HIGH END 2016の注目モデルを一挙紹介
山之内正がミュンヘンで見たオーディオの新潮流<1>アナログプレーヤー&スピーカー編
ミュンヘンで5月に開催される「HIGH END」に私が毎年出かける理由は2つある。数多くの新製品にいち早く出会えること、そしてオーディオ全体のトレンドを読み解くヒントが得られることだ。欧州、アジア、北米の主要ブランドが集結する大規模なオーディオイベントはいまや他に例を見ないこともあり、オーディオの潮流を世界規模で俯瞰するには絶好の機会と言っていい。ここではアナログレコード関連とスピーカーに焦点を合わせて今年の潮流を読み解いていこう。
HIGH ENDで近年目立つのがアナログレコードの人気再燃だ。試聴音源にレコードを使うブースが明らかに増えており、他社から借用してまでターンテーブルを用意し、CDではなくレコードを再生するブースも目立つ。このイベントは以前からアナログの比率が高かったが、今年はそれが一気に加速し、音源はデータ再生かレコード、またはその両方というブースが多数派を占めていた。会場でのレコード販売も活況を呈し、来場者の注目の高さを物語っている。
ターンテーブルやカートリッジなどアナログ製品の展示も予想以上に多かったが、ドイツを中心とする欧州のブランドはもちろんのこと、今回は日本メーカーの健闘ぶりも目を引いた。ターンテーブルでは「SL-1200GAE」を欧州で初めて公開したテクニクス、「Air Force One Premium」を発表したテクダスなどが話題を提供し、カートリッジではオーディオテクニカの「AT-ART1000」、DSオーディオの「Master 1」が公開され、いずれも実際の再生音を確認することができた。ちなみにAT-ART1000は繊細かつダイレクト感豊かなサウンド、Master 1は前作よりもセパレーションが向上し、スケールアップした再生音をそれぞれ実現している。
欧州ではベルトドライブ方式が主流を占めるので、テクニクスの製品にどんな反応が集まるのか、非常に興味深いが、会場では予想以上の反響があったという。あるメーカーのドイツ人エンジニアは、最近のベルトドライブ式ターンテーブルには新しい技術的要素は少なく、本質的な進化はあまり期待できないなか、改良したダイレクトドライブ方式が再評価される可能性があると話していた。その点に関しては私もほぼ同じ意見だ。アコースティカル・システムズがモンスター級の製品「APOLYT」を展示するなど、話題には事欠かないが、本質的な進化を見出だせる製品は実はそれほど多くない。
一方、テクダスが数年前にAir Force Oneを出展し、エアーサスペンションなど基幹技術が大きな注目を集め、ドイツのメーカーにも大きな影響を与えたことは記憶に新しい。そのAir Force Oneは圧力センサーを積んだPremiumバージョンでさらなる進化を遂げて、相変わらず高い注目を集めていた。日本メーカーの果敢なアプローチはアナログ大国ドイツのメーカーにも強い刺激を与え続けている。
そのドイツのブランドでは、エラックが90周年記念モデルとして久々にターンテーブルの新製品「Miracord 90 Anniversary」を出展したことが大きな話題となった。デザイン、名称どちらも往年のファンには懐かしいが、従来技術を継承しつつ中身は一新しており、スピーカーのフラグシップConcentroとともに年内の発売を目指しているという。テクニクス以降、有力ブランドの動きから目が離せない状況がこの後も続きそうだ。
スピーカーではエラックのConcentro、ディナウディオの新しいContourシリーズ、TADのコンセプトモデル「White Carat」など、複数の製品の音を実際に確認することができた。
Cocentroは既存のエラック製スピーカーからJETトゥイーターやクリスタルコーンなどの基本技術を受け継いでいるものの、スケール感やダイナミックレンジの余裕は別格の水準にある。ここまでの重量級フロア型スピーカーの開発は同社初だと思うが、楕円をモチーフにした個性的な形状は強いインパクトがあり、細部の仕上げも精密で上質感がそなわる。側面にウーファーを配置しているので設置条件を選ぶとは思うが、同社ブースの極端には広くないリスニングルームで聴いても低音が回り込む印象はなく、むしろ稠密で凝縮した音像を再現していた。秋のイベントに間に合うようなら、聴くべきスピーカーの筆頭候補に挙げておきたい。
新しいContourシリーズは、ディナウディオとしては珍しいほどの大胆なリファインを受け、外見だけでなく、再生音も大きく生まれ変わっていた。一番の大きな変化は低音のレスポンスで、従来モデルよりも明らかに動きがスムーズになって、音色の透明度が上がっている。現行モデルもどちらかというと色付けの少ないスピーカーだが、新しいContourに比べると低音が重く、やや暗めに感じられるはずだ。
TADのWhite Caratは年初のCESで公開されたコンセプトモデルだが、今回筆者が聴いたモデルはそのまま発売できるほど完成度が高く、市場への導入が近い印象を受けた。TADのスピーカーとしては最小のサイズだが、低音のエネルギーと質感の高さは耳を疑うほどで、楽器の実在感も飛び抜けている。モニター調の正確な音というよりもエモーショナルな表現が得意で、ヴォーカルはもちろん、ソロ楽器もとてもよく歌う。発売が決まればの話だが、このスピーカーも「いま聴くべきスピーカー」の候補から外すことはできない。
HIGH ENDの会場を歩いていると、複数のブースでリファレンスとして鳴らしているスピーカーに出会うことがある。今年の会場で目にする機会が多かったブランドの一つがウィルソンオーディオで、SashaやAlexiaが精度の高いサウンドを聴かせていた。そのウィルソンオーディオ自体は試聴できるブースを出展していないのだが、HIGH ENDの会期に合わせ、ハイエンドオーディオの専門ショップで試聴会を行ったので出かけてきた。
会場はミュンヘン南部のシュタルンベルク湖畔に大型店舗を構える「My Sound」。凝った意匠で統一された複数のリスニングルームのすべてにウィルソンオーディオのスピーカーを設置し、自由に聴くことができる環境を整えていた。
今回の目玉は新作のALEXX。ALEXANDRIA XLFとALEXIAの間に位置する準フラグシップ機である。口径の異なる2つのミッドレンジでトゥイーターを上下に挟み込む中高域ドライバーは各モジュールの角度を精密に調整でき、試聴環境に応じて時間軸を正確に揃えることができる。10.5インチと12.5インチの2基を搭載するウーファーも含めてドライバーユニットはすべて新規に開発されたものだ。
ALEXXの再生音は微細なディテールまで音像のフォーカスが合う精度の高さと、瞬発力の大きいダイナミックな表現が高い次元で両立し、聴き手の耳を釘付けにするような力がそなわる。微塵のブレもないグランカッサの強烈な一撃、極限まで張り詰めたテノールの高音など、実演以外ではこれまで聴いたことがないようなリアルなサウンドが聴き手を圧倒する。日本での発売は未定だが、チャンスがあればぜひ聴くべき音であることは間違いない。
HIGH ENDで近年目立つのがアナログレコードの人気再燃だ。試聴音源にレコードを使うブースが明らかに増えており、他社から借用してまでターンテーブルを用意し、CDではなくレコードを再生するブースも目立つ。このイベントは以前からアナログの比率が高かったが、今年はそれが一気に加速し、音源はデータ再生かレコード、またはその両方というブースが多数派を占めていた。会場でのレコード販売も活況を呈し、来場者の注目の高さを物語っている。
ターンテーブルやカートリッジなどアナログ製品の展示も予想以上に多かったが、ドイツを中心とする欧州のブランドはもちろんのこと、今回は日本メーカーの健闘ぶりも目を引いた。ターンテーブルでは「SL-1200GAE」を欧州で初めて公開したテクニクス、「Air Force One Premium」を発表したテクダスなどが話題を提供し、カートリッジではオーディオテクニカの「AT-ART1000」、DSオーディオの「Master 1」が公開され、いずれも実際の再生音を確認することができた。ちなみにAT-ART1000は繊細かつダイレクト感豊かなサウンド、Master 1は前作よりもセパレーションが向上し、スケールアップした再生音をそれぞれ実現している。
欧州ではベルトドライブ方式が主流を占めるので、テクニクスの製品にどんな反応が集まるのか、非常に興味深いが、会場では予想以上の反響があったという。あるメーカーのドイツ人エンジニアは、最近のベルトドライブ式ターンテーブルには新しい技術的要素は少なく、本質的な進化はあまり期待できないなか、改良したダイレクトドライブ方式が再評価される可能性があると話していた。その点に関しては私もほぼ同じ意見だ。アコースティカル・システムズがモンスター級の製品「APOLYT」を展示するなど、話題には事欠かないが、本質的な進化を見出だせる製品は実はそれほど多くない。
一方、テクダスが数年前にAir Force Oneを出展し、エアーサスペンションなど基幹技術が大きな注目を集め、ドイツのメーカーにも大きな影響を与えたことは記憶に新しい。そのAir Force Oneは圧力センサーを積んだPremiumバージョンでさらなる進化を遂げて、相変わらず高い注目を集めていた。日本メーカーの果敢なアプローチはアナログ大国ドイツのメーカーにも強い刺激を与え続けている。
そのドイツのブランドでは、エラックが90周年記念モデルとして久々にターンテーブルの新製品「Miracord 90 Anniversary」を出展したことが大きな話題となった。デザイン、名称どちらも往年のファンには懐かしいが、従来技術を継承しつつ中身は一新しており、スピーカーのフラグシップConcentroとともに年内の発売を目指しているという。テクニクス以降、有力ブランドの動きから目が離せない状況がこの後も続きそうだ。
スピーカーではエラックのConcentro、ディナウディオの新しいContourシリーズ、TADのコンセプトモデル「White Carat」など、複数の製品の音を実際に確認することができた。
Cocentroは既存のエラック製スピーカーからJETトゥイーターやクリスタルコーンなどの基本技術を受け継いでいるものの、スケール感やダイナミックレンジの余裕は別格の水準にある。ここまでの重量級フロア型スピーカーの開発は同社初だと思うが、楕円をモチーフにした個性的な形状は強いインパクトがあり、細部の仕上げも精密で上質感がそなわる。側面にウーファーを配置しているので設置条件を選ぶとは思うが、同社ブースの極端には広くないリスニングルームで聴いても低音が回り込む印象はなく、むしろ稠密で凝縮した音像を再現していた。秋のイベントに間に合うようなら、聴くべきスピーカーの筆頭候補に挙げておきたい。
新しいContourシリーズは、ディナウディオとしては珍しいほどの大胆なリファインを受け、外見だけでなく、再生音も大きく生まれ変わっていた。一番の大きな変化は低音のレスポンスで、従来モデルよりも明らかに動きがスムーズになって、音色の透明度が上がっている。現行モデルもどちらかというと色付けの少ないスピーカーだが、新しいContourに比べると低音が重く、やや暗めに感じられるはずだ。
TADのWhite Caratは年初のCESで公開されたコンセプトモデルだが、今回筆者が聴いたモデルはそのまま発売できるほど完成度が高く、市場への導入が近い印象を受けた。TADのスピーカーとしては最小のサイズだが、低音のエネルギーと質感の高さは耳を疑うほどで、楽器の実在感も飛び抜けている。モニター調の正確な音というよりもエモーショナルな表現が得意で、ヴォーカルはもちろん、ソロ楽器もとてもよく歌う。発売が決まればの話だが、このスピーカーも「いま聴くべきスピーカー」の候補から外すことはできない。
HIGH ENDの会場を歩いていると、複数のブースでリファレンスとして鳴らしているスピーカーに出会うことがある。今年の会場で目にする機会が多かったブランドの一つがウィルソンオーディオで、SashaやAlexiaが精度の高いサウンドを聴かせていた。そのウィルソンオーディオ自体は試聴できるブースを出展していないのだが、HIGH ENDの会期に合わせ、ハイエンドオーディオの専門ショップで試聴会を行ったので出かけてきた。
会場はミュンヘン南部のシュタルンベルク湖畔に大型店舗を構える「My Sound」。凝った意匠で統一された複数のリスニングルームのすべてにウィルソンオーディオのスピーカーを設置し、自由に聴くことができる環境を整えていた。
今回の目玉は新作のALEXX。ALEXANDRIA XLFとALEXIAの間に位置する準フラグシップ機である。口径の異なる2つのミッドレンジでトゥイーターを上下に挟み込む中高域ドライバーは各モジュールの角度を精密に調整でき、試聴環境に応じて時間軸を正確に揃えることができる。10.5インチと12.5インチの2基を搭載するウーファーも含めてドライバーユニットはすべて新規に開発されたものだ。
ALEXXの再生音は微細なディテールまで音像のフォーカスが合う精度の高さと、瞬発力の大きいダイナミックな表現が高い次元で両立し、聴き手の耳を釘付けにするような力がそなわる。微塵のブレもないグランカッサの強烈な一撃、極限まで張り詰めたテノールの高音など、実演以外ではこれまで聴いたことがないようなリアルなサウンドが聴き手を圧倒する。日本での発売は未定だが、チャンスがあればぜひ聴くべき音であることは間違いない。