今年は首都圏にも相次ぎ上陸
これが映画館の新基準? まさに圧倒的体験、米ドルビー本社で “ドルビーシネマ” を観てきた
まず、巨大な画面に映し出された映像の、眩しいほどの明るさに、文字通り目を見開いた。これまでの映画館の映像とは明らかに次元が異なる。ふつうの映画館の少し暗い映像も、それはそれで味があると思うが、レーザー光源の圧倒的なパワーを体験してしまうと、その映像の虜になってしまう。
もちろん、映像の黒い部分はしっかりと黒が沈み込み、100万対1というスペックは伊達ではないと実感する。ただ単に明るい映像を表現出来るだけでなく、深く濃密な黒も映し出すことができるのだ。さらに黒煙の表現などを見ても、細かな黒の描き分けをこなしており、暗部階調の表現にも長けていることがわかる。
HDR映像をプロジェクターで再現することは難しいと一般的に言われており、原理的にそうであることは事実だが、ドルビーシネマであればHDR映像も的確に再現できると感じた。
またレーザー光源を使っているから、色再現性も非常に高い。「ブラック・パンサー」は、カラフルな背景の中で黒いキャラクターが自由自在に動く映画だが、たとえばオーロラをバックにした幻想的なシーンを見ると、背景の色合いが、これまであまり見たことないほど鮮やかだ。これまで、映画館で見たことがないほどこってりとした色彩が、25×25mの巨大スクリーンいっぱいに映し出される様は圧巻だ。
■映像と同じ、あるいはそれ以上に衝撃的なのがアトモスサウンド
そして、映像に負けず劣らず圧巻だったのは、音だ。ドルビーアトモスでは最大64chまで個別駆動できるが、ドルビー本社のシアターは54個のスピーカー/ウーファーを使っていた。それぞれのスピーカーにアンプが組み合わされている。
54のスピーカー/ウーファーの内訳は以下の通りだ。
<スピーカー>
・スクリーン…5
・壁…31
・天井…14
<ウーファー>
・スクリーンの下…10
・劇場の後方…6
これだけの大量のスピーカーを使ってドルビーアトモスのデモ音声を再生すると、まさに音が縦横無尽に劇場内を飛び回る。「音が右後ろから左前に移動した」ということがわかるのはもちろんだが、天井のどのあたりをどういう軌跡で移動したかまで体感できる、そういったイメージだ。
とにかく凄まじいほどの定位感なので、これは座る席によって音の聞こえ方が変わってくるのではないかと尋ねてみたところ、Kukhtel氏は「席によって聞こえ方が変わらないよう設計しているので問題はありません」と回答してくれた。
■様々な条件、広さに適合できるドルビーシネマ。今後の増加に期待
さて、ここまで読んでいただいたくと、「ぜひ日本にドルビーシネマがもっと増えて欲しい」と思うのではないか。一方で、「かなり導入にはスペースや設備のコストがかかりそう」とお感じの方もいるだろう。
だが、安心して欲しい。実はドルビーシネマは、良い意味でかなり“ゆるい” 規格なのだ。たとえば、広さはこれ以上でなければならない、画面サイズはこれ以上、席数はこう、などという縛りがない。逆に言うと、特定の広さやスクリーンサイズ、席数にとらわれず、条件にあわせて最高の体験を提供するというのがドルビーシネマの考え方なのだ。
私は、この考え方にとても好感を持った。同時に、現実的だとも思った。巨大な画面サイズが必要とはじめから定められていたら、それに合わせて、ある程度の広さが必要になる。当然ながらコストも上がる。その結果、導入するところは当然ながら少なくなる。そして、コストが上がった分はチケット代にかなり上乗せされるかもしれない。
それよりは現有のスペースを使ってドルビーシネマを実現する方が現実的だ。特に、すでに多数のスクリーンがある日本などにおいては、新規に作る際はもちろん、改装の際にどれだけ採用しやすいかもポイントになる。
こういったこともあって、世界でのドルビーシネマの採用は順調に進んでいる。北米からヨーロッパ、中国まで世界で390スクリーン以上に導入、または導入予定となっている。
またコンテンツについても、「Dolby Vision&Dolby Atmos」両対応のものがドルビーシネマの能力を最も引き出せるが、これもすでに190タイトル以上が存在するという。
今年は、ゴールデンウィーク頃にはMOVIXさいたまへ、その後秋には丸の内ピカデリーに、それぞれドルビーシネマが導入される。いよいよ首都圏でもドルビーシネマを体験できるようになるのだ。
大規模なシネコンはもちろん、比較的小規模な映画館でも、ドルビーシネマは採用できる。ドルビーシネマが今後、日本中を席巻する可能性は十分ありそうだ。