくるように思える。
2014年はビートルズが日本とアメリカでレコード・デビューして50周年。今年はこれを記念して様々なリリースが続いた。一方、近年ビートルズを取り巻く環境が急激に変化している。次回はEMI解体など、ビートルズ音源が大きく影響を受けたレコード業界の状況、そして2009年のマスタリングが意味することなどについて言及したい。
本間孝男
Takao Homma
【Profile】1971年、日本コロムビアに入社。40年以上にわたり音楽業界に関わる。76年から洋楽ディレクターとしてのキャリアをスタート。翌年の77年にはセックス・ピストルズを担当し、歴史的名盤『勝手にしやがれ!』の邦題を名づける。また、80年代はコロムビアの洋楽ポピュラーの部門をひとりで担い、ニュー・オーダーやPiL、ピクシーズなど数々の伝説的アーティストを担当した。定年退職を迎えて以降は、ライターとして活動している。