アップルTIPS
“マスター品質”にこだわるアップル音楽配信。新たに掲げた「Apple Digital Masters」とは何か?
今年スタートから4年を迎えた定額制音楽配信サービスのApple Musicも、通常の配信フォーマットをiTunes Plusと同じ256kbps/AAC形式としている。
スマートフォンでストリーミング再生する場合はデータ通信量を消費するため、これを節約することもユーザーにとっては大きな関心事。そのためアップルでは、ビットレートを可変させながら一定の音質を保って聴く設定か、または最高音質に固定して聴ける「高品質ストリーミング」設定を選べるようにしている。ミュージックアプリの設定メニューから切り替えられる。
ほかの音楽配信サービスの中には、256kbpsより高いビットレートを選択できるものもあるが、アップルはこれまでの音楽コンテンツ制作の経験から、マスター音源のクオリティを保ちながら、同時にストリーミング再生を快適に楽しむためには、現状では最高256kbpsが最適なスペックと判断しているのだろう。
Apple Musicで配信されている楽曲の中には、実はApple Digital Mastersと同じマスター音源からエンコードしたものが多くあるようだ。つまり、アーティストやスタジオがクオリティにお墨付きを与えた楽曲を、ストリーミング配信で楽しめる環境が、すでに整っているということになる。
■iOSデバイスとの足並みを揃える
ではこのまま行けば、将来的にApple Musicで、非圧縮やロスレスなど、真のハイレゾ品質での音楽配信が行われることはあるのだろうか? 筆者はその可能性はあると考えている。だがその前に、いくつかの課題もある。
まず、iTunes Storeでダウンロード販売されている楽曲については、ハイレゾ品質で製作者からマスター音源が納品されているのだから、技術的にはすぐにでもロスレスなどで提供できそうだ。実際、ハイレゾ音源をダウンロード販売しているサービスは、国内外に数多く存在している。
だが、すぐにこれが実現することはないだろう。音源の権利者と契約を結び直す必要もあるし、何よりiOSデバイスがハイレゾ再生に対応しない限り、音源だけが先行してハイレゾで提供されることはないはずだ。
だが、iOSデバイスをハイレゾ再生に対応させるのは、技術的には難しいことではない。「待った」をかけている要素があるとすれば、ダウンロード音源がハイレゾ対応でも、Apple Musicのストリーミング配信はハイレゾ非対応という状況はユーザーを混乱させる、というアップルの配慮ではないか。
今ではダウンロードとストリーミングのどちらも、再生アプリが「ミュージック」に一本化されているので、音源によって品質に大きな差が生まれるという混乱は、ユーザーからしても歓迎できるものではない。
■カギを握るのはやはり「5G対応のiPhone」
一度に大容量のデータ転送が必要になる音楽のハイレゾ配信は、ユーザー個人が消費するデータ通信量だけでなく、通信インフラ全体に負担をかける。となれば期待したいのは、高速・大容量・多数同時接続を実現する「5G」技術である。
2020年には、日本でも5Gの商用サービスがスタートすると言われている。その後、5G対応の端末やサービスは少しずつ普及していくはずだ。
では、アップルの5G対応はいつ頃になるのか。スマホやタブレットなど、通信機器に不可欠なモデムチップの開発については、先月アップルがインテルのスマホ用モデム事業を買収することで合意に至った。また、クアルコムに多額の支払いを行って和解したことも、早期の5G対応にプラスに働くだろう。
何より「5G対応のiPhone」をいつ頃手にすることができるのか、多くのiPhoneユーザーが期待しているはず。5G対応のiPhoneが発売されるとなれば、そのキラーコンテンツの一つとして、Apple Musicでのハイレゾ配信が現実味を帯びてくる。
今回アップルが行った、Mastered for iTunesのApple Digital Mastersへのリブランディングは、スタジオで制作されたコンテンツの魅力を、ありのままユーザーへ届けたいという思いの「再表明」であるはずだ。
そして今後、その仕組みをさらに充実させようとする、アップルの静かながらも強い意気込みも伝わってくる。Apple Digital Mastersは、アップルが将来ハイレゾ音楽配信を実現するために打った、見逃せない重要な布石ではないかと筆者は捉えている。
(山本 敦)