貴重なヴィンテージ管も紹介
真空管アンプ基礎講座:「300B」「845」など代表的な出力管を知ろう
■多極管:より高能率なビーム管、五極管
さて、シンプルな構造の三極管に次いで後から登場してきたのが四極管や五極管といった多極管である。現代のアンプで活躍している代表的なものにはビーム管「KT88」と五極管「EL34」がある。
ビーム管は、四極管にビーム形成電極を加えて、電子の流れをビーム状に集め効率をあげた球。イギリス生まれのKT88はその代表的なもので、見た目は太くて音質も元気。マッキントッシュなどアメリカのゴージャスなアンプで使用し、それをJBLのスピーカーと組み合わせるのはまさに王道。出力を強めたKT90、KT120、KT150などがあり、現在はロシア等で製造されている。出力がKT88の半分程度の「6L6-GC」も有名。
KT88のご先祖にあたるのは、なんと黒い金属製真空容器に収まった元祖6L6。岡田さんに見せてもらったが、ひんやり冷たくずっしり重い。劇場での連続使用に開発されたのが1622。これらは1930年代半ばに誕生している。この系統は当初からパワフルで高能率、大出力なのだ。
五極管は、三極管よりも2枚多くのグリッドを持ち、安定した電流特性を得られる球である。その最終型と言えるのがEL34だ。こちらも劇場用やモニター用に改良が重ねられ、その後オーディオメーカーが製造を続けてきた。やはりこちらもパワフルで高性能。ご先祖にあたるのは、オランダのPhilipsやドイツで1940年代末に開発されたEL60である。9本のピンを持った脚が特徴的。
多極真空管には他にもラジオ等でも使用される「6BQ5」や、テレビ用あるいは自作派の入門用として安価に売られた「6BM8」などが誕生するが、真空管の開発は1960年初頭には一旦終わりを迎えた。60年代には33回転のLPレコード、ステレオ録音が登場し、時代はトランジスタへと移行して、さらにハイファイを目指すようになっていったのだ。
■球とアンプ選びのポイント
さて、代表的な球と歴史が分かったところで、実際に球やアンプを選ぶ際のポイントについてもまとめてみよう。
Point1.生産国による球の特徴
例えば同じ300Bの球でも、メーカーによって音の特徴が異なる。岡田さんによると、生産国別にも特徴があり、ロシアはバランスがよく忠実な音質、比較的安価。チェコは豊かな響きを実現する。中国は高音域が得意で綺麗に鳴らす。アメリカは迫力のあるサウンドが得意とのことだ。
Point2.シングルアンプかプッシュプルアンプか
アンプにはシングル/プッシュプルの形式がある。シングルアンプは、出力管が2本ついており、ステレオのLとRに1本ずつ。出力は小さいが、小さな音から大きな音まで、素直で繊細な響きを生むことがメリット。出力は小さいため、高能率型スピーカーの方が好相性と言われるが、リスニング環境が甚大でなければ十分。
一方、プッシュプルアンプはLとRでそれぞれ2本ずつ使用。2つの増幅回路を逆方向につないで歪みを打ち消す仕組みを持っている。ただしバランスが崩れると逆に歪みの原因となるため、設計力が問われる。出力が大きくとれるため、現代の低能率型スピーカーも鳴らしやすい。多極管を使う場合は、プッシュプルによってその性能がより良く引き出される。
Point3.出力トランスとの相性
アンプには出力トランスと電源トランスという大きく重い箱がついているが、出力トランスと球の相性はもっとも大切で、音質の大きな決め手になるそうだ。鉄製のコアに、コイルが巻きつけられている仕組みだが、コアの素材や、コイルの巻き方によって音質が異なる。アンプビルダーによって球に合わせた設計がなされている。現代のアンプは、2Hz〜20kHzの幅位広い帯域に対応できる設計だ。
球の差し替えやヴィンテージ管は要注意
トランスとの組み合わせは非常に重要なので、球を差し替えたい場合は念のためメーカーに確認するのが安心だ。基本的に同じ名前の真空管であれば差し替えは可能だが、同じ300Bでも出力に改良が加えられたものもあるという。場合によっては真空管の寿命が縮まったり、トランスが焼けてしまうこともあるので要注意。
その意味で、ヴィンテージ管には簡単には手を出さない方が賢明だ。この取材で貴重なヴィンテージ管を見せてくれた岡田さんだが、それぞれ寿命が不明であること、プッシュプルアンプではバランスがとりにくいことなどから、現行品を使うことが最善だと教えてくれた。
最終的には、自分がどんな目的で、どんな好みで使用したいのか、自分の耳で判断することが一番大切だと岡田さんは言う。