真空管の種類や働きを整理
知識ゼロからの真空管アンプ選び。これだけ覚えればOK!
■真空管アンプ、それぞれ音もぜんぜん違う!
トライオード社製の製品で見れば、RubyとTRV-A300XRではトランスの大きさも重さもかなり違います。それぞれ試聴すると、トランスの大きさの違いは、音にそっくりそのまま反映されているのを実感しました。Rubyはコンパクトで持ち運びもしやすく、軽やかなスタイルで楽しめます。音質も聴き疲れしない軽快さ。
一方、TRV-A300XRは重さも音質もズッシリです。音が濃厚になる印象。とはいえ重量は17kgなので、女性でも一人でセッティング可能。実はわたくし、この取材ですっかり気に入ってしまい、自宅に購入しましたが、16Lのスピーカーを元気に優雅に鳴らしてくれています。
真空管は、1つ1つが手作りです。そのため大量生産はできません。現在では、人件費が比較的安価な旧共産圏のロシアや中国に生産工場があります。トライオード社の山崎社長から、女工さんが1つ1つ丁寧に制作している写真を見せてもらいました。一生懸命、丁寧に作っています!
■真空管アンプの選び方
さて、ここまで全体の仕組みや代表的な真空管の種類・働きを見てきましたので、何もわからずに購入に踏み切る、といったリスクは避けられると思います。なお、カタログにはよく「A級」や「AB級」といった言葉も出てきます。「A級」は発熱が大きく、自動車で言うところの燃費があまりよろしくないのですが、音質は非常にハイクオリティ。「AB級」は発熱を低めに抑えながら音質も良好となっています。
入門機としての具体的なチェックポイントとしては以下でしょうか。
・入力系統(いくつのプレイヤーをつなげるか)
・重さやサイズ
・価格
・外観(意外と大事!)
また、真空管と半導体を組み合わせたハイブリッド形式の真空管アンプもあります。例えば、前段を半導体、後段を真空管とすることで、小型でもハイパワーなアンプを作ることもできるのです。
最終的には、ご自身のライフスタイル、かけられるコスト、置けるスペースなどから現実的に選ぶしかありませんが、可能な限りお店などで実機を見たり試聴することをオススメします。最後は何といっても、音質が自分の好みに合うかどうか、かもしれません。
■真空管アンプの魅力と使用上のTips
カタログ数値的にはトランジスタアンプより“劣る”はずなのに、なぜ「真空管アンプの音は良い」と言われ、人気が途絶えないのでしょうか。なぜ、どこか生々しく、温かみがあり、流麗で気品を感じさせる響きとなるのでしょう。
山崎社長によると、「そこはわからないんです」とのこと。アッサリしたご回答にやや戸惑いましたが、こればかりは人間の感覚の不思議かもしれません。
そもそも音というのは、空気振動を通じて私たちの耳に届きます。鼓膜を通じて「聴こえ」として認知されますが、実はそれ以外にも微細な波動を肌でも知覚しているのでしょう。自分で「聴こえている」と思っている音以外の、いわゆる高次倍音や周波数なども体全体で受け止めているわけですが、「スペックで表されない何か」は、どうやらそういった部分に働きかけているのかもしれません。
さて、実際に真空管アンプをお迎えしたら、存分に楽しみたいですね。新品は、1日3時間ほどの使用で10日間くらいで「慣らし」がおわり、馴染んでくるそうです。また真空管は発熱が大事ですから、毎回聴き始めるときは、スイッチを入れてから20分ほど温めるのが理想的です。
筆者が使用した実感では、暖機運転が終わって聴き始め、だいたい30分ほど経つと艶やかでヴィヴィッドなサウンドになっているのを感じます。あまり電源ON/OFFを繰り返すのはよくないと言われますが、山崎社長によれば、「普通に切ってください」とのこと。無駄に付けっぱなしにせず、あまり神経質にならないでよいそうです。
真空管自体は消耗品と言われます。寿命があるなら、もったいなくてあまり使えないかも…という心配はいりません。だいたい人間の一生よりは長く持ってくれるそうです。ただし、何らかの理由で真空状態が保てなかったり、不純物が混入すると、音が薄くなったり歪みが発生するそうです。その場合には交換が必要です。
寿命が来て交換、というのとは別に、真空管そのものの音の個性を味わうための、いわゆる「球転がし」をして遊べるのも真空管アンプの楽しみの1つです。真空管メーカーには、ムラード、テレフンケン、シーメンス、RCA、GEなどといった会社があり、それぞれの音の特性があります。1台のアンプで複数のサウンド体験ができるのもおもしろいところですね。
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