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シングルFETのA級「Larson」と最新ICEPOWERのD級「Crosby」

A級アンプとD級アンプはどう違う? M2TECHの“ロックスターシリーズ”で徹底検証!

公開日 2022/09/13 06:30 土方久明/菅沼洋介(ENZO j-Fi) 構成:ファイルウェブオーディオ編集部・筑井真奈
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回路パスを短くして純度の高い音を出力



編集部 というところで真打ちのA級アンプ「Larson」の試聴に移りましょう。

ほぼ立方体形状のM2TECH「Larson」。Crosby等と同一サイズの本体部分を縦にし、左右にヒートシンクを取り付けたかたちとなっている

菅沼 A級パワーアンプというともう世界各国のオーディオブランドが取り組んでいるジャンルですが、今回の「Larson」にはM2TECHにしかできない技術がかなり投入されています。内部回路的には非常にシンプルで、FETシングルの構成なんですね。シングルエンドでA級で、回路パスを短くして純度の高い音を出力しようという思いがあるようです。ただこの構成だけでいうと、他のブランドにも同様なものはあります。

土方 ではLarsonの独自性はどこにあるのですか?

菅沼 これはA級アンプそもそもにまつわる課題ですが、どうしても筐体が大きくなってしまいます。熱が出るのでヒートシンクも必要ですし、内部にAC/DCのトランスも必要です。どれだけ増幅回路自体をシンプルにしても、付随する部分が大きくなってしまいます。

土方 それはA級アンプである以上、致し方ないことだと思っていましたが…。

菅沼 そうなんです。そこを解決しようとしたのが今回のLarsonなんです。まずこのLarsonをよく見てもらうと、左右の金属部分はヒートシンクで、真ん中の黒い部分が本体になっていますね。この黒い部分は、YoungやJoplinの本体の部分と同じサイズで、ちょうどそれを縦にした形になっています。

土方 本当だ! つまり、A級の増幅回路本体をこのサイズに収めたということなんですね。

菅沼 なので、これまでのA級パワーアンプに比べると、圧倒的にシグナルパスが短くなっています。さらに加えて、この巨大なACアダプターが付属します。LarsonはACアダプター駆動なんですね。

Larsonに付属する電源アダプター(左右それぞれに1台ずつ必要)

土方 おお! ACアダプターというのはこれもまたチャレンジングですね。

菅沼 これも内部に電源回路を入れてしまうと筐体が大きくなってしまうので、もう外に出しちゃえ、という発想からできています。しかもこのACアダプター、48V/5Aという出力です。いまACアダプターも進化していますので、A級アンプも鳴らせるだけの電力供給が得られるんです。これで片チャンネル20Wの出力を得ています。そして最後にもう一つありまして。ACアダプターにすることで、Larson内部の保護回路を取っ払うことができたんです。

土方 なるほど。保護回路がないシンプルな回路という意図は非常によくわかります。

菅沼 今回、保護回路はLarson本体ではなく、ACアダプター側に入っています。もし異常出力を検出した場合は、ACアダプターでシャットダウンしてくれるんです。なので、ACアダプターにすることで一石三鳥(笑)になっていて、筐体サイズを小さくすること、増幅回路のシグナルパスを最小化すること、そして保護回路を取っ払うという3つのメリットが生まれているんです。

土方 これはすごく考えられていますねぇ。その代わり、使い方に注意が必要になりますね。

菅沼 はい、電源が入った状態でケーブルを抜き差ししたりするのはダメなので、そこは注意してください。あと、触ってみてもらうと分かるのですが、電源を入れてから目が覚めるまでにそこそこ時間がかかります。

土方 うわ。これはかなり熱いですね。素手で持ち上げるのはちょっと厳しいです。

菅沼 しっかり温まった状態で音楽を再生してもらいたいので、通電の時間はしっかり取ってもらいたいと思います。でも、やっぱりそれでもケーブルを変えたりしたい場合もありますよね。その場合には、裏側に入力セレクターがあって、真ん中はミュートになっているので、ミュートの状態ではケーブルを差し替えても大丈夫です。

「Larson」の背面端子。XLR、RCA入力が各1系統というシンプルな構成。中央のスイッチで入力切り替えとミュートが行える

編集部 ちなみに、1台のステレオパワーアンプではなくモノラル2台で、というのはどういうこだわりなんでしょうか?

菅沼 やはりそれも「シグナルパスの最短化」を意図してのものです。スピーカーを左右に設置し、なるべくその近くにモノラルアンプをそれぞれ置くことで、スピーカーケーブルを短くすることができますね。太いケーブルを使うよりも、短いケーブルのほうが高いダンピングファクターによるスピーカーの制動を高めることができると考えているのです。

編集部 なるほど、機器内部だけではなく使いこなしの部分でも「シグナルパスの最短化」によるメリットを享受しようということなのですね。

土方 そう考えると、オーディオ機器の音質をどう高めていくか?という基本に沿った設計をやっているんですね。基本に忠実でありながら、最先端のデバイスをどう活用するか、ということにM2TECHらしさがあるのかもしれません。

菅沼 48A/5VのACアダプターが出てきたのも最近の話ですから。そういう今の技術を貪欲に取り入れているということはあるのかなと思います。

編集部 ではまた先程と同じガーシュウィンのピアノ・コンチェルトを聴きましょう。

♪デニス・コジュヒン(ピアノ)、山田和樹(指揮)、スイス・ロマンド管弦楽団 ガーシュウィン:ピアノ協奏曲 第3楽章


土方 いや、これはちょっととんでもないアンプですね。音の鮮度がまったく別物で、一個一個の楽器の表現力も別次元ですね。音楽との距離感が近い、僕の好きな音の出方をしてくれています。

菅沼 いま、ゲインの違いも考慮してだいたい同じくらいのボリュームになるように調整したのですが、でもこれはもっともっとボリュームを上げたくなる感じですね。

Larsonの表現力に土方氏も感激!

土方 Crosbyだけ聴いていればこれも非常に良いアンプだなと思いましたが、Larsonの力には改めて圧倒されます。ハイレゾのメリットとして、AD変換時に分解能が高くデジタル化できるので、いままで消えてしまっていた質感や空間表現がしっかり記録されているんですね。それを最終のアンプまで持ってきた時の音質にずっと魅力を感じていたのですが、このLarsonはそれを全部出してきている、という感じがしますね。

菅沼 D級では音が止まっているというか、限界が見える感じがありますね。

土方 高音質な音源を再生するということにオーディオならではの楽しさがありますよね。音色にはCrosbyと共通した部分も感じますが、質感表現や音の躍動感、微妙なニュアンスはより引き出されているように思います。先程シグナルパスを短くするというお話がありましたが、その利点がしっかり出てきていると思います。小レベルの音がスポイルされなくて、音のデプスが3倍くらい違いますね。いや、ぐぅの音も出ないというのはこのことかと。

菅沼 Crosbyはモノラルで110W、Larsonは20Wなんですね。ただ20Wでもこれだけ鳴るというか、爆音は厳しいと思いますが、現実的に部屋で鳴らすボリュームとしては十分で、歪みも感じられないです。

土方 やっぱりいまのアンプは、W(ワット)数だけで判断はできないですね。

菅沼 最後に、最初のEDMをもう一回かけて低域の感じも聴いてみましょうか。

♪チャーチズ 「Leave A trace」


土方 これも最初の出音ですぐ分かりますね。ワイドレンジで歪感がない。さっきのCrosbyはEDMらしいというか、電子楽器らしい表現だなと思いましたが、Larsonで聴くといかにも「ハイファイ」という感じがしますね。あと音楽性の高さもあって、音楽に入り込めるような感じがありますね。もっと高いクラスのアナログアンプのような感触もあります。

菅沼 タイミングが揃っている感じもしますよね。

土方 駆動力があって音の鮮度が高くて、聴感上のダイナミックレンジも広くて、よく作ったなという感じがします。

菅沼 増幅回路がシンプルな分、細かいところが出音に出てきてしまうところがあるんです。シンプルさを追求した結果が、駆動力や鮮度の高さ、微弱音の表現に効いてきているような気がします。

土方 ノイズフロアも低いし、透明感もあって、しかも低域の迫力もしっかり出ています。

編集部 先程、音色ではCrosbyと共通する部分があるとおっしゃっていましたが、M2TECHならではの世界観というのは感じますか?

土方 それはやっぱり「音楽が楽しい」ってことですよね。情報量があって、音数が増えて聴こえるので、楽器のニュアンスも見えてくるようになります。

菅沼 特にロックスターシリーズからは音の色彩表現が豊かになったように思います。それだけ表現幅も広がり、より楽しい音になってきていますね。

土方 特にアコースティック楽器は、微妙な階調表現が豊かになったことで、アーティストのテクニックが伝わってきますね。ペア100万円を切るアンプで、こういう音が出せるのって貴重なんじゃないかと思います。

菅沼 確かに、近年鳴らしづらい大型スピーカーが増えてきたので、アンプも回路規模が大きく、ハイパワーなものを求められるというのもあるかもしれません。

オーディオにはロマンが必要!ブルーノートのジャズで再確認



編集部 土方さんとしてこのアンプで聴きたい音楽ジャンルやアーティストはありますか?

土方 僕はもともとジャズが好きなのでジャズもいいですね。でも、ここまで根本的に能力が高いと何でも聴きたいですよね。

菅沼 せっかくなのでジャズ聴きましょうか。

土方 では僕の好きなブルーノートから。リー・モーガンの「キャンディ」、ブルーノートのXRCDからリッピングした44.1kHz/16bitの音源です。

♪リー・モーガン「キャンディ」


土方 いやーこれはアナログのオリジナル盤聴いているみたいですね!

菅沼 流石にそれは言いすぎじゃないですか(笑)。でも、すごく音楽が楽しくなってくるというのは非常によくわかります。

土方 言いすぎかなぁ(笑)。でも、グイグイ来る感じとか、反応の良さもありますね。スパーンと出てきて、高効率のホーンで聴いたようなスピード感があります。

編集部 それと、モノラル2台のメリットのひとつとして、1台が10kg強なので、ひとりでも持ち運びできますよね。もしこれがステレオならば20kgを超えてしまうでしょうし、それだとなかなか動かすのは億劫ですね。配置換えや、聴き比べなどを一人でも気軽にできる、というのも実際の使用現場では大切なことのように思います。

土方 確かに、アンプを動かすのに友人を呼んでくる必要があるのは、それももちろん楽しさですが、気軽に一人でできるというのも大切ですね。

菅沼 Larson、これはM2TECHの自信作だと感じています。音楽を聴くというより音楽に入り込んでいくというか、それはオーディオを追求した先にあるものなんじゃないかなぁと思いました。

土方 M2TECHブランドは、本当にオーディオならではのロマンを追求している魅力がありますし、間違いなく価格以上のコストパフォーマンスがあると思います。ぜひ皆さんにも聴いていただきたいですね!

取材Photo:高橋慎一

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