ハイエンドオーディオにおけるオリジナルDACとは?
今こそ知っておきたい「DAC」の基礎知識(後編) ー オーディオメーカーによる“独自DAC”などを解説
【Q8】汎用DACチップとオーディオメーカーが手がけるオリジナルDAC、それぞれのメリット/デメリットを教えてください。
半導体メーカーが開発した汎用のDACチップを利用するメリットはいくつかあります。半導体メーカーが手がけるDACチップやその関連製品は、Hi-Fiオーディオ製品に限らない、膨大なサウンド関連製品に採用されます。例えば自動車やスマートフォンといった市場規模の巨大な分野もそこに含まれます。DACの開発には大きな投資が行われ、最先端の技術が投入されます。結果として、性能の高いデバイスを実現することができると言えます。
また、セットメーカーは高性能な汎用DACを用いることで製品の開発コストを抑え、比較的短期間で設計ができる点を見逃すことができません。オーバーサンプリングやデジタルフィルターなどの複雑な回路を設計するには十分な知識とノウハウが必要なことに加え、デジタルオーディオ技術はアナログ以上に進化のスピードが速いため、常に最新の成果を採り入れながらDAC回路を設計しなければなりません。それらが困難なことはもちろん、その過程に長い時間をかけてしまうと、プレーヤーやアンプなどコンポーネント本体の開発にかける時間が制約されてしまう可能性があります。
一方、セットメーカーが独自にDACを手がける最大のメリットは、設計の自由度が高まることにあります。セットメーカーが自社の技術でDACを設計することができれば、ディスクリート構成(ICなどの集積回路を使わず個別の素子で回路を構成すること)またはそれに準じる内容で回路を組むことができ、既存DACチップの機能や性能に縛られることがありません。
独自特性のデジタルフィルターを設計したり、電源やクロックを最適化するなど、周辺回路まで含めて音質を追い込める点にも長所があります。十分な開発期間が必要で、背景となる設計ノウハウも求められますが、一度その基盤となる回路を完成させることができれば、それをベースに改良を重ねることでDACの性能を追い込むことができます。独自設計のDACを採用するメーカーの多くが、そうした手法で音質改善に取り組んでいます。
ディスクリート構成のDACにはもう一つの大きなメリットがあります。複数の機能を1チップに収めたDACの場合、内部の構成部品はミクロン単位の微小なパーツを半導体プロセスで組み合わせています。一方、DACを個別部品で基板上に構成する場合は、抵抗やコンデンサーなど各パーツを自由に選べるため、サイズに余裕があり、音の良い部品を組み合わせることができます。チップ内に構成した場合と回路上は同等の内容であっても、ディスクリート構成の場合は部品サイズやレイアウトに桁違いの余裕があるため、音質が大きく向上することが多いようです。
【Q9】ハイエンドメーカーが独自にDACを開発するケースが多く見られるようです。理由はあるのでしょうか。
DACを独自に開発するメーカーが増えているのにはいくつかの理由があります。第一に半導体メーカーが開発した既存DACチップの選択肢が以前に比べて少なくなってしまったことが挙げられます。特にハイビット、ハイサンプリング対応のマルチビット型DACは生産コストの関係で新規の開発が事実上止まってしまい、長期間にわたって採用し続けてきたハイエンド機器などへの搭載が難しくなりました。
1ビット型のDACチップはいまも新製品の開発が行われていますが、開発を継続しているメーカーが比較的少ないうえ、新規参入も非常に限られているのが現状です。そのため、特定のメーカー、特定のDACチップに需要が集中し、DACデバイスの吟味だけで他社との差別化を図るのはかなり難しい状況になりました。
オリジナルDACに挑戦するメーカーが増えている2番めの理由がそこにあります。つまり、他社とは異なる独自技術を盛り込んだDACを積極的に導入することで、コンポーネントとしてのDACやディスクプレーヤーの性能をさらに向上させ、製品の価値を高めることを狙っているのです。製品の再生音を自社の狙い通りに追い込む際に、DACは音質を左右する要素が特に強いので、そこを独自開発するメリットはとても大きいと言えるでしょう。DACのすべてを独自に開発しなくても、回路の一部にディスクリート構成を採用するなど、一部に独自の技術を投入するだけでも、汎用DACを使っているメーカーとの差別化が可能になります。
D/A変換技術の進化が独自開発を促しているという側面もあります。プリエコーやポストエコーに由来する音質劣化を軽減するためにデジタルフィルターを改良したり、DSD信号とPCM信号それぞれに独立した処理を行ってマスターに近い音質を実現するなど、メーカーごとにさまざまな工夫を凝らしてDACを設計する動きが広がっているのです。その背景として、ハイレゾ音源の浸透やDSDの再評価といった最新のトレンドが大きな影響を与えていることはいうまでもありません。
半導体メーカーが開発した汎用のDACチップを利用するメリットはいくつかあります。半導体メーカーが手がけるDACチップやその関連製品は、Hi-Fiオーディオ製品に限らない、膨大なサウンド関連製品に採用されます。例えば自動車やスマートフォンといった市場規模の巨大な分野もそこに含まれます。DACの開発には大きな投資が行われ、最先端の技術が投入されます。結果として、性能の高いデバイスを実現することができると言えます。
また、セットメーカーは高性能な汎用DACを用いることで製品の開発コストを抑え、比較的短期間で設計ができる点を見逃すことができません。オーバーサンプリングやデジタルフィルターなどの複雑な回路を設計するには十分な知識とノウハウが必要なことに加え、デジタルオーディオ技術はアナログ以上に進化のスピードが速いため、常に最新の成果を採り入れながらDAC回路を設計しなければなりません。それらが困難なことはもちろん、その過程に長い時間をかけてしまうと、プレーヤーやアンプなどコンポーネント本体の開発にかける時間が制約されてしまう可能性があります。
一方、セットメーカーが独自にDACを手がける最大のメリットは、設計の自由度が高まることにあります。セットメーカーが自社の技術でDACを設計することができれば、ディスクリート構成(ICなどの集積回路を使わず個別の素子で回路を構成すること)またはそれに準じる内容で回路を組むことができ、既存DACチップの機能や性能に縛られることがありません。
独自特性のデジタルフィルターを設計したり、電源やクロックを最適化するなど、周辺回路まで含めて音質を追い込める点にも長所があります。十分な開発期間が必要で、背景となる設計ノウハウも求められますが、一度その基盤となる回路を完成させることができれば、それをベースに改良を重ねることでDACの性能を追い込むことができます。独自設計のDACを採用するメーカーの多くが、そうした手法で音質改善に取り組んでいます。
ディスクリート構成のDACにはもう一つの大きなメリットがあります。複数の機能を1チップに収めたDACの場合、内部の構成部品はミクロン単位の微小なパーツを半導体プロセスで組み合わせています。一方、DACを個別部品で基板上に構成する場合は、抵抗やコンデンサーなど各パーツを自由に選べるため、サイズに余裕があり、音の良い部品を組み合わせることができます。チップ内に構成した場合と回路上は同等の内容であっても、ディスクリート構成の場合は部品サイズやレイアウトに桁違いの余裕があるため、音質が大きく向上することが多いようです。
【Q9】ハイエンドメーカーが独自にDACを開発するケースが多く見られるようです。理由はあるのでしょうか。
DACを独自に開発するメーカーが増えているのにはいくつかの理由があります。第一に半導体メーカーが開発した既存DACチップの選択肢が以前に比べて少なくなってしまったことが挙げられます。特にハイビット、ハイサンプリング対応のマルチビット型DACは生産コストの関係で新規の開発が事実上止まってしまい、長期間にわたって採用し続けてきたハイエンド機器などへの搭載が難しくなりました。
1ビット型のDACチップはいまも新製品の開発が行われていますが、開発を継続しているメーカーが比較的少ないうえ、新規参入も非常に限られているのが現状です。そのため、特定のメーカー、特定のDACチップに需要が集中し、DACデバイスの吟味だけで他社との差別化を図るのはかなり難しい状況になりました。
オリジナルDACに挑戦するメーカーが増えている2番めの理由がそこにあります。つまり、他社とは異なる独自技術を盛り込んだDACを積極的に導入することで、コンポーネントとしてのDACやディスクプレーヤーの性能をさらに向上させ、製品の価値を高めることを狙っているのです。製品の再生音を自社の狙い通りに追い込む際に、DACは音質を左右する要素が特に強いので、そこを独自開発するメリットはとても大きいと言えるでしょう。DACのすべてを独自に開発しなくても、回路の一部にディスクリート構成を採用するなど、一部に独自の技術を投入するだけでも、汎用DACを使っているメーカーとの差別化が可能になります。
D/A変換技術の進化が独自開発を促しているという側面もあります。プリエコーやポストエコーに由来する音質劣化を軽減するためにデジタルフィルターを改良したり、DSD信号とPCM信号それぞれに独立した処理を行ってマスターに近い音質を実現するなど、メーカーごとにさまざまな工夫を凝らしてDACを設計する動きが広がっているのです。その背景として、ハイレゾ音源の浸透やDSDの再評価といった最新のトレンドが大きな影響を与えていることはいうまでもありません。